殺害計画進行中!
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
川村 真人 (22) 西正大学法学部法学科4回生
吉岡 勝 (45) 同 教授
佐野 優奈 (22) 同 4回生
-1日後。ゼミナールコンクールまで、6日-
今日は、ゼミナールコンクールのゼミ発表練習。大会の場所は、大学の3号館2番教室。川村が所属する大学の建物の中では2番目に大きい教室だった。出来たら一番目の教室が良かった。
その方が客の入りで判断が多ければ多いほど、自分が怪しまれずに済む。
教室内の席は、全部で25席×15列。約300人が入る。当日のゼミナール大会は、200人限定となる予定。
件の吉岡は一番左端のDの席に座る。いわゆる特等席だ。隣の壁には、壁に備え付けられた警報付き施設用消火栓があった。
川村は、ステージに上がり、場所を確認していく。丁度、良い感じに見渡す事ができる。奴が座る場所も、しっかりと良い視線で見る事ができた。
【場所もしっかりしている。爆破にはちょうどいい場所だろう。多少、負傷者の数も見込めそうだが、そこについては致し方ないな。次は、仕掛ける場所だな】
発表練習を終えて、ステージに降り、今度は、客席となる大学列席へと移動して確認していく。今度は爆弾を仕掛ける場所を探し始める。
川村はよさそうなポイントを当たっていくと、悩んだ中で、特等席近くの施設用消火栓が目に止まった。
どうやら大学側はメンテナンスを怠っているらしい。
消火栓をいじってもサイレンが鳴る事も赤い非常用ランプが輝かしく光る事も無く、爆弾を仕掛ける場所には丁度、良い場所だった。
「ふむ……なるほどね。丁度、良いかもな」
しっかりと椅子の構造を川村は確認してから、その教室を後にする。歩きながら彼は、計画の穴を修正していき、完璧な殺人の計画を脳内で作り上げていく。
しかし、障壁はすぐ目の前にあった。
その障壁の正体は、《爆弾の火薬をどこで仕入れるか?》
でも、それについては頼れると言える所があった。
「叔父の採掘工場からくすねればいい」
川村は決意し、爆弾の火薬を取りに行く為に、工場へと向かう。
-2日後 ゼミナールコンクールまで、あと4日-
発表まで、近くなってきている。ゼミナールコンクールは、参加する学生にとって大きな大会であり、軽いミスが通じないイベントでもある。
川村はステージに登壇し、ゼミ発表の練習をしながら場所をもう一度しっかり確認する。
ゼミナール大会のスタッフの口から聞いた所によると、今回の大会は現役の都議会議員が来る予定で、ケーブルTV局だが、大型のカメラも当日には来るらしい。彼は、その事について不安と期待の両方だった。
期待できる要素として、カメラが自分の犯行時刻についてのアリバイを作ってくれる事。逆に不安な要素として、犯行後のトップニュースの映像でカメラの映像が使われる可能性がある事である。
どちらにせよ、川村にとってハイリスクハイリターンである事は間違いなかった。
彼の声がより大きくなる。
「レジュメ30ページの内容をご覧下さい」
数名の仲間のゼミ生達が一斉にレジュメのページをめくった。川村は説明しながら視線を色々な場所に向けた。
【爆弾を仕掛ける場所は、前もって決めていたあの消火栓に仕掛ける。大会前日の準備に前もって仕掛けておけば、バレる事もないだろう。威力の実験はできていないが、あいつさえ吹き飛べばいい。他の奴なんか知った事か!】
「となります。私の発表は以上です。何かご質問は?」
数分後、自分のスピーチ練習が終わり、溜め息を付きながら自分の定位置となる椅子に座った。
次は他のゼミ生によるスピーチ練習が始まっている。川村は腕時計を確認し、自分の発表で使った時間帯を割り出した。
