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乙女が奏でる恋の協奏曲  作者: 八重桜
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2話 編入生の噂

誤字の報告、感想などがありましたら、よろしくお願いします

麗華、翠、直也とは学年が違うため、階段の前で分かれた後、高校1年生であるためわざわざ階段を上る必要はない里奈は、そのまま自分の教室であるC組へと向かった。嵐山学園の各学年の教室は1年は1階、2年は2階、3年は3階にあり、4階には生徒会室や移動教室用の教室がいくつか存在している。

教室に入るとすでに半分くらいのクラスメートが登校してきていた。今の時刻が8時過ぎで、始業が8時20分ということを考えると出席率はなかなかによいだろう。

里奈はクラスメートたちに挨拶しつつ、自分の席へと向かい、隣の席の羽生計に声をかけた。

「計ちゃん、おはよー」

「里奈、私はもう疲れたよ。この羽生計を持ってしても、これだけしか情報が手に入らないなんて・・・」

計は新聞部、もうゴシップ部に名前を変えるべきではないかと多くの人間が思っているほど、ゴシップなどをかき集めている部活に所属している。

「どうしたの、計ちゃん」

高校進学早々から活動をしている計に里奈は内心苦笑しつつも、計がここまで苦戦しているようなのも珍しかったため、その話を聞いてみることにした。

「里奈もしってるでしょ?今日来る編入生の噂」

ただでさえ、編入生が2~3年に1度来るか来ないかである桜嵐学園は、編入生が来るだけで噂にもなるし、そのうえ今回の編入生はなぜか始業式の次の日に編入という、普通とは違う点もあったため、今回の編入生の噂は余計に話題性があった。

「高2のA組にくるっていう編入生だよね?高2から編入なんてよほどレベルが高いんだろうね」

編入試験のレベルは学年ごとに異なり、高2、高3の編入試験などはほとんど合格者がでないと言われている。実際、編入生は基本的に中学生が多いのもこのためである。多いと言っても2~3年に1人しか来ないのだが・・・。

「新聞部が入手した情報だと、今回の編入生は、編入早々、Sランクの個室が与えられるらしい」

その言葉を聞いて里奈は驚きを隠せなかった。編入生と言うことだから相当な実力であることは予想がついていたが、昨年は3人、今年は現在2人しか持っていないSランクの個室が与えられるということは、複数のコンテストで上位入賞や優勝をしていると言うことで、学内での成績などを加味されていないことを考えると、さらにそれ以上の実績がなければ、編入早々Sランクの個室を与えられるなんて不可能だからだ。

ちなみに、個室のランクはB、A、Sの3段階があり、Bランクの個室は学年の上位5パーセント、Aランクの個室は学校内の上位5パーセント、Sランクの個室は様々なコンクールで実績がある人間にのみ与えられる。

上位というのは学校の試験や文化祭での演奏によって判断する場合が多いが、コンクールでの実績があればそれがかなり加味される。

里奈自身、高校生以下の日本国内のバイオリンのコンクールで2位という結果を中3の時に出したため、高校入学早々、Aランクの個室が与えられている。

「なんというか・・・とんでもない人が編入してくるんだね」

里奈の発言を聞いて、計は少し黙った後、

「私は、この人には何か秘密があると思ってる」

と言った。

「秘密?どうして?」

突然計が秘密などと言い出したものだから、里奈の頭は全く持ってついて行っていなかった。

「今回の調査でたしかにいろいろわかったんだ。編入生は高校2年生の男子で、結構イケメン、海外帰りの実力派で、編入早々Sランクの個室が当てられている」

そこで、一度区切って、再び話し出す。

「でも、肝心の部分がわかっていないんだ。何のコンクールでどんな結果を残したのか、以前はどこの学校にいたのか、などね」

「たしかに、Sランクの人なら逆にそこら辺の情報は集めやすそうだよね」

「そうなんだよ。幸い、私のそばには里奈という同じバイオリニストがいるからね、比較しやすい。確実に里奈以上の実績があるわけだからね、今回の編入生は」

計の言うことを聞いていると、里奈もたしかに不思議に思えてきた。

「まあ、これ以上悩むのは意味がないんだけどね。私たちはわかっている情報を学内に流すのが仕事で、そこら辺の秘密はさすがにプライバシーだからうかつに流せないものだから調査対象にもならないだろうし」

