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三題噺

紫色になったネコ

作者: 花留 カコ

 あるところに一匹のネコがいました。それはそれは美しい毛並みの、雪のように真っ白なネコでした。

 不思議な力を持っている以外、普通のネコと同じでした。いつもリンとすましたそのネコの周りには、いつもいろんなネコたちが集まってきました。

 オスのネコたちが言いました。

「もしもしそこのキレイなネコさん、僕らと一緒に出かけませんか。

またたびのいっぱいあるところや、お魚もらえる場所知ってるよ」

 メスのネコたちは言いました。

「ねえねえキレイな白ネコさん、私たちと一緒お散歩しましょ。

あたたかい場所でくつろぎながら、おしゃべりいっぱいしましょうよ」

 白いネコは笑顔でそれに応えます。お誘いを断ることはありませんでした。

 でも白いネコは知っていました。お誘いをしてくれるネコはいても、自分のことを思ってくれるネコ、友達と呼べる相手がいないことに。

「みんな本当の私を見ようとしない。

私はみんなのお飾りで、注目を集めるためにいる」

 にこにこにこ

 ネコは今日も笑っています。


 あるところに一羽のヒヨコがいました。

 形は他の兄弟たちとは変わりませんでしたが、色だけは違っていました。

 兄弟たちはみんなお日様のようにあたたかい色をしているのに、そのヒヨコだけは紫色だったのです。

 理由は分かりません。紫色のヒヨコでも自分のことなのに分かりませんでした。

 兄弟たちは言いました。

「やーいやーい、ニセモノヒヨコ。姿形は同じなのに、どうしてお前は色だけ違う?

黄色はヒヨコで ヒヨコは黄色、紫だなんておかしなやつ!」

 お母さんお父さんは言いました。

「どうしてお前だけ色が違うの? お前は本当に私の子?

私の子ならみんなと一緒の 明るい色をしているはずよ。

もしかしたらお前は私の 卵に混ざってた別の鳥の子?」

 紫のヒヨコは思いました。

「他と色は違っても、間違いなく僕はヒヨコだよ。

僕の色はそんなにおかしい? みんなと違うっていけないことなの?」

 ぽとぽとぽと

 ヒヨコは毎日泣いていました。


 あるとき紫色のヒヨコと白いネコは出会いました。

 紫色のヒヨコは兄弟ヒヨコたちの言葉に耐えられなくなって、白いネコは作り笑いに疲れてしまって逃げてきました。

 白いネコは泣いている紫色のヒヨコに言いました。

「あなたはどうして泣いているの?」

 紫色のヒヨコは答えます。

「みんなが僕の色のこと、おかしいって言っていじめるんだ」

 白いネコは首をかしげました。

「そうかしら? 私はあなたのその紫、とてもキレイだと思うけれど。

だってあなたのその色は、スミレみたいな優しい色よ」

 白いネコがそう励ましましたが、ヒヨコはなかなか泣きやみません。

「それでも僕は普通がいいんだ。みんなと同じお日様の色、あたたかい色になりたいんだ」

 なかなか泣きやまない紫色のヒヨコに白いネコは困ってしまいました。

 白いネコはしばらく考えて、そしてヒヨコに言いました。

「そんなにその色が嫌いだと言うなら、一晩私のそばで寝てみなさい。そうすればきっと兄弟と同じ、お日様みたいな色になるでしょう」

 その日の晩、一羽と一匹は寄り添って寝ました。

 白いネコは紫色のヒヨコをそのキレイな毛で包み込み、しっぽでそっとなで続けました。

 そして夜明けがくるまえに、そっとヒヨコのそばを離れていってしまいました。


 次の朝、ヒヨコが目を覚ましてみると自分の色が黄色になっていることに気がつきました。ずっと憧れていたお日様の色、兄弟と同じ色でした。

 ヒヨコは跳ねて喜びました。

 念願の普通の色になったヒヨコが家に帰ると、家族にたいそう驚かれました。

「お前、その色はどうしたの?」

 お母さんの言葉に、ヒヨコは嬉しさを身体全体で表して答えました。

「白いネコさんが、色をかえてくれたんだ!」

それ以来、ヒヨコが泣くことはありませんでした。


 白いネコは、もう前のような色ではありませんでした。ヒヨコが前そうであったような、紫色の毛になっていました。

 白いネコは不思議な力で、ヒヨコの色を普通にするかわりに自分が紫色になったのです。

 白かったネコの周りに、他のネコたちは集まらなくなっていました。

「なんだい、あの汚い色は」

「今まで鼻を高くしてたもの、いい気味ね」

 他のネコたちは紫色になったネコを悪く言うようになって、近づかなくなりました。

 紫色になったネコは、やっと一匹でいられる時間ができたとほっとしました。

 作り笑いを浮かべる必要がなくなったことに安心しました。


 それでもやっぱり 一匹は寂しいものでした。


 紫色のネコはぽとぽとぽと、とあの時のヒヨコのように泣きだしました。

 どうして自分は色をうけとってしまったのだろう。嘘の仲だったとしても、あれが幸せだったのかもしれないと。


 俯き泣いているネコに、声がふりそそぎました。

「あなたはどうして泣いているの?」

 紫色のネコは答えます。

「みんな離れていってしまったの。私が変な色になってしまったから」

 声は不思議そうに言いました。

「そうかしら? 私はあなたのその紫色、とても美しいと思うけれど。

だってあなたのその色は、どんな色より優しい感じよ」

 ネコは泣きやみませんでした。声の主はそんなネコの沈んだ心とは逆の明るい声を発します。

「そんなにその色が嫌いで、それのせいで一人ぼっちだと言うのなら、私と友達になりましょう?」

 その時ネコは初めての顔をあげました。

 目の前には三角帽子を被った女の子が一人微笑んでいます。

「あなたは不思議な力があるのでしょう? 私も同じ力があるの。人間には多いみたいだけれど、ネコには滅多にいないんですって。

あなたは他のネコたちとは違う、特別なネコなのよ! 悲しむ必要なんてないわ、むしろ喜んでいいくらい!」

 女の子は手を差し出しました。ネコは恐る恐るその手のひらに自分の前足を乗せました。

 ネコにとって、初めて本当の友達ができた瞬間でした。





今回のお題は友人Tより

『ネコ』『ヒヨコ』『紫』でした。


個性や好みは十人十色。

それをいつも心に留めておきたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか、あったかい気持ちになりました(*´∀`*) 短編でも話がまとまってて、起承転結がしっかりしてて、羨ましいです!!! [一言] コハルー!これからも小説の投稿、待ってるね☆
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