7話 屋上での密談②
まさかの2日連続投稿。。。
そしてようやくこれにて編入初日が終了です。すでにここまで7話ですね。
序章は20話程度で終わらせたかったのですが、到底無理そうです。
感想やご意見などをいただけたら嬉しいです。
里奈からメールを受信し、その内容を呼んだ春樹は、近くにあったベンチに仰向けに寝転んだ。外気はまだ肌寒く感じるものの、空は雲一つない快晴で、春樹は太陽の光がとてもまぶしく感じられた。
太陽の光から目をそらしつつ、春樹は先ほどの里奈との会話を思い出していた。
『それは春樹先輩の意見ですか?それとも・・・』
『(実際どっちの意見なんだろうな?)』
春樹自身、自分が里奈たちの演奏にかかわることで生じるであろうデメリットは十分わかっていた。だが、だからといって完全に拒む気もなかった。だからこそ、自分が最初に言った拒絶の言葉が春樹の意見なのかどうかがよく分っていなかった。
『(まあ、考えてもしょうがないか。なるようにしかならないし)』
考えることが面倒になった春樹は思考をやめて、夢の世界に旅立つことにした。
春樹が寝ようとしてから2,3分後、突然屋上の扉があいた音で、春樹は夢の世界への旅行から現実世界へと連れ戻された。
春樹は体を起こして、音がした屋上の扉の方を見てみると、そこには優衣が立っていた。
「あら、もしかしてお昼寝の邪魔をしてしまいましたか?」
優衣は春樹のほうへ近づいてきて、申し訳なさそうに言った。
「いえ、大丈夫です。少し空を眺めていただけなので」
春樹も優衣に気を使わせないためにとっさに嘘をつく。
「そうですか、ならよかったです」
「優衣さんは生徒会の息抜きとかですか?」
「いいえ、まあ、確かにそれもあるのですが、先ほど里奈さんが麗華さんに連れ去られていましたので、春樹さんが一人なのではないかと思い、代わりに校内を案内して差し上げようかなと思ってやってきたのです」
優衣の言葉で、里奈が麗華に連れ去られている様子を想像して、春樹は少し笑ってしまった。
「でも、里奈に大体案内してもらいましたよ?」
「ええ、それも存じております。先ほど里奈さんにあったときに、いろいろ話してくださったので。案内しに来たと言っても、実は単に春樹さんとお話ししたかっただけだったりします」
「じゃあ、優衣さん、俺の隣に座りますか?」
優衣の言葉を聞いて、春樹は先ほどまで自分が寝ていたベンチの半分のスペースに、優衣が座るよう勧めた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えてお隣失礼しますね」
優衣もその言葉を拒む理由もなく、春樹の隣に腰を下ろした。
屋上に2人きりでベンチに隣り合って座っている男女というのは、はたから見たらまるでカップルのようだった。
「そういえば、春樹さんは里奈さんや麗華さんたちのグループに参加されるかどうかお決めになりましたか?」
世間話をするように優衣は春樹に尋ねた。
「どうしてそれを?」
春樹は、先ほどまでここでしていた里奈との会話を思い出しつつ、どこでその話を聞いたのかを逆に優衣に問いかける。もし優衣が里奈から聞いたのならば、春樹がどういう回答をしたのかも優衣が知っているだろうと考えたためだ。
「ああ、やっぱりその話をなさってはいたんですね」
「え?」
「すいません、すこしカマをかけてみちゃいました」
優衣は普段は見せないような、いたずらが成功した子供のように微笑んだ。優衣の言葉を聞いて、春樹も優衣の言動を悟った。
「本当は知らなかったんですね」
「確かに知らなかったですけれども、先ほど里奈さんに会った時になんとなく雰囲気でそのお話をされたのかなと思いまして」
『(どうして俺の周りには表情で嘘を見抜いたり、雰囲気で会話内容までさとれる女の子が多いんだろう)』
春樹は内心苦笑した。
「結論から言うと、その話はしました。当然断りましたけどね」
「でも春樹さんのことです。単に断っただけではないんですよね?」
優衣は春樹のことはお見通しといった感じで春樹のほうを見つめた。
