佐野の証言
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
川村 真人 (22) 西正大学法学部法学科4回生
吉岡 勝 (故人) 同 教授
佐野 優奈 (22) 同 4回生
坂倉 俊之 (54) 同 法学部長
佐野は大学の教室で、携帯で時間を確認していた。午後4時。学生課の呼び出しを受け、電話越しで学生課職員に言われた場所で待機していた。
彼女自身、何故、この教室に呼ばれたのか見当もつかず、近くの席に座って、待っていた。
数分経った時後ろの出入り口のドアが開き、2人のスーツを着た男女が現れ、男性が謝りながら佐野の所まで近づいて、挨拶をする。
「いやー。すいません! お時間を取らせてしまいまして、なにせ、交通渋滞に遭いましてね。ここに来るまでに時間がかかりましたよ。あっ、申し遅れました。私、警視庁刑事部捜査一課警部の徳永です後ろにいるのは、部下の高山巡査部長」
高山も彼女に向けて挨拶を交わした。
「こんにちは」
「ど、どうも」
2人の女性が挨拶を交わし終えたのを確認してから、徳永は佐野に話をし始める。
「先日は大変でしたね。あなたも現場にいたんですよね?」
「え、ええ」
「病院で川村くんの付き添いだったとか……」
佐野は少し徳永の笑顔に対して気味悪く感じてしまい、目をそらしながら答えた。
「ええ、彼、他の人と非難する時に、パニックになった人に押されて転倒してしまって気を……」
「なるほど。大変でしたね」
本題に入ろうとしない刑事を見かねて、恐る恐る呼び出された事について訊く。
「それより、私に用があるとお聞きしたんですが?」
佐野の言葉を受けた徳永は、1度軽く咳払いをしてから本題に入った。
「ああ、失礼。今回の被害者の吉岡勝准教授についてお話がありましてね」
「何でしょうか?」
「実を言うと吉岡さんの携帯通話記録を拝見しましてね。相当な数あなたに電話しているものですから。どういった内容かなと差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
佐野は戸惑いを感じて口ごもりながら、言葉を返すのに否定的な事を示す。
「それは……」
徳永も佐野が嫌がる理由をなんとなくだが、悟った。しかし、簡単に引き下がる警部ではないから、見解を踏まえた意見を彼女に言った。
「やはり、難しいですよね。個人的な見解ですが、吉岡さんの死について、あなたの通話の関係は結構重要なのではないかなと思っているんですよ」
佐野はまるで理解していない表情を示している。
「えっ? どういう事ですか?」
徳永は自分のジャケッ卜、ズボンのポケットを探りながら、説明していく。
「吉岡さんは、コンクールの後、教授会で何かを報告しようとしていたんですよ。えっと、どこだったかな? あっ、高山くん通話記録、持ってる?」
「待ってください」
高山はカバンから紙の束を取り出して、1枚1枚めくっていき、書いてある内容を比べていく。
ある程度めくった所で通話記録を見つけ、警部に手渡した。
「あった。これです」
彼女から、被害者の通話記録を受け取り、徳永は佐野に見せながら説明する。
「これだ。ありがとう。高山くん。で、この報告書なんですけどね。ほとんど燃えてしまって見るのも難しいんですけど、何かを告発しようとしていたんですよ」
佐野は通話記録の事について、目をそらし、知らない様な素振りをしながら警部の話に聞き返した。
「でも、それが私と何か関係があるんですか?」
拉致があかない事を見越した徳永は、彼女に告げる。
「あなた。吉岡先生に依頼され、内偵を行っていましたね?」
「えっ!?」
高山が驚きの表情を示しているが、それを気にせず徳永は自分の考えている見解を述べた。
「佐野さん。これは私の予測ですが、あなたは吉岡先生に内偵を頼まれた。内容は、吉岡先生が担当していた講義のテスト内容流出調査でしょうかね。あなたはその流出の特定を追っていた」
徳永は説明を付け足していく。
「もちろんそれについての証拠はありません。あくまで推測です。あなたは頼まれてやった。それを電話で報告した。おそらく、あなたが複数回電話をしていたのは、その場で起きたことを報告していたからそうですよね?」
「いや、忘れてください。どうもお手間を取らせてすいませんでした。では行こうか。高山君」
「はい」
踵を返し、教室の出口へと向かい歩き始めようとし徳永が教室のドアノブに手をかけた瞬間、後ろから佐野の声が、徳永の動きを止めた。
「待ってください」
警部は後ろを振り向いて彼女の表情を見つめる。
彼女は何かを決心した様な様子だった。
「待ってください。話します」
徳永は手にかけていたドアノブから外れ、佐野の方に体を向ける。
高山も同じ様に向けた。
「刑事さんのおっしゃる通りです。吉岡先生に必修科目単位取得の見返りとして、内偵を頼まれました。刑事さんの言うとおりです。テスト内容の流出が起きていた事、それが裏で1問、万単位で取引されてたんです」
徳永は佐野の言っている事について、うんうんと頷きながら聞いている。
高山は、手帳を取り出して佐野の話を聞きながら、メモをとる。
彼女は続ける。
「私はすぐに、調べました。流出した場所と方法と犯人を。場所と方法は分かりませんでしたが、流出させた人間が誰なのか分かってたんです」
徳永はその人間の事について訊いた。
「ちなみに誰か教えてもらえますか?」
佐野は少し、黙ったあと決心したのか警部に告げる。
「川村くんです」
彼女の証言を聞き、警部の思っている人物かどうかを確認した。
「川村君って言うとコンクールでスピーチしていた彼ですか? 本当ですか?」
徳永の確認に対して、彼女は語気を強めて言う。
「はい。そうです! 彼でした。私はすぐさま先生に報告書と写真を送って、渡しました。そのあとは、『全部、僕がやるから、君は、何も知らなかったふりをしてくれ。撮った写真も捨てる様に。一応、川村の行動監視は教授会が終わるまで続けてくれ』って言われて……。だけど……」
「事件が発生し、吉岡先生が教授会に出る事ができなくなった」
彼女は、徳永の反応に軽く頷き、少し暗そうな表情を見せて言う。
「何が起こったのか分からなかったんです。気付けば私は、川村くんに付き添っていました」
徳永は佐野に礼を言った。
「なるほど。そうですか。大事な証言をありがとうございました」
「あの。宜しくお願いします!」
彼女の口から出た頼みを徳永は、快く受け取り、告げる。
「任せてください。あっ、後、1つ質問があった。あなたもコンクールの会場のスタッフとして関わったりしました?」
首を縦に降って、佐野は警部に返答した。
「はい。会場のセッティングスタッフとして、前日準備に関わっていました」
「その時、消火栓から警報はなりましたか?」
彼から出た質問の内容について、当時の自分が行った事を頭をフル回転で思い出させていく。
ある程度答えが見えてきた時、佐野は徳永に返答した。
「警報ですか? ……いえ、警報は鳴ってなかったです」
徳永は再度、確認する。
「それは本当ですか?」
佐野は、答えた。
「ええ、ここの消火栓のサイレンは、外でも聞こえるくらいの音ですから、学生課の職員さんに聞いてみると良いかと……」
「そうですか。どうもありがとうございました。行こう。高山君」
「あ、はい」
徳永は佐野に礼を交わして、教室を出ていった。高山も同じ行動をしてから後を追う。
1人、教室に残った佐野はとても不思議な感覚に包まれていた。
第20話です。 とうとうここまできましたか。話は続きます!!
20話を突破いたしました。いつも読んで頂き有難うございます!




