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義妹記  作者: 白鳳
義妹編
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はじめての大仕事(3)

二人が対峙する。先に動いたのは、相手を倒し手柄を奪うことを考えた俺だった。


相手に向かって猛進し、渾身の一撃を放つ!しかしあっさりといなされてしまう。だがすぐに腰をねじって相手を視界に捕らえ防御体制を取ったおかげで反撃は防ぐとこができた。


普通の相手ならここまででターン終了なのだがコイツは違った。すぐさま俺の腕をつかみ、壁へ投げ飛ばす。壁までの距離は短く、俺はなす術もなく壁に打ち付けられてしまった。


「がはっ…!」


衝突により血反吐を吐く。その隙を逃すまいと相手は前蹴りを放つ!すんでのところで躱し、お返しにカエルアッパーをお見舞いする!


「ぐぉっ…」


俺の反撃は顎部に当たり相手はのけぞる。普通なら脳震盪で意識を失うんだが、さっきの行動といい打たれ強さといい、並大抵の人間ではない。


アニメでよくあるような拳打の応酬を繰り広げながら考える。


もしや、コイツが『八部集』の一人?――


そう考えたがもしそうだとするとコイツが雇い主である要人を殺したことの説明がつかない。じゃあ一体何者なんだ!?


「どうした?何か考え事か?」


「ッ!?」


直後、相手はサマーソルトキックを放ち防御体制が崩される。俺が再度防御体制をとるよりも早く相手は着地し、がら空きの胴に掌打を打ち込む!


「っぐぁ…!!」


モロに喰らった俺は壁まで吹っ飛ばされ、受身を取ることもままならず壁に直撃する。奇跡的に意識と四肢にたいした被害はない、その分内臓のダメージは計り知れない。現に立つ事さえままならない。そんな時――












(・・・力を貸してあげようか?)


まいったな、幻聴まで聞こえ出した。どうやら結構ガタがきてるらしいな。


(幻聴とは失礼ね。まぁいいわ、このままだとアナタは確実にあいつに殺されてしまうわ。そうなってしまったらマナミちゃんともお別れになるのよ?それでもいいの?)


お前は何者だ、そしてなぜマナミのことを?


(そんなことは今はどうでもいいの。それより騙されたと思ってアナタの体を貸してくれない?)


悪い話ではない。こんなところでくたばるわけにはいかない。生きて帰れるのであれば悪魔に魂を売ってやろうではないか!好きに使ってくれ。


(契約成立ね。それじゃ、遠慮なく。あと、アタシは悪魔じゃないから安心してね。)



幻聴だと思っていたそれは幻聴ではなかった。立ち上がることさえできなかったはずなのにすっくと立ち上がる。相手もこちらに気付き


「……さっきので仕留めたとと思ったんだが、それを耐えたどころかまだ立ち向かおうとするとはな。こいつは楽しみだ」


ゆっくりと手を打ち合わせながら言う。そして手を止めてさらに言葉を続けた。


「お主の名を聞かせてもらおうか」


おおと…


「生憎だが、貴様らに名乗る名など持ち合わせてはいない」


どうやら、発言権さえも奪われてしまっているようだ。こうなってしまっては最早傍観者に徹するほかない。


「よかろう。ならばその名、力ずくで聞くまでよ!!」


今度は相手が先に仕掛けてくる。だがさっきまでよりも速い!


「そうでなくては!」


相手の攻撃を一つ一つ正確に処理する。俺なら2・3発は貰ってるだろうな。


しばらくの間拳のやり取りがおこなわれる。しかし反撃に出ることは一向になく、防戦一方の展開が続く。


「どうした、守るだけでは私には勝てぬぞ?」


「それじゃ、遠慮なく」


その直後に放たれた相手の左を受け止め、その腕を伝って肉薄し首筋に手刀を振り下ろす。動きが止まった一瞬の隙に相手を引き倒し、倒れてくる相手の背中を膝で迎え打ちさらに肘で追い打ちをかける。さらにその肘で相手を押さえつけ、もう片方の手で鳩尾を正確に突く!