計の所属している新聞部は、ゴシップを扱っているといっても、踏み込んでいいラインをしっかりと決めていた。

「う~ん、気になるね。って、あれ?バイオリニストなの?」

「ああ、バイオリニストだ。実際、文化祭のために早く来ていた生徒がバイオリンを持った見知らぬ生徒が、生徒会長と一緒に歩いている姿を見かけている」

それを聞いて、里奈の中である推測が思いついた。

(高校2年生、男子、バイオリニスト、海外帰り、私以上の実績がある、何か秘密がありそう・・・か。

あれ?こんな人、私の知り合いにいたような気が・・・)

そして、里奈は1週間前ぐらいにやりとりをしたある1通のメールを思い出した。

「ねえ、計ちゃん、その編入生の名前ってわかってるの?」

一度、ある疑念が生まれてしまうと、その疑いはどんどん強くなっていった。

そして、

「えっとね、たしか・・・・桜井春樹さんだったかな」

その疑念は、確信へと変わるのであった。

「計、ちょっと私用事できたから行くね」

「ちょ、ちょっと・・・計」

確信に変わると、里奈の行動は早く、計が里奈を呼び止める前に計は走って教室を出て行ってしまった。






里奈は人が少ない場所に着くと、携帯を開き、ある番号を探し出した。画面には【桜井春樹】とでている。

里奈は軽く深呼吸をして、覚悟を決めてから発信ボタンを押した。呼び出し始めてから数コール後、ようやく目的の相手が電話を取った。

『もしもし、春先輩ですか?』

『お、里奈じゃないか。珍しいな、俺に電話かけてくるなんて』

里奈と春樹のやりとりの大半はメールだったため、久しぶりに春樹の声を聞いたように里奈は感じた。

『そんなことより春先輩、今どこにいるんです?』

『え?』

唐突に自分の居場所を聞かれて春は戸惑ったようだった。

『もしかして、日本になんかいませんよね?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

里奈にとってはその無言がすべての答えだった。

『春先輩、この前近いうちに日本に来るっていったとき、日程決まったら教えてくださいって言いましたよね?』

『・・・・・・・・・・・・・はぁ~、こんなに早くばれるとはな」

春樹はようやく堪忍したのか、1つ大きなため息をはいた。そして、春樹はすべてがばれていることを悟った。

『で、麗華たちもこのこと知ってるのか?』

『いえ、私が知ったのも、偶然と言えば偶然なので、麗華先輩たちにはまだ連絡してません』

『そっか、じゃあ、そのまま連絡しないでくれ。どうせ、あと5分でわかるんだしな』

里奈は一瞬迷ったものの、別に伝える必要もなかったため、

『分かりました。伝えるのはやめておきます』

『さんきゅ。にしても、まさか先にばれるとはな・・・。予想外だったよ』

『本当なら小1時間ほどかけて聞き出したいことが山ほどあるのですが、残念ながら始業も近いので今はやめておきます。春先輩、中休みに向かいますんで、教室にいてくださいね』

そういって、里奈は電話の通話を切った。

(先輩が帰ってきた・・・今度はもっと長く一緒にいられるのかな。一緒に通学したりとか、遊びに行ったりとか、お弁当食べたりとか・・・。考えただけで心臓がばくばくしてきた・・・)

電話での口調は、黙っていられたこともあり少し怒りぽかったが、里奈は内心、春樹と同じ学園に通うという事実に胸を躍らせていた。

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