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真の光と影  作者: みよこ
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免れぬ罪

 その頃、王宮殿に王妃の姿があった。王の室は広大である。玉座には豪奢な金箔が施され豪華絢爛で、王の威厳が見事に玉座に表れている。そこで、王から震撼させられる言葉を言い渡された。

「陛下、今のお言葉とは……」

腹から絞り出すような声だった。

「証拠が出た以上、余は庇いたてることはできぬ。生きて苦痛を味わうより、死をもって楽にしてやろうと言ったのだ」

まさか、王の口から言われるとは信じたくなかった。王妃の顔がゆがみはじめ、着物を握りしめた。

「陛下、どうか(わたくし)の話をお聞きください。私は、何もしておりません」

と、声を震わせ必死に訴えた。

王妃の気持ちも分からなくもないが、王とは情で動くことはなく、王妃を軟禁し、王宮殿に出向くことを禁じた。

「私を信じてください。陛下!」

王妃は、床に両手をついて泣き崩れた。何度も何度も訴えたが、王妃は王宮殿から追い出された。


「ここを通せと言っているのです! 母上様に会わねばならない」

王妃の室には兵の見張りが付き、誰であっても入ることが許されなかった。そんなことなど納得いかず、李梗は眼の色変えて室に入ろうとしていた。外から聞こえてくる娘の声に胸に衝き上げてきた嗚咽に必死にたえた。

李梗は、その場にひざをつき、どうすればいいのか分からなかった。そのとき、冴が李梗の手をとり、縁の下に連れて行かれた。冴は、ふところから短剣を出し、縁の下から床をはぎとった。冴の大胆な行動にあっけにとらわれていたら床が開き、

「早く中へ」

と言われたので上に上ると、そこは王妃の室だった。なぜ、自分に手を貸してくれたのか、冴の真意は分からなかったが、母に会わせてくれたことに李梗は感謝した。冴は上には上がらず、縁の下で待っていた。

いきなり、床下から李梗が現れたので王妃は眼を剥いた。母の顔を見て眼が赤くうるみ、母に抱きつきつくと嗚咽をもらした。王妃は、李梗の頭に頬をすりつけて、母を許せよ、そう言いながら涙をこぼした。

「私が父上様に必ず、母上様が無実なのだと説得してみます」

王妃は首を横に振り、もうよいのだと言った。すでに、李梗が王宮殿に行き、王に哀願していたことを耳にしていた。王は李梗に会うことも拒絶し、ひたすら王宮の扉で訴えたが無駄に終わってしまった。

「聞きなさい。これからそなたに幾度なく苦難な道が待っているでしょう。己の信じ、正しいと思う道に進み、人を慈しむ徳を忘れずに他者を思えば、誰かが手を差し伸べてくれます。生きなさい。これが愚かな母の切なる最期の願いです」

王妃のあたたかな滴が李梗の頬に静かに流れ落ちた。

切ない表情は、ただそれは王妃の姿ではなく、もう二度と会うことができない娘を見つめるひとりの母としての姿だった。

 


 李梗は走った。息が切れて苦しくなり、顔が赤くなっていた。どうしても会わねばならない人がいたからだ。

「姉上様!」

 李梗は、ハァ、ハァと荒い息を吐きながら言った。呼び止められた水蓮は足を止め、李梗を見た。李梗は、水蓮の手をとり、

「姉上様、お願いがございます。どうか、父上に考え直してくださるよう助言して下さい。姉上様の頼みなら父上様も聞いてくれます」

 声をからして言った。

 水蓮は、李梗の手をはらいのけ、

「気安く、姉上と呼ぶでない」

 その声は低く、眼に刺すようなひかりを帯びていた。李梗は、何が起きたのか分からなかった。いつもの人のよさそうな顔が、別人のように鋭い眼つきをしている。

「罪人の子がよく、宮中を出歩けるものだな。王妃が何だ? 自業自得であろう。私には関係のないことだ」

 そう吐き捨て、李梗を鼻で笑った。

「行くぞ」

 水蓮は、付き添いに言うと自室に戻っていった。李梗は動けず、その場に立ち竦んだ。今のは、嘘であってほしいと思った。優しかった水蓮が、自分を突き放し、王妃を信じてくれなかったのだと分かったら、涙がとまらなかった。



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