5話 里奈と直哉と日替わり定食
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校舎中に試験終了のチャイムが響き渡り、春樹を含めた一番後ろの席の人が前の席の人に答案を回し始めた。1限、2限は春樹にとっては苦手分野ともいえるものであったが、3限、4限は国語と英語と言うこともあり、あまり苦戦することはなかった。
テスト期間中は4限で終了なため、早い生徒は答案を回してすぐに教室を退室しており、その他の生徒も友人と話したり、のんびりと帰路についたりと様々な行動をとっていた。
「春樹は英語はどうだったの?」
春樹もその例外ではなく、幼馴染みとのんびり会話をしていた。
「さすがに英語は100点だと思うよ。もう母国語のようなものだしな」
春樹は苦笑しながら言う。春樹の通っていた学校は様々な国、たとえばドイツ、日本、アメリカ、フランスなどが共同出資して作った世界の中でもより優秀な生徒を集めた音楽アカデミーで、それにより様々な国の人間がいた。そんな中で暮らしてきた春樹は英語、ドイツ語、フランス語など多くの言語を話すことができた。
「うう・・・、帰国子女がうらやましい」
英語がかなり苦手な麗華は春樹を恨めしそうに見た。
「麗華ちゃんは本当に英語できないもんね」
春樹の隣に座っている翠も同情的な視線で麗華を見る。
「ま、麗華の場合苦手なのは英語だけじゃないけどな」
自分の席から春樹の席の近くまでやってきた直哉はさらに追い打ちをかけた。
「あれ?もしかして麗華って成績悪いのか?」
その質問に翠は困った様子で答えた。
「え~とね、別に悪い訳じゃないんだよ。数学とか物理はものすごくできるし。でも英語とか歴史とかは苦手でね・・・」
(なるほど、根っからの理系か)
翠の説明で春樹は何となく納得した。
「べつにいいのよ。歴史とか英語ができなくても音楽はできるわ」
麗華は何とか無理矢理開き直っていた。
「まあ、英語でのコミュニケーションも必要ですけどね」
その開き直りを邪魔したのは、先ほどまでなかった声だった。
春樹は声の方向を見てみると、そこには里奈がたっていた。
「里奈ちゃんは成績優秀だもんね」
「そうなのか?なんか意外だな」
春樹は里奈を見てみる。
(見た目は勉強苦手そうだよなぁ)
春樹は内心失礼なことを思っていた。
「春先輩、今絶対失礼なことを考えましたよね?」
しかし、春樹の考えは里奈にはばれていたようだった。
「だって・・・なぁ」
春樹は再び里奈の方を見た。
「春くん、こう見えても里奈ちゃんは中学3年間ずっと成績1位なんだよ」
春樹は2,3秒固まったまま動けなかった。
「なんか失礼な反応ですね」
里奈は春樹をジト目でにらみつけた。
「あ~、もういいわ。翠、生徒会室行くわよ。里奈もきたことだし。明日は理系科目なんだから、絶対挽回してやるわ」
落ち込んでいても仕方がないと思ったのか、麗華はようやく立ち直った。
「そうだね、そろそろ行った方がいいかもしれない」
翠も教室の時計を見てつぶやく。
「春樹、俺は食堂に召し昼飯喰いに行くがどうする?」
「そうだな、里奈は昼飯どうするんだ?」
春樹は自らの案内役の状態を見て決めようと思っていた。
「そうですね、本当は購買で何か買おうと思っていたんですけど、直哉先輩がおごってくれるらしいので、食堂にすることにします」
「ちょ、おごらねえよ」
勝手におごることになっていた直哉はさすがに抵抗した。
「まぁ、里奈には俺がおごってやるから」
「え、別にいいですよ」
直哉への発言自体冗談だったため、さすがに里奈は遠慮した。
「まあ、遠慮するなって。今日案内してもらうんだし、そのお礼って言うことで」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
こうして、麗華と翠は生徒会に、直哉と里奈と春樹は食堂に向かうことになった。