「約25分か。発表の順番はどうなっていたっけ?」
川村はゼミナールのパンフレットを取り出して、当日の発表時間割を見る。
彼の発表は午後の部からになっているのは分かっていた。
《西正大学 ゼミナールコンクール 午後の部》
午後の部 開幕式 12:30~
増村ゼミ 3回生 北野 優子 12:40~
東郷ゼミ 2回生 安田 将吾 13:10~
吉岡ゼミ 4回生 川村 真人 13:40~
河瀬ゼミ 4回生 仁科 優奈 14:10~
休憩 10分間
佐々木ゼミ 3回生 玉木 雄一郎 14:50~
倉科ゼミ 3回生 榊 真也 15:20~
林 ゼミ 4回生 鴻上 尚美 15:50~
午後の部 結果発表 16:00~
閉会式 16:20~
【なんとかなるな。14:00なら爆破しても自分が怪しまれることはまずない。決まりだな】
川村は立ち上がり、休憩しに外へ出ていった。
-ゼミナールコンクールまで、あと1日-
前日になり始めてからは、大学では、商業戦争並みに忙しくなっている。
コンクールを諦めた者、ゼミナール大会を万全にする為、しっかりと準備するスタッフ。我こそはと言わんばかりに完璧な発表にする為に、打ち合わせをする教授と学生。
まさにゼミナールコンクールはビックイベントと言える。
しかし、ビックイベントの割には会場の警備はがっちりしているわけではない。勿論、関係者への扱いは緩い。幸い。川村はコンクールスタッフの1人として携わっていた為、比較的警戒もされていなかった。
川村は、スタッフとして夜遅くまでコンクールの会場準備をしている。彼と同じゼミで友人の佐野優奈が腕時計で時間を確認し、声をかけた。
「ねぇ、外で、集合だよ。川村君」
「ああ、先、行っててくれ。すぐ行くよ」
「うん」
佐野はそのまま会場を出て行く。
彼はそれを横目で見た後、会場である教室の一面に自分以外がいないかを確認。その後で、準備をしながら爆弾を仕掛ける予定の消火栓へと向かい、扉を開けた。
サイレンが鳴らない事を確認し、長方形の小包を中に入れた。小包の電源を入れてからしっかり扉を閉める。
【爆破の威力については前もって実験しているから心配はない。あとは問題なく当日に実行すれば、完璧だ】
脳裏に殺す対象の姿を思い浮かべながら川村は、会場を後にし、集合場所へと向かった。
集合場所には吉岡やその他のゼミの教授達がいた。
「よし、では、しっかりとやってくれよ。当日はよろしく!」
スタッフ達は、反応した。
『はい』
「では、明日はよろしく。解散!」
学部長の教授の合図でスタッフ達は準備から解放され、それぞれが帰路につこうと準備していた。
川村も話を聞いた後で、最後の確認をしに会場へ向かうと、吉岡が1人立って、いつもの特等席に座って、黒板を見つめていた。
それを見つけた川村はあえて吉岡に声をかけてみた。
「先生」
「ああ、君かね」
吉岡は立ち上がり、軽めの笑顔で告げた。
「発表楽しみにしているよ。最後になるね、君と会うのも……」
川村の脳裏には、吉岡を切り刻む妄想で一杯になっているが、口はしっかりとしていた。
「ええ、そうですね。でも最後までしっかりとした発表をしますよ。後悔はさせません」
「期待しているよ。まぁ、せいぜい頑張る事だ」
吉岡は、特等席から立ち上がり、会場を後にしようとした時、川村が声で止めた。
「先生」
先生という言葉に反応した吉岡は振り返り、川村を見つめた。
表情は少し、厳しい。
「なんだね?」
あえてこの言葉を川村は吉岡に向けて口にした。
「すいませんでした」
しかし、教授は1名の学生が言った謝罪に軽く鼻で笑い、そのまま会場を出て行く。
それに対し、鼻で笑われた川村は、静かに左の拳を力強く握り締め、特等席から近くの消火栓を見つめていた。
第2話です。 川村による殺人計画進行中でございますね。話は続きます。