「なんで優衣さんはそこまでわかるんですか?」
「だって、春樹さんは優しいので、そこまで厳しくなり切れないと思いましたから」
先ほど春樹が優衣に対して思っていたことを、逆に春樹が優衣に言われてしまっていた。
「私も麗華さんたちに一度相談を持ちかけられました。『私たちに力を貸してください』と。でも、私は彼女たちにいい返事をしてあげることができませんでした。
文化祭、莫大なお金が動くイベントの長として、長い間席を外すわけにもいきませんでしたし、もう1つのグループで練習する時間も私には取れそうになかったからです。私がもっと有能なら麗華さんたちの力になってあげることができたのに・・・。
このままでは、麗華さんたちは文化祭で演奏することができません。でも、麗華さんたちがこのまま文化祭で演奏できないということはあってはいけませんし、演奏を楽しみに待っている人も大勢いるんです。
私からもお願いです、春樹さん。この無能な私の代わりに、麗華さんたちに力を貸してあげてください」
優衣はベンチから腰を上げ、春樹に向かって頭を下げ続けた。綺麗なベージュ色の髪は頭を下げているせいで、優衣の顔を隠しそうに見えた。
『(やっぱり優衣さんは優しすぎる。別に誰のせいでもなく、ましてや優衣さんのせいでは絶対にないのに、ここまで責任を感じて、他人のためにお願いまでするなんて)』
春樹はその姿を見て改めて優衣の優しさを感じた。
「優衣さん、顔を上げて下さい」
優衣は春樹に言われた通り、頭を上げ、顔にかかっていた髪を後ろへと戻した。
「俺はですね、里奈にこういったんですよ。『里奈、俺は今言ったように、俺が手を貸すことに反対だ。でもな、もし本当にダメそうだったら、そうだな、もし1週間前になってもメンバーが見つからなかったら俺に連絡しろ』って」
その春樹の言葉を聞いて、優衣は驚いた様子だった。
「春樹さん、それって、もしかして、手伝うって言っているようなものではないですか?」
「あくまで、メンバーが集まらなかったらですよ」
「春樹さんは正直、メンバーが今から集まるとお思いですか?」
春樹は少し考えたあと優衣の質問に答える
「まあ、無理でしょうね。今までに集まっていないことに加え、今から練習するにしても全く合わない状況から始めるとしたら少し時間が足りないですから」
その言葉を聞いて優衣はすこし微笑んだ。
「やっぱり春樹さんは優しいじゃないですか」
「実際、俺が手伝うことであいつらにデメリットがいくつもあります。でも、やっぱりあいつらが演奏できないことと比べたら、まだデメリットがいくつかあるほうがましなんじゃないかって思ったんですよ。俺が手伝うことが間違った選択だったとしても」
里奈に言った言葉は里奈が泣き出しそうだったから、泣かせないために言った言葉ではなく、春樹なりに考えた結果の言葉だったのだ。
「お父様は『この件に関しては春樹君の意思を尊重する。もし必要だったら、いつも通りの処置をとろう』と申しておりましたので、こちらのことは気にせずにお決めになってください」
「ありがとうございます。でも今はまだ、新たなメンバーが見つかることを祈っていますよ」
春樹が提示した期限、文化祭の1週間前までは、現在が4月9日であるので、あと10日と少しあった。
「そうですね。でも、私は春樹さんのピアノを聞いてみたいです」
最初にカマをかけてきたのと同じような、普段浮かべている笑顔とはちがう、無邪気さの混じった笑顔を浮かべて優衣は言った。
「期待してても何もできませんよ。俺はただのバイオリニストですから」
春樹はそういうと、フェンスに立てかけてあったケースからバイオリンを取りだし、音の調律を始めた。
そして調律が終わると、何も遮るものがない屋上で、音を奏で始めた。その様子を優衣はうれしそうに眺めていたが、10分ほどして、再び生徒会室へと戻っていった。
だけれども、そのバイオリンの音色は屋上の下にある生徒会室まで聞こえており、優衣はその音色を聴きながら上機嫌で作業をしていたという。