表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前に進むために。  作者: 薄桜
おまけ - ネタばらし編 -
12/12

母親の意地と姉の気持ち

はい、これでラストです。

ではどうぞ。

友人の娘さんが所属する劇団のお芝居を、他の友人二人と一緒に見に行ったら、それが予想以上に面白くって、帰りにお茶をしながら偉そうに批評し合った。

本当に充実した楽しい時間を過ごした後・・・私はそれを見付けてしまった。

何度かお世話になった事のある、昔からある一軒の画廊のガラスの向こうに、見間違えようの無いタッチの絵が見えた。

「あら、宮原さんどうしたの?」

思わず足を止めていたらしく、中原さんに見咎められて自分でも驚いてしまった。

「画廊? 何か良い絵でもあるのかしら?」

絵が好きな大平さんは、ガラスの向こうに興味を湧かせて楽しそうな目を向けている。

「あっ、えぇ・・・見てみたい絵を見付けたの。少し見てもいいかしら?」

まさかこんな所で、息子の絵を見つけるなんて思いもしなかったわ。

そして、私達は三人揃って店の扉を潜った。


「いらっしゃいませ、ご婦人方。」

以前より些か老けた印象の店主は、私達を人の良さそうな笑顔で迎えてくれた。

それから私を見て、改めて個別の挨拶をしてくれた。

「あぁ、宮原さんじゃないですか。お久しぶりです。」

「こんにちわ、お久しぶりです。」

そう、返事をすると、

「いえいえ、こないだはお嬢さんが、たくさん絵を持っていらっしゃいましたよ。」

店主は嬉しそうに、私の知らない話した。

・・・茜が絵を?

「あの・・・、そこの絵・・・、」

私には状況が解らないので、気になっている外から見えた一枚の絵を指して、尋ねてみると、何となくそのカラクリが見えてきた。

「ええ、あれもお嬢さんから預かってる一枚ですよ。なかなか面白い作品ばかりでね、なのに、誰が描いたのか尋ねても教えてくれなかったんですよ。」

店主は残念そうにこぼして、頭を掻いている。

なるほど、茜が噛んでるなら納得ね。

もうっ、あの子も私に内緒で色々やって・・・本当に姉弟仲がいいんだからっ!

行き難い私に代わってなのか何なのか、茜は時々末の息子の様子を見に行っている。

勇気を出して、一度息子の部屋に行ったのだけれど、その時に思いもかけない言葉を聞いて、私の足はまた遠退いてしまった。

「ねぇご主人? 彼の描いた絵を他にも見せて下さる?」

「・・・彼、ですか? 奥さんも描いた人をご存知なんですね?」

店主は困ったように笑い、教えて下さいよとせがまれたが、

「ナイショ。」

と、煙に巻いておいた。

息子の絵を母親が買うなんて、何となく恥ずかしいもの。

それにしても・・・茜が何かするつもりなら、私だって。

主人も裕隆も何か芳彰の事知ってるくせに、みんな私には内緒にしてばかりで、正直面白くなかったのよ。

・・・見てなさい。あまり母親を舐めないでよね?


そして私は、並べられた息子の絵の中から一枚の絵を選んで買った。

中原さんと大平さんも、楽しそうに1枚ずつ買ってくれたが、正直な所複雑な気分でそれを見ていた。

ずっと私がこの絵の、一番のファンだという自負がある。

認められるのが嬉しい反面、知らぬ所に離れて行くのは、やはり寂しいような心地がした。


 *-*--*--*--*-*


離婚の調停がグズグズのまま纏まらなくて、やっぱり男女の仲は難しいなって、疲労感いっぱいの思いで家に帰ってくると、リビングに飾られている絵が変わっていた。

母の気分や季節によって、時々入れ換えられてはいるものの・・・まさかこの絵がここにあるとは思わなかった。

「あら、お帰りなさい。今日も遅かったのね?」

「あぁ、うん・・・、仕事が長引いちゃって・・・ねぇ、それよりこの絵・・・どしたの?」

母はにんまり笑うと、

「いいでしょう? 画廊で買ったの。これが3万円ってお買い得だと思わない?」

と、明らかに惚けている。

何だ・・・ちゃんと分かって買ってきたのね。何て回りくどい事してんのこの人?

「・・・何も買わなくたって・・・今までいっぱい家にあったのに。」

まさか、母さんが芳彰の絵を見付けて、買って来るなんて思いもしなかった。

「あら、これでもちゃんと評価して、応援してたつもりだったのよ? だから、今日だって一番気に入ったのを買ってきたのに。」

「母さんの心配とか応援は、分かりにくくて厳し過ぎるから。あんまり芳彰には届いてないと思うよ?」

私だって、それに気付くのに随分とかかった。この人は、下になる毎にできて当たり前的な所がある。

兄の出来が良過ぎたせいか、多少の事では褒めてくれない。

嬉しかった事を話すたびに、「そう。」と何でもないような返事をされた。

小さかった私は、それはそれは努力したつもりだ。あの言葉の先に『もっと頑張れ』と暗喩されているような気がして、絶対褒められてやると躍起になった。

でも私は途中で疲れてしまった。

しかし、そうして少し離れた所から見られるようになると、なんとなく母の内側が理解できるようになった。

この人は、素直に喜ぶ事が恥ずかしいらしい。できればもっと頑張って欲しいという思いも混じっているようだが、私達が感じていた程ではない。

そうして、母のおかげで努力家になった芳彰は、本当に色々と成し遂げてくれた。成績も良くて、運動もできて、絵では何度賞状をもらって来た事か・・・でも、あまり大っぴらに褒められていたような記憶は無い・・・表面上は。

