停学1日目③
しかし鍵を奪おうにも、こう距離が遠くては何もできない。
―――スタスタ
マモル君の隣に座り、少し手を伸ばせば鍵に手が届くところまで来る。
「…なんで近くに来る。俺は寝たいんだが」
「逃げれれないようにしておいてその後は知らないって、それはひどくないかな?」
「じゃあお前も寝るか?枕使っていいから」
「じゃ、じゃあ失礼して…」
図らずも守くんと添い寝することになった。嬉しい誤算だけど、本番はここから。
学ランのポケットに手を伸ばし、中を物色する。
中には家の鍵・自転車の鍵などが混在していて、手の感覚だけではどれが正解かよくわからない。
とりあえず、適当に一つを掴んでポケットから取り出す。
「それは家の鍵だ」
「えっ!?」
「気付いてないとでも思ったか」
「・・・・・・」
正直そんな気はしていた。でもマモル君なら見逃してくれるかなって期待していた。
「それに、さっき見せた鍵が本物だと思ったのか?」
「違うの!?ずるいよ!!」
「ズルいもへったくれもあるか。俺はお前をこの部屋から出すわけにはいかないんだ」
「どうして?」
当然の疑問だった。マモル君は他人に迷惑をかけるようなことはまずしない、例外はあるけど。
今回もその例外にあたる、とすれば何か理由があるはず。
「こうでもしないと、二人っきりになんてなれないだろ?」
「そ、そのために危険を冒してまで学校に・・・?」
「半分はな」
「もう半分は…マナミちゃんか」
「そ。俺が大分派手にやっちまったからな、いじめられるんじゃないかと心配だったんだ」
「だからって、そこでマモル君が出てきたら逆効果じゃないの?」
「しかしだなぁ…」
マモル君の語気が弱まっていき、彼がいかにマナミちゃんを大事にしているかが窺える。
「マモル君らしいね。それなら…」
「それなら?」
「……ううん、なんでもない」
マモル君が出ればその場はどうにかなるだろうけど、その分、見えないところでマナミちゃんはいじめられることになる。
そんなことはもちろん守君の望む事ではない。だからといって表だっていじめられるのを見逃すこともできない。
いっそのこと、遠くの学校へ転校してしまえば逃れることはできると思う。
でもそれを実行するなら、マモル君達は人知れず行うと思う。だから行先は誰も知らない。
私はマモル君と離ればなれになってそれっきりになってしまう。でもそれは嫌。
だから転校の話は出さないでおこう。
「とにかく、大丈夫だよ。マモル君がいない間は私達がマナミちゃんをそういう噂から守るから」
「…信頼していいのか」
真剣な目つきで私の目を見る。この目の前では不安や揺らぎ、嘘が少しでもあればたちどころに見破られてしまう。
「もちろん」
「・・・・・・」
マモル君の視線はずっと私を見つめる。時々他の場所に目をやり微細な変化も逃すまいとしている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「……7割だ」
「えっ?」
「7割方は信用できそうだ。だが完全には信用できん」
「き、厳しいね…」
私とマモル君の間だから、100%とはいかなくても9割くらいは行けるものだと思ってた。
「何か私情を挟んでるだろ、その分減点だ」
「あは、あははは…」
マモル君にはその辺も全部お見通しだったらしい。敵わないなぁ。
「俺は朝・昼・放課後の3回様子見に来るくらいにしておくから、俺のいない間は任せるぞ」
「まかせて!」
「ん、じゃあ俺は寝る。3限目終わったら起こしてくれ」
「え、ちょっと!!」
……グー……ガー…
あっという間にいびきをかいて寝てしまった。
いつも自分の要件が終わるとすぐにスイッチが切れてしまい、そこによくイラッとさせられる。
「たまには私の話も聞いてよ、もーっ!!!」
掛布団をバンバン叩く。マモル君は起きる様子もなく、埃が舞うだけだった。
「・・・・・・」
少しすると一時の激情も冷め、むなしいだけになる。
「私も、ちょっと横になろう…」