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坂倉の証言

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (故人)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

坂倉 俊之 (54)     同      法学部長

― 西正大学 法学部研究棟 法学部長室 ―

 


 時間は12時を周り、3人の人間が応対用のソファーに、徳永と高山、その対面に白い髭を左人差し指と親指で撫でている坂倉が座っていた。

 徳永は坂倉の姿に対して、営業ビジネスの笑顔で対応する。

「坂倉さんは現場にいなかったわけですね」

 対面側に座っている坂倉は首を縦に振り、髭をいじりながら、自分の事件当時の状況を再度、語った。

「ああ、いなかったね。私は、会議室でその事実を知ったからな。そこの彼女も知っているだろうが、私は法学部の教授会の方にいたのでね。実質、現場の状況を知ったのは、現場から火が上がってからだったよ」

 徳永は坂倉の話を聞き、質問を続けていく。

「事件当日に吉岡さんに会いましたか?」

「ああ、一度だけ。彼の研究室で顔を合わせて今後の予定の話をした程度だよ。それが?」

「何か不可解な点とかありませんでしたか?」

 坂倉は徳永の質問に対して、若干、困惑した。たいして気にしていなかった事柄について質問されたからである。

 少々、時間をかけて、昨日の出来事について自分の記憶を巻戻して考え、彼は徳永に答えた。

「うーん。不可解な点とは言えんが、慌ただしかったという一言がぴったりだろうね。彼は、ゼミナール大会も控えてその後、教授会だからな」

「多忙だったと?」

 坂倉は頷いた後で、置いていた紙コップのお茶を自分の喉元へと注いでいく。

「うむ。……そう言えるな」

 高山は、ずっと手帳に坂倉の証言を細かく記していく。

「なるほど」

 徳永は高山の状態を横に、坂倉に事件捜査の協力の礼を送る。

「充分、参考になりましたよ。ありがとうございます」

「いやいや、構わんよ。おっと、もうこんな時間か……」

 時間は、12時20分。講義開始まであと10分になろうとしていた。

 ため息をつき、坂倉は自分の心を落ち着かせながら、対面側にいる刑事2人に告げる。

「本当なら、講義も中止するべきだったのだが、一応、今回の事件についての説明もしなければならんのでね。講義と一緒に説明したほうが得策だろうと思ってね。12時半からある講義で言うつもりだよ。構わんかね?」

 高山は若干、困惑した様子で徳永を見つめた。

 その隣で徳永は、淡々と答えた。

「事件についてはなるだけ発表は控えて欲しいのですが、ある程度の事件についての概要は、学生さんにも伝えておくべきことはあるでしょう。注意喚起として……」

「そうだな。じゃあ、構わんね」

 そう言った後で、坂倉は、紙コップに残ったお茶を飲み干す。

 徳永も彼の言葉に対して笑顔で答えた。

「ええ。どうぞ。まぁ、なるだけ事件の事については避けてくださいね。あ、あと、こちらもお願いがありまして」

 坂倉は紙コップを応接用のソファーテーブルに戻し、両手をソファーの手すりに置く。

「ん? なんだね?」

「10分ほど、お時間を頂きたいのです。注意喚起という事で」

 坂倉の対応は即決だった。

「ああ、分かった。いいだろう。ならば、講義の初めに言う必要があるな」

「お願いします」

 坂倉は応接用のソファーから立って、自分の机の引き出しから、書類と刑法の冊子、今年の六法辞書を取り出し、自分のカバンの中に入れ始める。

「いいんですか? 警部」

 高山は、若干、心配そうに、徳永に問う。

 徳永は、落ち着いた口調で、淡々と答えた。

「大丈夫だよ。事件についての公言はしないという事だし。今回、登壇させてもらうのは、今後の注意喚起というやつだからね」

 坂倉は座っている2人の刑事に向けて質問した。

「教室はわかるかね?」

 徳永は笑顔で返す。

「いえ」

 彼の笑顔に対して坂倉は苦笑いをしながら、言葉を返した。

「では、一緒に来るといい」

「お言葉に甘えて」

 徳永はソファーを立ち、自分もいつでも教室へと迎える準備をする。

 高山も立ち上がり、手帳をカバンにしまいこんだ。

 坂倉は自分の荷物が入った鞄を持ち、研究室から出ようとする。その前に、2人の刑事をエスコートして研究室から外の廊下へと出て行かせる。誰もいない事を確認してから研究室を出て、鍵を閉め、札を差し替えた。



《講義中により 閉室》


 

「行こうか」

「はい」

 坂倉が先頭、その隣に並んで歩く徳永。その後ろを高山が後を追う形で教室へと向かう。歩きながら法学部長は、独り言の様に呟いた。

「まさか、ここで爆弾テロが起きるとはね。人生わからんもんだよ」

 徳永は、呟いた内容を耳にして、あまり刑事として口出しをすると余計なことになりそうだと、本人自身理解し、なるだけ悟られない様に訂正した。

「どうであれ、なんであれ必ず犯人を捕まえますよ。犯人はテロを起こした上に1人の命を奪った殺人犯でもありますからね」

 徳永自身の口から出た言葉は坂倉にとって、重く響き渡った。

 風貌と態度からして刑事とは思えないが、少なくとも刑事としての精神は誰よりもあると坂倉は感じた。

「流石、刑事さんだな。法律家や弁護士とは大きく違うな」

 徳永は軽い微笑みで坂倉に返す。

「勿論ですよ」

「ここを出て、そのまま左へ行けば、講義を行う3号館へと行けるんだ」

 3人は研究棟を出て、坂倉は施設の説明を徳永と高山に向けて説明しながら、教室へ向かった、


第15話です。


話は続きます。

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