ランチタイム
4話目です。
ではどうぞ。
水族館を一通り見て回ると、そろそろお腹が空いてきた。
芳彰の腕を捕まえて時計を見ると、そろそろお昼になりそうな時間だった。
「普通に時間聞けばいいだろ?」
「だって、ここに時計があるんだもん。」
しっかり口答えをして見上げると、口の割りに満更でもなさそうな顔してて、どっちなんだって思う。
「・・・そうですか。昼にするか?」
「うん、お腹空いた。」
って答えたら、すぐ傍のお店に連れて行かれた。店構えとしてはイタリアンレストラン・・・だと思う、だって緑・白・赤のトリコローレの国旗がはためいてるし。
だから、多分イタリア語で書かれてる看板は私には読めない。無理やり英語読みしてみるのも違うだろうし、ここは何て名前なんだろう?
案内された席は海が見える場所で、手書きのランチのメニューから、それぞれトマトとクリームのパスタを頼んだ。私がトマトソースで、芳彰がクリームだ。
最初に来たサラダは芳彰が取り分けてくれた。
が、この野菜の種類の配分に偏りがあるのは、気のせいではないはずだ。
パプリカは全部私の皿にある。
「パプリカも嫌いなのか?」
「だって、甘いピーマンって変じゃないか?」
「じゃぁ普通のピーマンは?」
「・・・存在しなくていい。」
そう言って目を逸らす。
・・・どっちにしろ食べないんだ。子供の言い訳みたいでまったくもって面白い。
スープとパンが置かれ、私は早速パンに手を伸ばした。
でもトーストされたそれは熱くて、驚いて引っ込めたら笑われた。
スープも熱くて、猫舌には残念ながらまだ手が出せない。
それでいじけそうな気分でいると、お皿に乗ったパンが前に置かれた。
「ありがと。」
と一言添えて、今度は用心して手に取った。
千切るとトマトが練りこまれているのか、少し赤くてハーブの良い匂いがした。
メインのパスタが来た。
私のエビと三種のチーズのトマトソースも美味しそうだけど、
キノコとベーコンのクリームソースのフェットチーネも美味しそうだったので、
一口分貰って食べたら、私の皿から3倍くらい持っていかれた。
しかもそれは一口で消えてしまった。
「あっ!」
と、思わず抗議の声を上げたら、
「もう食べた。」
とだけ返ってきた。
食後のデザートにはブルーベリーソースのかかったチーズケーキを選んでいた。
芳彰はリンゴとカスタードのタルトだったんだけど、甘過ぎたのか、パスタのお詫びなのか、そこはよく分からないけど半分くれた。
コーヒーをブラックで飲む彼に、
「じゃぁ、遠慮なくいただきます。」
と、内心笑いながら感謝し、フォークを刺した。
とても楽しかったし、美味しかった。
でも、本当の所の一番の感想は、
ランチセットでもこんなにするんだ・・・という事だった。
*-*--*--*--*-*
「お昼どうする?」
美晴さん達はこの店に入って行ったが、僕はチョークで書かれたメニューを見て、より正確にはメニューの値段を見て躊躇した。
払えない事はないが、そうすると後々苦しい。
葵姉も微妙な表情をしているから、きっと似たような事を考えているのだろう。
他に何か無いものかと見回すと、洒落た外装の手作りのパン屋が見えた。
「あそこで何か買って、そこのベンチに座って食べようか?」
彼女は振り返って店を見て、どことなくホッとしたような顔をした。
「美晴の彼氏、美晴に関連する人物・・・・・・あー、そうだ。冬頃に見たんだ。」
木陰になったベンチで、クリームチーズの入ったパンに齧り付きながらも、未だ美晴さんの彼氏について考えていた葵姉は、やっと何かを思い出したらしい。
「冬?」
ようやく見る事ができたすっきりした表情で、彼女は言葉を続ける。
「うん、寒い中いつも立ってる妙な人がいてね、美晴が面白いもの見つけたって喜んでたんだけど・・・まさかその人と付き合ってるとは。」
「・・・どうしたらそうなるの?」
『妙な人』は付き合う対象には成り得ないだろう? 僕にはとても腑に落ちない。
さすが美晴さんだけある。考える事がさっぱり分からない。
「さあ、美晴の事だから分からないけど。でもあの時と今は別人みたいな印象よ。だからなかなか繋がらなかったのよね。」
葵姉は少し拗ねた様子で言葉を切ると、ペットボトルのミルクティーを流し込んだ。
「じゃぁどんな感じだったの?」
何がどう妙な人なのか気にはなる。確かに寒空の下で黙って突っ立っているだけでも十分に怪しいが、それには事情もあるんだろう。
しかし、それくらいではあの美晴さんが『面白い』なんて言う訳が無い。他に何かきっと理由があるはずだ。
「冬に見かけた時は、いつも仏頂面だったかな。寒いから仕方ないのかもしれないけど、美晴と違って、ずっと見ていた訳じゃないし・・・でも全然、あんな楽しそうな雰囲気じゃ無かったわね。」
・・・残念、謎は謎のままか。