「っはぁ…!」


さすがに最後の一撃は効いたようだ。しかしすぐに立て直し、体をねじらせ俺の押さえをほどき一度距離をとるもすぐにまた接近してくる。加速状態からの強烈な一撃がくると思った俺は防御体制をとる。すると相手が不吉にニヤリと笑った。


――これはさっきのサマーソルトと同じ流れじゃないか!


そう思ったときにはもう遅い、相手は減速しサマーソルトキックを放つ。すると今度は俺がニヤリと払った。


まさかアイツはこれを見越して――!?


俺の読みは正しかった。俺は少しのステップと回転で攻撃をかわし、回転の遠心力も加わった蹴りを相手にブッ放す!


「があっ…!」


相手は壁の辺りまで吹き飛ぶ。相手は持ち直した後に構えを解き―


「益々興味が湧いたぞ、お主」


俺もだ。自分自身が普通じゃないことはわかっていたがここまでの能力を秘めているとはな。


「白黒はっきり付けたかったのだが今日はここまでだ。そいつの首はおぬしにくれてやろう。」


(逃げる気か、追うぞ!)


(馬鹿いわないで、無理よ)


「私は『八部集』が一人、夜叉だ。いずれまた相見えることになるだろう、さらばだ」


そういうと夜叉は窓から部屋を出て行った。あとを追うのが無理というとこは今になってわかった。さっきまで俺を動かしていた声の主はすでに俺の体の操縦権を放棄していて、これまでのすべてのダメージを一度に受けたからだ。走ることなどできるはずがなく、おやっさんの待つ回収地点まで痛みを堪えながら進まなければならなかった。



































――神社の本堂――


「ただいま。行ってきたわよ」


「おかえり。それで、どうだった?」


「素質は最高級ね。今までに例を見ないくらいのものを持っていたわ。ただ、本人は使いこなせていない感じだったけど」


「やっぱりそうなのね。ねぇ、彼がその力を使いこなせるようになるにはどうすればいいと思う?」


「悟りを開いて明鏡止水の域に達する、とか?」


予想通りの答えに笑う。そしてさらに言う―


「普通はそうよね、でも彼は違うと思うの。あくまでも私の推測に過ぎないけど彼の場合、鍵となるのは妹よ。」


「なるほど。たしかに彼に妹とお別れになるって言ったらすんなり体を貸してくれたわ」


「でしょ?もしも妹が実害を被るようなことになれば、きっと彼は最強の状態になるわ」


「それはさぞ楽しいことになりそうね」


「内輪で押さえようとするとしたら相手をするのは自分よ、わかってるの?」


「もちろんじゃない、。あぁ、考えただけでもう…!」


「はいはい、そこまでにして頂戴。ところで…」


さっきまでは笑ったりもしていた顔が一気に真剣実を帯びる。


「そこにいたのは『龍』だったの?」


「いえ、『夜叉』よ。」


そう聞くとさっきまでの真剣な顔はどこかへと消えていった。
























――屋敷近くの空き地――


歩きたくないと訴える体に鞭打って回収地点にたどり着くと、暗闇に完全に同化した車が一台とおやっさんがいた。


「ん、来たか。よもやゾンビではあるまいな?」


「ちゃんと生きてますよ、死に掛けてますが」


車に乗り込み、横になる。車は俺を治療するために綾さんの神社へ向かっている。


「しかし、これで君も一躍有名人だな」


「有名人?俺が?」


体はボロボロでも口と脳は元気なようだ。そういえば目的の要人は結構な大物だって言ってたな。


「要人が大物だったことも大きいがそれよりもあの『八部集』と戦って生き延びたことだ。きっと彼らと同等の強さを持つものとして知れ渡るだろうな。広がっていくのも時間の問題だ、どうにもとめられんよ」


「・・・・・・」


「やはり妹が心配か?」


「それもあります。でもマナミはどんなことがあろうと守ってみせますよ。それにいつかはこうなるだろうって思ってましたから」


「それは頼もしいな。だとしたら何を悩んでいたんだ?」


「あの屋敷で『夜叉』と闘ったんですが、まるで歯が立たなくて…」


「なるほどな。強くなりたいか?力が欲しいか?」


「……!」


はっきりとした記憶はないが、そんな風なことを昔誰かに言われたような気がする。でもどう頑張っても思い出せない、デジャヴだろうか?


