屋上掃討戦
奴等に協力を要請するため自教室に戻ってきた。マナミを怒らせて追い出されたんじゃないかと陸にからかわれたが、そんなのは無視して教室の一角でくつろいでいる二人組に声をかける。
「よっ。今いいか?」
「あぁ、構わんぞ。まぁ座れ」
座る許可がでた確認した上でイスに座る。クラスメイトたちは平静を装っていはいるが俺たちの会話に耳を傾けているのがわかる。
「今日はお前らに頼みたいことがあってきた。」
「内容次第やな。」
「屋上の掃除、別に俺一人でも構わなかったんだがマナミに圧をかけられてな、だから万全を期して望もうってわけだ。」
「ハギ、どうする?」
俺の依頼を受けるかどうかで話し込む二人。ちなみに関西弁っぽい方が萩でそうじゃない方が慧だ。こういう紹介の仕方は二人はあまり好ましく思ってないらしいがわかりやすいんだからしょうがない。俺とこいつらは違う中学なんだがそのときから何かと有名だったせいで高校の初日から親交があり、その結果、こんなことを頼める間柄があるのだ。
「待たせたな、その話乗るわ」
「助かる。お礼に今度飯でもおごってやるよ。それじゃ、放課後にいつもの部屋に来てくれ」
「なんだ、今からじゃないのか」
「時間制限がないほうがやりやすいだろ?」
「せやな、ほなまたその時に」
席を立ち自分の席に戻る。戻る途中、クラスメイトらから激励や応援の声がかけられる。屋上が使えないことに不満を覚えていた人も少なくないようだ。
キ――ン、コ――ン、カ――ン、コ――ン
放課後、そしてここは局長室。俺は一足先に向かい、二人の到着を待っている。
ガラガラ――
戸が開き、二人が入ってくる。
「きたで。ほな行こか」
真ん中に俺、両側に二人という陣形で屋上へと進む。
「事前に集まるとは、お前もずいぶんと慎重になったな」
「言ったろ?万全を期するって」
階段を上っていき、存在しているだけで何の役割も果たしていない規制線をくぐると、次第に階段の隅には私物が増えていき、いかにもそれらしい雰囲気になってきた。
そして階段は終わり、目の前にはスプレーかなんかでマーキングされた扉。恨みはないがこの扉の向こうにいる奴等には力ずくでも明け渡してもらわなければならない。
すぅ…はぁ… と深呼吸の後、
ドガッ!―――バダン
ドアを蹴り開け、ついに屋上に乗り込む。その先には・・・おるわおるわ不良どもが、ざっと数えたところ30人はいるだろうか、それだけの視線が一気に集まる。やっぱり最初に目が行くのは両側の二人で、どうしてここに来たのか、そしてあの二人を従えている俺は一体何者なのか、といった事に動揺を隠せないでいるのが大半だがその中には――
「おぃ、真ん中のやつって『紅眼』じゃないか…?」
俺のことを知っているやつもいるようだ。
「マジか!?そんなやつが相手じゃ命がいくつあっても足りないぞ…」
「俺は逃げるぜ!」
「俺もだ!」
二人が逃げ出そうとしたその時――
ガスッ――ドゴッ
一人は足を払われ転倒し、もう一人は殴り飛ばされ鉄柵に激突し、そのまま気を失って動かなかった。
転倒した方を足で踏みつけて一言――
「敵を目の前にして逃げるとは、なってませんねぇ」
そしてストンピングをかまし、俺たちの目の前へ歩いてくる。どうやらこいつがこの取り巻きのリーダー格らしい。
「これはこれは、まさかこんな所にまで来られるとは…。ご足労おかけして申し訳ありません、先輩方」
深々と頭を下げる。妙に礼儀正しい奴だ、これも両側の二人の効力なのか?
「それで…何のご用でしょうか?」
「ここを使わせて貰いたくてな、悪いけど空けてくれんか?」
「それはできません。それにお二人も言ってたではありませんか、『欲しい物は力ずくで奪い取れ』と」
「せやったな。…ほな実力行使といかせてもらおか!」
「そうでなくては。それにあなた方は有名も有名、少数では勝ち目がないですがこの人数ではさすがにキツイでしょう?そして勝てばこの学校は私たちのものとなるのです!」
その言葉を聞いてあまり気乗りでなかったやつらもその気になり、指や首をポキポキ鳴らしたり、フットワークを始めたりしていた。
「ようしゃべるやっちゃ。せやけど、野心失わんゆうのはエエことや!」
ハギが動き出したのをきっかけに、二人も動き出す。ハギは右に、ケイは左、そして俺は中央へ――
「っしゃあ!楽しませてくれよ!」
一人が飛び出し、ドロップキックを放つ。
それに対して俺は間合いを計り右へ大きく踏み出し、その足でふんばって――
グシャッ
顔面に蹴りを入れる!もちろん相手はそれ以降ピクリとも動かない。
向こう陣営の驚きは尋常ではなかったらしく、次には全員が襲い掛かってきた。左右では最初から全員がかりだったが。
サッ―ドボッ
先頭の奴の拳をしゃがんで避け、そのままの勢いで銃弾のうような正拳突きを下腹部にぶちかます!
