加藤からの報告
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
川村 真人 (22) 西正大学法学部法学科4回生
吉岡 勝 (故人) 同 教授
佐野 優奈 (22) 同 4回生
― 西正大学 ―
徳永と高山が乗った4WDは、大学の一般客専用の駐車場に停め、車から降りた。ここからはそれぞれが別行動に入る事になる。
警部はそのまま現場に行って、捜査と確認。その間に高山は、前もって徳永がアポイントをとっていた法学部長の証言を聞きに、先に研究棟へと行く事になった。
「高山君、行こうか。僕は、現場についてもう少し確認してから行くよ。高山君は、法学部長に話を聞いてきてくれ。念の為に……アポイントはとってあるから」
眼鏡の外縁を触って、丁度良い位置に丸眼鏡が来る様、徳永はちょうど良い位置に眼鏡を固定し、ずれていない事をカーブミラーで確認した。
「分かりました。何か聞けるといいのですがね……」
大学内の途中までは、2人は共に歩き始めていく。
「事件当時は色々とすごかったから多分、色々、聞けると思うよ」
歩いていく途中で徳永のポケットから携帯のバイブレーションが響く。
ゆっくりと微弱の振動が震えているのを感じて、徳永はポケットから携帯を取った。携帯を開き、通話相手の表示に《加藤 啓太》と示しているのを理解した。
「ああ、加藤からだ」
「何かあったんですかね?」
警部は、高山に返しながら携帯電話のスピーカーに軽く耳をつける。
「出てみて分かるよ。はい。徳永」
『おっ、かかったな。今、大丈夫か?』
徳永は、加藤の言葉を聞いて軽く笑顔で返した。
「構わないよ。何か進展があったのか?」
モニターに鑑識の職場にあるモニターに写し出されている映像を確認しながら加藤は、告げる。
映像は、TVダイブが撮ったゼミナールコンクールの爆破までのシーンが切り取られて、部分的に再生と巻き戻しが繰り返されている。
『実はな。爆破されたポイントについて、やはり、予想していた通りだったよ。施設用の消火栓からだった』
徳永の予想は当たったらしく、少し自信ありげに言葉を加藤に向けた。
「やはり、正解だったね。それで、何か分かったのかい?」
加藤は席を立ち、自分のPCがある所へ移動しながら話していく。
『勿論さ。それだけじゃねぇぞ。爆破の方向、威力、分析からして小包型の爆弾でプラスチックを用いた爆破じゃなかった事だ。そこから考えて、犯行は素人が行ったもんだろう』
「なるほどな」
自分のPCが置かれた事務机とその目の前にある椅子に座って、パソコンの画面を操作する。
『起爆の方法までは分からなかった。全て吹っ飛ばされてるからな。すまねぇ』
徳永は少し苦いテンションで喋る加藤を慰めた。
高山は、徳永の隣で、2人の会話を少々、興味深そうに聞いている。
「気にするな。TVダイブの映像からしてタイマーの可能性は非常に薄いと考えられるからな」
『あ、それと、仏さんの遺留品なんだがよ。なんとか目星が付けそうでな。連絡したんだ』
野太い低めで少々の江戸っ子用語が出る男の声が、徳永の片耳に響いた。
「ほう。それは興味深いな」
電話を左耳と左肩で支えながら、加藤は両手でPCのキーボードを操作しながら、話を続けていく。
『ああ、どうやらカバンの中には、書類が何個か入っていたらしいぞ。残念ながら、一部しか復元はできなかったよ』
徳永はため息をつき、あまり、進展できる内容ではない事を感じている。
「そうか。ちなみに文字の復元は出来たのか?」
加藤が操作するPCの画面では、爆破で焦げた書類の一部データ加工処理済みの画像が表示されている。彼は深いため息をした後で、電話越しの警部に向けて書類のデータについて教えた。
『ああ、焦げてしまっている部分がほとんどだがな。見える部分だけパソコンで分析できたぞ。今後、科捜研にも送るんだが、おめぇもいるか? 捜査で役に立つかどうかは保証しかねんが……』
徳永は頷いて答える。
「もらうよ。送ってくれ」
加藤は、両手でPCのキーボードを叩きながら徳永に告げた。
『ああ、分かった。じゃあ待っててくれ、切るぞ』
通話は終了し、徳永は加藤から送られてくるメールを待つ。
数秒してから、徳永にメール着信を知らせる緑のライトが起き、徳永はそのまま、表示ボタンを押して、中身を確認する。
送られてきたメールには2つの添付ファイルがあり、2つとも写真だった。
1つは、黒焦げになった書類と言える物の1部。もう1つは、その紙をPCでデータ処理し、原稿の分析し、表示された文章のまとめ。
《 ……告書
今回の、大……内での……件につい……調査の結果…
……内に…… の者が…………と判断し
…………により、 の可能性あり。
また、……をおこな……者は 西正……法……
以上
》
高山も隣で警部が持つ携帯の画面を見るが、書物の傷み具合と焦げ具合から、解読不能状態であると判断し、眉間にしわを寄せた。
「これはひどいですね」
表示されている文字を読んでも分かる事は少ないと警部は理解し、片手のひらで額をなでている。
「燃えている箇所がまちまちだ。そりゃ、解読もできないだろうね。でも、何だろう? 報告書かな? 何かを報告しようとしていたのかな?」
高山は、頭を悩ます徳永の顔を見つめる。
「よくわからないですよね? コレじゃ」
徳永も彼女の言葉に同感だった。
「そうだね。ふぅー。大学の人間にまた色々と聞く必要があるかもね。それに川村真人にも訊きたい事も出てきたよ。行こう高山君」
徳永は携帯を閉じ、ズボンのポケットにしまう。
「ええ」
2人の刑事は再び、歩き始めた。
第11話です。 話は続きます!!