「どうした?」


「あぁ…すみません。ちょっとボーっとしまして」


「その容態では無理もない。着くまで休むといい」


「…そうさせてもらいます」


そうして俺は少しばかりの間睡眠と休息の世界へと落ちていった





「着いたぞ、起きろ」


おやっさんに起こされる、マナミがいつも優しく起こしてくれているからなのか俺の体がボロボロだからかわからないが痛い。だがおかげで眼も冴えた。車を降り、おやっさんと二人で本堂へと歩いていった。少しとはいえ休んでいたため動きやすかった。


「来たわね。こんなことになるだろうと思って治療の用意をしておいてよかったわ」


本堂に着くともう準備はできていて、あとは俺が横になるだけだった。事前に相談に行ったのがこんな形で功を奏すとは思ってもみなかった。


「しかし派手にやられたわね。ところでこの頭の傷は何かしら?この傷だけちょっと治りかけてるんだけど」


「あぁ、それはこの一件とは違うところでの傷です。ちょっとバットでやられましてね」


「ついでだから一緒に治療しておくわね」


綾さん自身は治療といっているが、どちらかといえば神通力のような力による治癒の方が正しい。そのため、そのうち一粒で全快になるような豆の栽培を始めるんじゃないかと密かに期待している。


「それにしてもよく夜叉と闘って帰ってこれたわね。『天』と『龍』に次いで強いといわれてるのに」


「今回の標的が俺ではなかったからじゃないですか?向こうもそんな風なこと言ってましたし」


「だとしたら、とんだ強運の持ち主ね」


「運も実力のうちと言うじゃないですか。ところで、相手が夜叉だって言いましたっけ?」


一瞬、綾さんの表情が凍りつく。しかしすぐにいつものようになって


「そのくらい調べればすぐにわかるわよ。甘く見ないで頂戴」


おかしい。あの場面で生きていた第三者などいたはずがない。もしいたら夜叉が感付いていたに違いない。となると考えられるのは夜叉と綾さんがつながっていたか、もしくはあの霊体と綾さんがつながっていたかだ。ただ、今俺の命は綾さんの掌にある。不用意な言葉でまた死に掛けるのは御免だから考えるだけにしておいた。


「その夜叉とやら、もしかしたら君を試していたのかもな」


「おやっさん、どういうことです?」


「『過激団』には世界征服や何かに対する復讐といった全員がまとまるような要素はない。まぁ中にはそういう奴もいるかもしれんが…。他にもただ強い敵と闘いたいという奴もいる。夜叉は恐らくその類だったんだろう」


「…というとことは、俺はその力試しに合格した、と?」


「恐らくね。あなた、自分では気付いていないでしょうけど、潜在能力は折り紙つきよ」


「そんな、綾さんまで…」


こっちの世界で名を馳せている綾さんにそういわれるとまんざらでもない。だがこれまで一度もタッグを組んだ事がないというのは、まだそれには及ばないということなのかと考えるとちょっとヘコんでしまう。


「それはそうと、治療終わったわよ。しめて五万九千八百円ね」


「え゛っ!金取るんですか!?……じゃあ報酬から天引きしといてください」


「冗談よ、冗談。今はお金には困ってないから」


「今回はタダということだが、そうでなかったとしても心配は要らんぞ。金のことで困ったらいつでも言ってくれ、手配するからな。」


「じゃあもしものときはお願いしますよ」


正直今のところ家計は厳しいわけではない。贅沢をしても多少の余裕があるくらいだ。だがこの先どうなるかはわからないから本当に困ったときは頼らせてもらうことにしよう。


「じゃあウチの神社にいくらかお布施を…」


「おいおい、さっき金には困ってないといったじゃないか」


やはり駄目ですか、と続き三人は笑った。とても大仕事をやり終えた後の光景とは思えなかった。

またしばらく日常partが続きます。



お読みになって頂きありがとうございました

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