☆☆☆☆
「意外と広いんだな」
春樹が食堂を見て一番最初につぶやいたのはその言葉だった。
「まあ、お弁当を持ってくる人や、購買で買う人も多いですから、少し広すぎる気もしますけど、これだけ広い方がゆったり座れて楽ですよ」
同じ程度の人数が通っている学校の食堂と比べれば約2~2.5倍あるだろうという広さを持つ食堂では、昼食時ということもあり結構の人数がいたが、席が空いていなくて座れないどころか、空いている席の方が多かった。
「これなら席取りとかもなくて楽だな」
春樹は昔の学園で食堂での席の取り合いを思い出していた。
「まあ、この食堂があるせいで、屋上にはほとんど人が行かないんだけどな」
「屋上?」
「そ、屋上。弁当喰うやつは教室かここで喰うし、購買も同じ。食堂利用者は当然ここだしな」
この食堂は生徒たちのおしゃべりの場としても使われていたりとかなりの人気を要していた。
そんなことを話している間に、並んでいた券売機の順番が春樹たちに回ってきた。
「俺がまとめて買っちゃうけど、何がいい?」
直哉は春樹と里奈に尋ねた。
「何かおすすめはあるのか?」
春樹も券売機を見たものの、メニューが多すぎて見るのが大変そうだったため、手早く済ませるために直哉に尋ねた。
「まあ、妥当に日替わりランチかな」
日替わりランチとはその名の通り日によってその内容が異なるランチで、値段の割に量が多くて満足できると人気だった。
「じゃあ、それで頼む」
「あ、私も」
「了解」
春樹たちの注文を聞いて、直哉は2000円を券売機に投入し、日替わりランチを3つ買う。
「ほい、これ食券」
そしてその日替わりランチの食券を2人に手渡した。
「直哉も同じものにしたんだな」
春樹は直哉の手にある日替わりランチの食券を見て言う。
「まあ、1人だけ違うものって言うのも面倒だし、日替わりランチ自体500円っていうのは魅力的だしな。で、日替わりランチのないようって何なんだ?」
どうやら直哉は今日の日替わりランチの内容を確認せずに買ったらしかった。
「まあ、受け取れば分かりますよ」
「そうだな」
内容をきちんと見ずに買ってしまった3人だが、とりあえず日替わりランチを受け取りに行くことにした。
☆☆☆☆
「いただきます」
春樹たち3人の中で里奈だけしっかりと食べる前のマナーを守っていた。
彼らの前のトレーには、とんかつやコロッケ、そしてその横に添えられたシャキシャキのキャベツがのった皿や、わかめと豆腐の味噌汁が入ったお椀、そして茶碗に盛られた大量の白米があった。
「改めてこう見てみると、ボリュームがすごいな」
春樹は思わず感嘆の声を漏らした。
「まあ、ボリュームがウリなところもあるからな。もっと安い定食もあるし」
そういいながら直哉は味噌汁を一口飲んだ。
「こんな量、里奈は食べられないんじゃ・・・いや、何でもない」
春樹は言いかけたことを、突然なにかを思い出したかのようにとぎった。
「春先輩、あのことは思い出さないでください!」
里奈も春樹が何を思いだしたのか理解しているのか、顔を真っ赤にして抗議していた。
「里奈、よく食べるのはいいことだぞ。たくさん食べて、その栄養が身長に回らなくても、きっとほかの場所に回ってるはずだ」
そういって春樹は里奈の体のある部分を見る。
「春先輩、やっぱりその視線はセクハラと解釈していいんですよね。というかしますよ」
そういいつつも、里奈はキャベツを口に運んでいた。
「なんか、春樹に対する里奈の距離って、俺や翠や麗華より近いよな。やっぱりさっき麗華が言っていたように、あれ以降にあってるからなのかね」
里奈と春樹のやりとりを聞いていて、直哉は何かを感じ取っていたようだった。
こうして、春樹の編入初日の昼食は食堂でのんびりと、幼馴染み2人と食べたのであった。ちなみに、きちんと里奈の分は春樹が払っていた。