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前に進むために。  作者: 薄桜
本編
8/12

ピロートーク?

「ねぇ、絵はいくらで売れたの?」

気だるい体をベッドに転がして、ようやく今になって気になっていた事を聞いてみた。

今日一日、金銭感覚の違いに困惑しっぱなして、変に気疲れした。

芳彰が体の向きを変え、マットが揺れる。

「さぁ? まとめて持ってかれたのが、20万になってた。一枚いくらだろうな?」

「に、20万???」

仰向けの芳彰は事も無げに言うが、私は相当に驚いた。

「そ、けど何か怖くて聞けなかった。」

「・・・そっか。」

「自分の描いた物に、一体いくらの値が付けられたのかって知りたいけど、それを知るのも何かさ・・・。」

そう言うと再び向きを変え、私を引き寄せて抱き込んだ。これは芳彰が不安を感じてる時の行動で・・・どうやら私の出番みたいだな。

「私は芳彰の絵好きだよ。最初に見せられたやつは、腹が立った覚えしかないけど、キレイだったとは思う。」

私は随分と前の話をした。

まだ本名も知らなくて、初めて芳彰の部屋に連れて行かれた時の事。

私がモデルだと言って見せられた、感覚的な絵。荒野に建つ城の楼閣に咲く黄色い花。

同時に、『お前、そんな感じだろ?』って、私の事を見透かしたような事をつらつら言われ、弱い部分なんか気付かれたくもなかったのにって、泣くほど悔しい思いをした。

・・・自分でも認めたくない部分を、あんなにもはっきりと指摘されたから。

「そうなのか? 初めて聞いたな、それ。」

「当たり前だ。初めて言ったんだから。」

わざわざ弱みを見せるような真似が、できる訳が無いだろう?

「お前、何の絵になるのは気にしてるくせに、出来上がった物には興味無さそうだからさ・・・そんな事言われるとは思わなかった。」

薄暗くて顔は見えないけど、その声は心底意外そうで、私としても心外だった。

「そう言われても好きなんだ。世界観とか、意外性とか、描いてる時間とか、その後姿とか・・・。」

何かつい言ってしまったが、言ってて段々恥ずかしくなってきたものの、たぶんもう遅い。

「それだけ?」

やっぱり、見事にそれを察知した芳彰が攻勢に打って出てきた。・・・余計な事を。

「・・・何を言わせたい?」

「俺は?」

「・・・・・・嫌いなら、こんなとこにいない。」

そんな今更な事、聞かないで欲しい。恥ずかしいじゃないか!

「そこは『好き』っていってくれないんだ?」

「言わせようとしてるから言わない。」

そんな手には、絶対乗りたくない。

「・・・本当に、天邪鬼だな。」

「習性だ。」

そうだよ、私は捻くれ者ですよ。

「なら・・・」

そこで一度言葉を切った芳彰は起き上がり、更に余計な事を言い出した。

「言わせてやる。」

「はぁ? ちょ、ちょっと、今何時だと? やっ、こら、ぁ、んーっ!!」

意図に気付いた私は、逃げようとしたが、あっさり捕まって組み敷かれてしまった。

まぁ、どちらにしてもこんなホテルの部屋の中で、逃げ場は無いのが当然で・・・分が悪いとかそんなレベルの話でもない。

「ちょ、まてっ、そういうのは違うだろ!?」

「さて、知らないな。美晴が素直じゃないからだ。」


・・・そして、たぶん私は何度も好きと言わされた・・・のだと思う。

はっきりは覚えてない。

・・・それにしても、卑怯だ!!



朝は芳彰に起こされた。

ちょっかい出されて目が覚めたが正しい。

たぶん早い時間だったのだろうけど、芳彰のせいで結局朝食の時間ギリギリに、慌てて服着て1階のバイキングレストランに行く破目になった。


それにしても、芳彰を見てると何か色々新鮮だった。

朝の身支度なんて当たり前の事で、特に男の人がヒゲ剃るって、当たり前の事なんだろうけど、私には珍しかった。

何年ぶりだろう? 父さんが死んじゃってからだから・・・5年ぶり?

じーっとその様子を眺めてたら、何か嫌がられた。

そして、問題なのは私の準備・・・。

このしっかり取り揃えられた化粧品は、使わなくてはいけないのだろうか?

容器のロゴは、きっと誰でも知ってるブランドだけど、でも化粧の仕方を誰でも知ってるなんて思うなよ?

あるだけの化粧品をベッドの上に転がして、好奇心と羞恥心の狭間で揺れていたら後ろで笑う声がした。

「はいはい、見よう見まねでよければ手助けするぞ?」

自分の支度が終わった芳彰は、腹が立つほど余裕の態度だ。

しかし同時にこの瞬間、私の中の天秤は一気に好奇心の側に傾いた。


「化粧水付けて、下地塗って、ファンデーションまでは、やってみようか?」

そう言って、芳彰はボトルとチューブの容器を順番に並べる。

「どこまで分かる?」と聞かれた私が、「さっぱり。」と答えたからだ。

「親がやってるの見てれば、何となく分かんないか?」

「興味が無かった。」

「・・・そうか。」

なら仕方が無いなという溜息を吐かれて面白いはずも無い。だがしかし、それはとりあえず置いておいて、指示に従い順番に塗ってみたが、途中で出し過ぎないとか、ちゃんと伸ばせとか、細かい言葉が飛んできた。

それから先は、芳彰がやってくれた。

スポンジでもう一回ファンデーションはたかれて、アイラインやアイシャドウ。を施された。

「こういうのは絵を描くのと同じ感覚だって。何となく、キレイな感じになればいいんだから。」

・・・そうかもしれないが、何となく失礼な表現じゃないかそれ? 人の顔をキャンバスみたいに言うな。

それにしても、手馴れた感じで違和感を覚える。

「他の人にもしてるのか?」

「何で? 初めてだって、妙な事を勘繰るな。」

手を動かしたまま、軽くいなされた。

だとしたら本当に器用なものだ。本当に絵を描いてる気でやってるのかもしれない・・・でも、やっぱりそれはそれで複雑だぞ?

まー、お泊り旅行なんてこんなものですよ(笑)

化粧がお絵描きってのは、私が常日頃思っている事だったりします。

とは言え本人5分くらいで終わりますが。

アイシャドウなんかは塗り絵だなって、

化粧の頻度も低いんですけど(^^;

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