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再会した2人

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (故人)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

坂倉 俊之 (54)     同      法学部長

 川村はバスの座席に座って、走行道路とタイヤの影響によって生じる振動に揺られながら大学へ向かう。

 その間で、自分が徳永に疑われている可能性を考えてみる。




【あの刑事、最初、本職の人間とは全くかけ離れていたな。それに何だ? あの質問は? どう考えても疑いをかけてきやがっていた。なんとかあの場を過ごせれたのは、良かったもののこれからは危険だな】




 バスに取り付けられてある内部スピーカーから女性の声で到着地のアナウンスが入る。

『次は、健康文化センター前、健康文化センター前です』

 1人の老人がボタンを押した。

『次、止まります』

 アナウンスの声によって川村が浮かんでいた考えが1度、途切れるが、すぐ物思いにふける。




【とにかく、自分のマイナスになる要素は消し去ったんだから、なるだけ自分からは行かずに相手から来る事で受け答えする様にしていこう。その方が楽だ……】



 バスの窓に映るいつもどおりの景色を見て、自分の心を癒しながら、椅子に座る。

 アナウンスは川村が目的としている地の名前を呼んだ。

『次は、西正大学前、西正大学前です』

 彼は窓の隣に備えられたボタンを押した。

『次、停まります』

 バスはゆっくりと走行し、停留所へと向かう。時間を携帯の時計で確認し、カバンを持って席を立ち、支柱を片手でつかみながら、体を揺れから守り、停留場に着くまで待機する。

 横付けで停留場であるスペースに停めた。

 電子カードで支払いを済ませて、川村は開いている出口から降りる。

 再びドアを閉めてバスは走行し始める。

「よし、行くか」

 彼は歩き始め、正門から大学へ入った。講義スタートは12時半。時間的な余裕はある。

「ちょっと時間はあるな。昼飯食ってからにしよっ」

 川村は、学生食堂へと歩き、自分の小腹を満たす為に向かった。

 構内を歩いている途中で、見覚えのある色のしたスーツを着た男が川村の方に向けて歩いてくるのが見えた。

「あれは……」

 丸眼鏡で短髪の男、どこかで見た風貌、川村の嫌な予感は的中した。

「あれ? 川村さんじゃないですか!」

 丸眼鏡の男は、歩きながら正面にいる川村の存在に気付き、近づいて来る。

 川村は、小さくため息を着いてから丸眼鏡に挨拶をした。

「どうも。徳永さん。捜査はどうですか?」

 徳永は、痛い所を突かれた様な表情で返している。

「なるほど、進展はナシってわけですね」

「ええ。色々と調べてみて、テロの可能性は低いかと……」

 川村は自分の顎に左手をさすらせる。徳永は依然として苦い表情を続けていた。彼は、警部に訊く。

「現場の実況検分ってやつですか?」

「いいえ、今回は吉岡さんの上司にあたる坂倉法学部長にお話を伺う予定でしてね。それで」

「なるほど」

 河村は頷いて反応しているが、内心は、目の前にいる男性に対して疑念と不安を抱いていた。

 そんな中で、徳永は川村に訊く。

「あなたはこれから講義ですか?」

「ええ、12時半から。しかも、刑事さんと会う予定の坂倉先生が担当する刑法Ⅰです」

 徳永は興味を示しながら川村の話を聞いている。

「それは面白そうですね」

「参加してみてはいかがですか?」

 川村の誘いとも言える言葉に対して、徳永は苦笑いをしながら彼に対して返した。

「でも、職務がありますから……おっと、坂倉さんを待たせてはいけませんからこれで」

 徳永の言葉を耳にした後で、自分も当初の予定を思い出す。

「あっ! 僕も食事しに行くとこだったんだ。では、捜査、頑張ってくださいね」

「では……」

 お互い軽く礼を返した後で、目的の場所へと歩き始め、すれ違う。その途中で徳永は足を止め、踵を返し、大きな声で川村の名を呼んだ。

「川村さん!」

 背後から響く警部の声を彼は受け止めて、後ろの方に体を向ける。

 内心は、何か危険な状況を感じ、緊張が走っている。

「何ですか?」

 川村の言葉を聞いたあとで、徳永は言葉を放つ。

「犯人は吉岡先生の位置をよく分かっていた人間なんですよ。知っていましたか?」

 彼の言葉は川村にとって衝撃だった。内心がはちきれるのを押さえながら、徳永の言葉に反応する。

「いいえ、初めて知りました。どうして?」

 徳永は、表情を変えることなく、笑顔で川村に向けて説明を始めた。

「あの会場、カメラがありましたよね?」

 川村は緊迫ではちきれそうな内心を力強く押し殺しながら頷く。

「ええ、後ろの真ん中にありましたね」

 警部は説明を続ける。

「先生の姿が写っていたんですよ。あの真ん中のカメラの映像に……カメラは、あの時動かしてなかったそうですよ。ご存知でしたか?」

 川村はあまり理解できている表情ではないのが徳永も理解できた。

「いや、気づきませんでしたね。僕は発表で集中していたもので……」

「そうですか? あの礼のタイミングはぴったりでしたがね」

 両手を肩の位置まであげて、知らないふりを彼は示す。

「偶然でしょう。実質、発表して、吉岡先生が移動している事なんて気にしていたら発表なんて出来ていませんよ。おっと、行かないと、また何かあったらいつでもどうぞ」

 川村は挨拶と礼を警部に返し、再び食堂に向けて歩き始めていった。

 徳永は川村の背中を見つめながら呟く。

「ええ、そうします」


第14話です。


話は続きます。

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