サッ―ゴスッ サッ―ドゴッ サッ―バキッ
同様にかわしては一撃をいれ、またかわしては一撃・・・これだけで半分は片付いた。
「んなろぉぉぉ!!」
一人が首の辺りを狙ってハイキックを放つ、しかしそれを受け止めその足を軸に相手に向かってブン投げる!
ブゥン―ゴスッ
「がっ…」
一人に当たり、二人とも起きて来ない。これで残り三人だ。
「っらあぁぁぁぁ!!」
三人のうちの一人が俺を羽交い絞めにする。
「今だ!俺が動きを抑えてるうちにコイツを!」
「応!」
残りの二人が襲いかかる。まずは向かって右側の奴が俺の顔面に拳を振り下ろす!するとすかさず左側が拳を振り上げ揺れ動く俺の頭部を迎え撃つ!
「これでトドメだ!」
最後に羽交い絞めにしている奴が頭突きをかます!締めを解いていないので頭からのけぞる。
「どうだ…効いただろ?」
「その程度か?」
「なっ!?」
上体を起こし、羽交い絞めを力ずくで解き、お返しに腹に膝を入れる!相手の腰が浮く。そこを逃さず掴み、抱え込むように持ち上げ脳天から垂直に地面に叩きつける!いわゆるパイルドライバーだ。さすがに頭をコンクリに直撃させたら死んでしまいそうなので、頭とコンクリの間に俺の足を挟んでおいた。がそれでも結構な威力だ、10カウントは楽勝でとれた。
「クソがぁぁ!!」
俺を挟み込んでいた二人が同時に走り迫り腕を伸ばす。クロス・ボンバーか!
迫り来る二本の腕をすんでの所でしゃがんで回避する。結果、お互いが相手にラリアットを決める形になって二人ともダウンしてしまった。合体技って難しいな。
「これで俺に割り当てられた分は終わったな…」
周囲を見回すと・・・
「お、やっと終わったか」
「お前は前線を退いてからが長いからなぁ」
二人はすでに倒し終えていてその場にあったソファに堂々と座ってくつろいでいた。さすが二人は今でも活動をしているだけあって俺のように勘が鈍っていることはないようだ。マナミと同じ学校に通う間は迷惑かけらんないし、俺も勘を取り戻した方がいいかな…。
「んじゃ、俺はちょっと屋上を一周してくるな」
今回倒した奴らの顔を覚えておけばもしマナミがいるときに出くわしても追い払うことができそうだし、隠れている奴がいないかを探す目的も兼ねている。
出入口を司る建物の裏へと回り、二人の視界から外れたその時――頭を鈍い痛みが襲う!
「ッ!?」
一瞬意識が飛ぶ。次の瞬間には目の前に男が一人立っていた。
「さっきあなたを『紅眼』だといっていた二人がいましたが、彼らの勘違いでしょう?何せあなたの瞳の色は黒、間違っても紅には見えません。つまり、あなたは『紅眼』の名を騙るニセモノ。私の尊敬するお方の名を騙るとはなんたる侮辱!」
俺の頭部を殴打したと思われる金属バットを高く振り上げる。もう一撃頭にもらうとさすがにもたないだろう。
「私があのお方に代わってあなたに裁きを下します!!」
バットが振り下ろされる。
――ガギィィン!
迫るバットに垂直に拳を撃ち出す!高い金属音を立ててぶつかりあい、その結果バットはへの字に曲がった。
「人を偽物扱いすんじゃねぇ!俺ァ本物だ!!」
本当は武器での不意打ちについても一喝してやりたかったんだが、このときはそこまで頭がまわっていなかった。
「で、ですがあなたは………!そ、その眼は!!」
「これで俺が本物ってわかっただろ?…それじゃ、寝てろ」
顔面と腹部に一発ずつ入れ、止めを刺した。
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