表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

疑いの要素

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (故人)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

坂倉 俊之 (54)     同      法学部長

 徳永は、鑑識の職場を出て、そのまま自分の職場に戻ろうとした時。聞き覚えのある声が、彼の足を止めた。

「徳永警部!」

 対面側から、高山が書類を持って、徳永の方に近づいた。

「おっ、高山君。通話記録から何か掴んだのかい?」

「ええ、吉岡さんの通話記録を当たったんですけど、最近、頻繁に電話をかけている相手がいたみたいです」

 高山は、通話記録の入った書類を手渡した。

「」

 警部は彼女の言葉を聞いて興味津々に渡された書類を見つめる。

 書類の文面に、電話の発信時間と通話時間、電話の相手の番号と名前がしっかりと記録されていた。



《17:34 サノ ユウナ 通話時間 3分24秒》



《18:00 サノ ユウナ 通話時間 4分13秒》



《18:10 サノ ユウナ 通話時間 3分20秒》



《19:32 サノ ユウナ 通話時間 5分11秒》



「この通話記録。事件発生の前日だね」

「ええ、でもこれだけじゃないんですよ。この人に何度かかけているみたいです。しかも1日1回だけじゃないんですよ」

 徳永は1枚1枚記録を確認していく。

 すると、《サノ ユウナ》という人間に1ヶ月の間に数十回も電話をかけている事が理解できた。

 無言のまま、彼は書類を高山に返す。

「高山君。その書類そのまま持ってきて」

「えっ?」

 徳永は彼女に言う。

「今からその人に話を聞こう。何かを知っているはずだ」

「ええ、それともう1つ」

「うん?」

「採掘場で火薬が盗まれた事件。今、担当所轄の方が報告に来ていて、これコピーなんですが……」

 高山はもう1つの書類を警部に手渡した。そこには、採掘場で起きた火薬の盗難についての報告書が記載されていた。

 会社の代表者の名前が記載されている。徳永の目は代表者の名前で止まった。



『レッドポイント社 代表:赤崎 茂樹 旧姓:川村』



「そうか……固まってきたよ。この爆破事件の全貌が。とにかく今は、この佐野という人に会ってみないとね。行くよ。高山君」

 徳永はそのままエレベーターに向けて歩き始める。

「えっ、あっ、ちょっと待ってくださいよ!」

 高山は急いで、自分の机のある職場に置いていたカバンを取りに戻り、急いで徳永の跡を追いかける。

 まだ、彼はエレベーターが来るまで待っていた。

 彼女が、大きな足音を立てて、走ってくるのを警部は見て、咳払いをする。

「焦りすぎだよ。高山君」

「警部が早すぎるんですよ!」

「はいはい」

 徳永は適当にあしらい、エレベーターのドアが開いたのを確認し、鉄の箱へと乗り込む。

 彼は地下駐車場となっている箇所のボタンを押し、高山が乗り込んだ事を確認してから、エレベーターの出入り口を閉めるボタンを押し、閉じた。ゆっくりと2人の刑事が乗った鉄の箱が目的地の階へと動き出す。

 高山はエレベーターの移動表示を示しているデジタルの数字を見つめている徳永に訊く。

「警部は鑑識に行ってましたけど、何か掴んだんですか?」

「うん。充分な収穫だったよ。個人的に川村さんへの疑いがより強くなったよ」

 徳永が強調した容疑者の名前に高山は否定的であった。

「でも彼はスピーチもしていた途中で爆破されたんですよ? 彼も被害者ですよ」

「だとして、この爆破が、彼のしくんだものだった場合、どうなると思う? 彼が被害者を装っていた場合はどうだと思う?」

「えっ? そ、それは……」

 徳永の逆質問に対して、戸惑いを感じ、返す言葉も見つからず、彼女は口ごもる。

 そんな巡査部長に対し、徳永は落ち着いた様な口調で彼女に話す。

「爆破の位置が消火栓から起きているのが鑑識の調べで分かったんだ。爆弾を仕掛けられるのは、スタッフかそこに通う学生や職員の人間しかいないはずだ。もしくはコンクール当日に入った人物の誰かだろう。しかし、ここで消火栓が関わってくる」

 高山は徳永の話を頭で整理し、出てきた単語に引っかかったのを感じた。

「消火栓ですか?」

 徳永は頷き、自分の考えを加藤から手に入れた情報も小出しにしながら、巡査部長に説明をしていく。

「うん。消火栓は通常、開いたら、警報が鳴るはずなんだ。ほら。よくあるでしょ。耳をつんざく様な甲高い音」

「え、ええ」

「もし仮に、コンクール大会当日の会場で、消火栓に爆弾を仕掛けていた場合、警報がなっているはず。しかし、ならなかった。ここまで理解できるね?」

 徳永の説明に高山もある程度、納得した。

「ええ、そうですね。開けたら警報が鳴りますもんね」

 徳永は、彼女の反応を感じ取った後で自分が考えた事につついて彼女に言う。

「考えられるのは消火栓が故障していたかもしくは……」

 高山は徳永が言おうとした言葉を代弁する。

「会場をセッティングする時に誰かが仕掛けた。もしくは前日や別日に仕掛けていた!?」

 高山は自分で言った事の内容に、軽く驚いたような表情を徳永に示す。何か気づいた事に対して丸眼鏡の警部は、レンズを光らせた。

 彼は話を続ける。

「そういう事だよ。高山君。で、更にここで考えて欲しいのは会場スタッフの中で、一番、現場に携わっていた人間が誰かだよ」

「まさか!?」

 徳永は、更に説明を加えた。

「それに君が渡してくれた火薬盗難事件の報告書の代表者の名前に旧姓で川村ってあるだろう? これがが偶然だと思うかい?」

 彼女もそれに対してある程度、納得はしている。

「た、確かに……」

 エレベーターは既に止まり、ドアが開いていた。

 フロアには数台の警察車両や停まっているのが見える。

 徳永は、狭い鉄の空間から出て、巡査部長との距離が少し出来ていた。

「まぁ、行こう。話を聞きに……行くよ。高山君」

 高山は急いでエレベーターを降り、徳永の後を追いかける。

「は、はい」

 2人は、徳永の愛車である4WDに乗った。

第19話です。


話は続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