一話
「うん?
え、なにこの状況」
目を開いたら、大勢の大人に包囲されていたら、誰だって驚くと思う。というか、此処はドコ?
見回せば、塀やらマンションやら瓦の屋根が見える。
屋外には間違いないみたいだけれど、昼間で、しかも制服の私にまるで凶悪犯に対する時のような盾を構えているのに解せない。
大人達は、警察のような格好だが、果たして何者?
何より何故、私が囲まれているのだろう?
首を傾げていれば、周りを囲む大人達がざわめきだした。
「君・・・?」
「はい?」
ざわざわとする大人たちの中から、頭一個分、身長の高い30位の男が出てきた。
こちらをじっっと見てくるその男に、用があるならちゃっちゃと言って欲しいなあ・・・と考えていると、目をカッと見開いた。
「(怖っ)」
「正気なのか?」
「は?」
どういう意味?幾らなんでも失礼すぎる、と男をじとりと睨む。
けれど、男は睨まれても特に気にした様子はなく、更にじっと見てきて、居心地悪い。
「うん、正気のようだ。
警戒レベルを五から二に下げる。
君、自分が何故此処に立っているのかわかるかい?」
「いいえ。私が知りたいくらい」
「では、何故その刀を手にしているかはどうだい?」
「は?刀?・・・・・・刀?!」
男の言葉に、漸く自分が刀を握っていることに気付いた。
チャキ、という音を立てながら刀を掲げれば、それは波紋の美しい日本刀。
ただし、柄に巻かれた朱の布はボロボロで小汚ない。
「うわっ、きったな!」
『汚ないとはなんじゃ!
失礼であるぞ葵!』
うへえ、という顔をした私をまるで見ていたように、マロのぷりぷり怒ったような声が響いた。
「うわ、マロ?!
え、何処から・・・?」
『麿は名乗ったぇ
言ったであろう?五月雨じゃと
主の手にある美しき刀、それなマロじゃ』
えへん!という誇らしげな声に、えぇーと刀を見つめる。
柄の布はともかく、波紋の美しいこの刀が、マロ?
「うわ、残念な」
『なんとっ!
ほんに失礼な娘じゃのう』
「ってか刀から声が聞こえるなんて、それナニ?
ファンタジー?中二病?
ないわーないない」
私そんな特殊能力いらないし。と、とりあえずボロボロの朱の布は外す。
だって汚いし。
またもぷりぷり怒り出したマロに、はいはい、と雑に返事をする。
「・・・これは・・・」
「うーん、興味深いねぇ!実に興味深い!
まさか彼の妖刀に操られず自我を保つばかりか、仲良くお喋り!
すっばらしいね!」
「うん?」
マロと話に夢中になって、大人に囲まれていたことをすっかり忘れていた。
興奮したような声にそちらを見れば、眼鏡を掛けた白衣の男が身長の高い男の横に立っている。
キラキラした眼差しに居心地悪く思っていると、白衣の男の言葉に気になる単語が混ざっていたのを思い出す。
「え、妖刀?」
「「妖刀」」
こっくりと頷く男二人に、頬が引きつりマロを見た。
「妖刀?」
『うむ。
巷ではその様に称されているようでおじゃる。
品がないので、麿は好かんがのう』
「うわー」
ファンタジーだよ、と頭が痛くなるのを感じた。