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前に進むために。  作者: 薄桜
本編
2/12

諦めと驚き

2話目です。

ではどうぞ。

そして、私は笑顔の母に見送られ、芳彰に引きずられるようにして外に連れ出された。

それから、下に停めてあった青いBMWの後部座席に押し込まれ・・・これは駄目だ。と、完全に自らの敗北を認めざるを得なくなった。

隣には当然のように芳彰が乗り込み、運転席にはもちろんあの人。芳彰の姉の茜さんがいる。私はあの人には、どうやっても勝てない・・・勝てる気もしない。

「・・・それで? 私はどこに連れて行かれるんでしょうか?」

わざと嫌味ったらしく尋ねるが、悔しいかな帰ってくるのは甘い囁き。

「もちろんデートに決まってるだろ?」

頼むから、そんなに耳元で囁くな・・・。

「でもその前に、美晴ちゃんはきれいになろうか?」

バックミラーに映る茜さんの笑顔と目が合い、私は更に諦めの境地に至った。


いくらBMWでも、ツードアのおまけ程度の後部座席の乗り心地は大した事が無い。

幅が狭いせいで足の置き場が心許なくて、揺れて振り回されそうになる度に、芳彰に支えられるのが何となく悔しい。

車は駅の方へと向かい・・・路上パーキングに駐車して、それから私は二人に腕を取られ、駅前にある一軒のお店へと連れ込まれた。

ブランド中心のセレクトショップで、恐れ多くて入った事など一度も無い。

・・・確かに『後はこっちでやる』って言ってたけど。これはどういう事だ?

「じゃあこれと、これ、あと靴はこれで、バックはこれ可愛いわね。」

「うん、いいんじゃないか?」

この姉弟は私が呆然としている間に、値段など一向に気にも掛けず、服やカバンをあっさりと選んでいく。

「さあ着替えましょうか、お姫様?」

数分後にはお店の人に(いざな)われて、私は店の奥へと連れて行かれた。

・・・あのさ、これ、お店の人までグルなのか?


 *-*--*--*--*-*


開店直後の客の少ない状態から、粘り続けている間に客は幾らか増えた。

美晴さんがあの店に連れ込まれてから、もう1時間近く過ぎた事になる。

「確かあの人、美晴のデジカメで見た人よ。」

という葵姉の意気込む話を聞いて、とても期待感は大きいのだが・・・これだけ時間が過ぎると、もうさすがに待つのに飽きた。

だから、どうしようかって話をしていた時、美晴さんを連れて行った背の高い男性が店から出てきてホッとした。ちなみに今彼は、ワンピース姿の女性を伴っている。

そして、やや遅れて最初に入っていった女性も続く。

・・・という事はつまり、ワンピースの女性が美晴さんだという事になる訳か。

キレイなラインの薄いラベンダーのワンピースに白いカーディガンを羽織り、ワンピースと同系色のヒールの高い靴。そして、大きめの花の飾りのついた白いバックを手にして、髪は上げて纏められ、きっと化粧もしている。

もし、知らずにすれ違ったら、あれが美晴さんだとは絶対に気付かないだろう。

そもそも、制服以外のスカート姿を見るのは初めての気がする。あの人は小学生頃から半ズボンは履いてもスカートは履かなかった。

「まさか、全身コーディネートとは思わなかった。」

「何? 一体どこのセレブなのよ?」

葵姉の声音は動揺しきりで、僕同様に驚いているのは間違いない。

しかし、あんなに明らかに戸惑っている美晴さんを僕は始めて見た。入る前の嫌々な感じでは無く、あれは恥らっている。

けれど隣の男性は何食わぬ顔で彼女の手を引き、そんな彼女の反応を楽しむほどに余裕なのだろう。

僕が振り回されてばかりいるあの人も、人に振り回される事があるんだなと意地悪くも感動し、今彼女を振り回している彼に、ほんの少し尊敬の念を抱いた。

しばらくはその場で三人・・・正しくは、ただ突っ立ってる美晴さんを除いた二人が話をしていたが、女性だけがその場を離れ、路上パーキングに停められた青いBMWの2ドアのクーペに乗り込んだ。

・・・おいおい、あのBMW確かものすごくいい値段だったはずだ。

美晴さんの彼氏は一体何者だ? 何であんな車を足に使ってるんだ???

葵姉の使った『セレブ』という言葉が、僕の中で一気に真実味を帯びてきて、思わず顔が引きつるのを意識した。

・・・やっぱり美晴さんは謎の人物だ。

そして残るのは当然、美晴さんとあの男性。

「ひょっとしなくても、あれデートよね?」

同じ事を考えた葵姉は、期待に満ちた目を僕に向け更に声を弾ませる。

「面白そうな展開が期待できそうね。」

「・・・そもそも想像が付かないよね。」

まさかあの人のデート現場に遭遇するとは思いもしなかった。確かにこれはいい仕返しができそうだなと、心が騒ぐのを感じる。

人が悪いと思わなくもないが、今までの仕打ちを思えば何でもない。

別人のように変身した美晴さんは、彼氏に手を引かれて駅へと向かって歩き始め、

「さぁ、私達も行きましょう。」

少々興奮気味の葵姉も行動を開始した。

「そうだね。」

僕はその姿に苦笑しながら返事をして、駅に向かって歩き出した。

青いBMWのスポーツカーが良いそうです。

随分前になりますが、仕事で縁のあった某配送弁当屋の専務が仰ってました。

先代の娘さんで、社長は婿養子です。

子供を塾に送る都合で、4ドアセダンのBMWに替えたけど、やっぱり不満だ。

・・・と、その車の中で聞きました。

その辺りを参考にしたチョイスです。

後部座席の乗り心地の参考は、BMWではなくポルシェ。

助手席は知りませんが、2ドアの後部座席はそんなものだと思う。

乗せてもらった一番珍しい車は、ロータス・スーパー7.

車好きの社長の持ち物でした。・・・働いてた頃ですけどね。

車高の低いオープンカーで、駅から出てきた学校帰りの大量の中高生に遠慮の無い目でジロジロと見下ろされるという、貴重な体験をしました。

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