停学1日目②
「マモル君のことだから、きっとこっそり来てるんだろうなー」
2限目の後は休み時間がちょっと長い。そこで私は『心当たり』を探してみることにした。
――1年生教室――
「お兄ちゃん?来てないよ」
――屋上――
「守?来とらんな」
――生徒会室――
「ここにもいない…となると」
――局室前――
「やっぱり、ここかな…?」
ゆっくりと戸をあける。ベットが盛り上がっていて、誰かが寝ているのが見える。
(誰かが寝てる…マモル君?)
物音を立てないようベッドに近づく。
――ギシッ
(!?しまっ・・・)
踏み出した足を戻す。ベッドの方を見ても、起きた様子はなかった。
(セーフ…)
一端音を立てる恐怖を覚えてしまうと、周りにも敏感になってしまう。
開きっぱなしの窓、高く積まれた雑誌や本、その辺に転がっているトレーニンググッズ・・・考え出すとキリがない。
それに用心深いマモル君のことだから、トラップを仕掛けているかもしれない。
床にスイッチが隠されていて、それを踏むと警報音が鳴るとか…。ぴんと張った糸が設置されていて、それに触れるとガラガラがなったりとか…。
「ぐー、ぐー」
(・・・あれ?ベッドの前まで来れた)
思いの外あっさりこれたことに驚いたけど、マモル君の素の寝顔が見れる喜びの方がすぐに上回る。
はやる気持ちを押さえつつ、目深にかぶっている布団をめくる。
――ガバッ
「え?誰もいない・・・・?」
そこには要るべき人の姿がなく、代わりに抱き枕があった。
詳しく調べようと身を乗り出したその時――
「誰だ」
低くどすの利いた声が後ろから投げかけられる。
首にはその人の手が添えられていて、変な動きをすれば掻っ切るつもりなのだろう。
「・・・ぁ・・・ぁぁ・・・」
言葉を発しようとしても、恐怖でうまく発音できない。
膝は震え、目からは涙がこぼれる。走馬灯のようなものも見えだした。
何もできないまま時間だけが過ぎていく。休み時間の終了を知らせるチャイムも鳴ってしまった。
相手の方も、私が何も言わないことにしびれを切らしている様子で、それが首に当てられた手を通して感じられる。
「その辺にしておけ」
どこからともなく声がした。
「・・・ちっ」
舌打ちの後、私の首から手が離れる。思い切って振り返ってみたが、誰もいなかった。
(今のは・・・何?)
なんだかよくわからないけど、助かったことには違いない。
気を取り直して、ベッドの方を見ると――
「よっ」
マモル君が横になっていた。さっきまではいなかったはずなのに・・・
「い、いつからそこに・・・?」
「ずっと。抱き枕の中にいた」
中身がなくなってくたくたになっている抜け殻のような抱き枕を指差す。
「で、授業サボってまで何の用だ?」
「あ、そうだった!」
授業が始まっていることを思い出し、急いで教室に戻る。
「まあ待て」
マモル君は私の手を掴み、止める。
「3限目の英語は自習だ。担当が出張でいないから、模試の過去問をやらすんだそうだ」
「・・・・・・。」
「どうせほとんどの奴はやりゃあしない、それよりテスト勉強してることだろうよ」
「そういうわけだからもう少しゆっくりしていきな、茶くらいは出すぞ」
「で、でも・・・」
ここで授業をサボってしまえば、マモル君と二人きりの時間を過ごすことができる。多分邪魔も入らない。
理由もないのにサボっていいの?それは生徒会長として許される行為なの?
「・・・やっぱり、戻るね」
マモル君と2人の時間を過ごせないのは惜しいけど、もう二度とないわけじゃない。
生徒会長としての面子を保つべく、教室に戻ろうと決意する。
「じゃ、しゃーねーな」
――カシャン
音がしたとか思うと、左手に違和感を覚える。
見てみると、手錠が片方かけられていた。鎖の先を追っていくと、マモル君の右腕につながっていた。
「これで、この部屋からは出られなくなったわけだ」
鎖の長さは5mもない。つまりマモル君が動かなければ、私はマモル君から5mしか離れられない。
「や、ちょっと…外してよ、コレ」
「ダメだ。3限目が終わるまでは外してやれない」
マモル君は指の周りで鍵をくるくる旋回させている。あれを手に入れることができれば、脱出することができる。
でも力づくで奪い取ることは出来そうにない。油断させてその隙に盗み取るしかない。
「しょうがないなぁ…。あとで釈明手伝ってよ?」
「なに、そっちに関してはもう手は打ってあるさ」