だけど、一番下が一番可愛がられている事は、私には何となく分かっていた。多分兄も知っている。

「母さん、もう少しちゃんと誉めてやるだけで良かったのに。」

弟の分と、私の分と、少しだけ非難を込めて、今更ながらに伝えてみた。

「そうかしら? 私そんなに厳しかった?」

嘘・・・自覚、無かったんだ・・・。

母を少し恨めしく思うが、その反面感謝が無い訳では無い。

・・・でも芳彰はこれからだ。

「芳彰が帰ってきたら、少しは反省してよね。」

芳彰は一度、ちゃんと向き合わなくてはいけないんだから。

今のままの状態は、きっとあの子が許さない。だから芳彰もきちんとここに帰ってきて、けじめをつけるはずだ。

そうでなければ彼女の傍にはいられないって、芳彰自身が思うはずだもの・・・必死になるわよね、そりゃ。

・・・本当に面白い子を見つけたものよね。

でもこれは、母さんには刺激が強いかもしれないから、やっぱり黙っていましょ。

父さんも傍観の構えだし、どうなるかが楽しみなのが本音だもの。

本当、この絵みたいに雪が解けて、可愛らしい花が覗くといいんだけどね。

雪が溶け、春を迎える野の原に覗く小さく可愛らしい黄色い花。

改めて弟の描いた絵を眺め、楽しそうに絵を描いていた頃を思い出して、何となく懐かしい気分になった。


 *-*--*--*--*-*


7月になった日に、ようやく家出息子が帰ってきた。

おずおずとリビングに入ってきた途端に、絵に気づいて驚いている様子に、やったわって気分になり、頬が緩むのを隠せない。

「やーっと、帰ってきたわね。」

「・・・あぁ、うん。・・・ごめん。でもこれ?」

「いいでしょう? 画廊で見かけて買ってきたの。」

混乱気味の息子に、もう少し驚かしてやろうって気分になる・・・心配かけられた分、人が悪くなってるわね、私。

「・・・そう、なんだ。」

あらあら、良い感じ?

「まさか息子の絵を見付けるなんて、思いもしなかったわ。」

「はっ!?・・・母さん、知ってたんだ?」

あー、もう可愛い!

芳彰ってば、いい反応するんだから。

「当たり前よ。あなたの絵が判らない訳無いじゃない。私を誰だと思ってるの? 母親を舐めないでちょうだい。」

ピシャリと言って、これで随分とすっきりした。

「参ったな・・・、親には適わないって本当なんだな。」

でも、半笑いで顔を半分覆う息子の手を見て、今度は私が驚かされた。

「・・・芳彰、その指にあるのは?」

指には銀色の指輪が光っている。男なのに・・・何て、言う気なんかありませんよ? でもそれは・・・

「んぁ、あぁこれ? 彼女とお揃いなんだ。」

指輪をかざして事も無げに言ってくれるけど、左手の薬指というのは、母さん意味深過ぎると思うわよ?

「まさかあなた、勝手に結婚してたりしないわよね?」

家出して、そのまま誰かと結婚してて・・・まさか、みんなこの事隠してたって言うんじゃないでしょうね? ・・・ってもしそうなら、私はとても立ってられないわよ?

「・・・何言ってんだ、してないに決まってるだろ? まだ俺は、そこまで責任取れる身分じゃないよ。ただのペアリングだ。」

「そう・・・。」

とりあえずはホッとした。これまでにも、何人か彼女がいたのは知っていて、何度か話題に上がった事もあるけど・・・

でも、今の話しぶりから、これまでとは何となく雰囲気が違う気がした。

「そのうち紹介するよ。」

どうしたの!? 今まではそんなの言い出した事もなかったのに・・・、紹介してってつつくと、嫌がるから言ってたのに。逆に向こうから、しかも当たり前のように言われると、・・・私覚悟しなきゃいけないのかしら?

「・・・そう。」

「母さん、」

「はい!?・・・何、どうしたの?」

不意に呼ばれて、慌てて返事をした。

「ありがとう、それから・・・心配かけてごめん。」

感謝と謝罪の言葉を、照れながらも口にする姿を見て、私はジンと胸が熱くなった。

どうやら息子は出て行った時とは違うみたいで、この家出で一回り成長してきたという所なのかしら?

だとしたら、この件は悪い事でも無かったのかもしれないわね。


・・・でもやっぱり私、彼女の存在っていうのがとっても気になるわ。

えーと、経験と自戒を込めて(汗)

「もっと頑張れ」ってやっぱり思っちゃうんですよね、親としては。

でも、薄い反応だと、子供は躍起になるんですよ。

認められて無いと思って、必死に頑張っていたのに、ある日フッとそうでは無かった事に気付き、あれ?

って思うんです。

後は、やっぱり一番下は可愛がられるんですよって辺り?


読んで頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