報告
「ただいまー」
「「おかえり~」」
家の奥から二人が慌ただしく出てくる。手にはシャーペンが握られている、勉強中だったようだ。
三人は応接間に移動し、それぞれ適当に座る。
「あっちぃーな…。マナミ、お茶持ってきて」
「は~い」
「はー疲れた」
座った姿勢からそのまま後ろに倒れて寝転がり、両手を投げ出す。
しばらくすると人数分のお茶が運ばれてきた。俺はそれを一気に飲み干し渇きを癒す。
「それで、結局どうなったの?」
「一週間程度の停学になるってさ、テストは受けれるから何とか卒業できそうだ」
「そっか…」
マナは思ったより冷静だった。鼓膜が破れんばかりの大声で驚くかと思ったが、そんなことはなかった。
マナミのほうはずいぶんとショックだったらしい。手元からコップが滑り落ち、お茶を辺りにこぼしていたがそれすら気にならないようだ。
「どうして…?そんなのおかしいよ!!」
マナミは携帯を取りだし、ボタンを迷わず押していく。抗議の電話を掛けるつもりだ。
俺は携帯を取り上げて阻止する。
「あっ!どうして止めるのお兄ちゃん!!」
「もう決まったことだ。覆ることはないだろうよ」
「やってみないとわからないじゃない!!」
「マナや優希・律の親父さんらが圧力かけて、かつ俺が直訴してこれだからな。お前一人じゃ何も変わらんだろう」
「~~~~~~っ!!」
マナミは悔しそうにテーブルをドンドン叩く。
叩き疲れて大人しくなったところで、両肩に手を置きそっとささやく。
「納得できないとおもうが我慢してくれ」
「・・・・・・うん」
「それじゃ、飯にしようぜ。腹減った」
「うん!」
マナミは元気を取り戻し、キッチンへ歩いて行った。
「そういえばさ」
「ん?」
「マモル君の事ってみんなの知る所になってるはずなのに、ずいぶん静かだね」
「まぁな。帰りにそういう雑誌の出版社に行って取材来ないように言ってきたからな」
「へ、へぇ~」
「だから律の親父さんにも会ったぞ」
「律っちゃんの?」
律の親父はゴシップ誌関係の人で、特ダネを逃すまいと常にあちこちにアンテナを伸ばしている。
だがそのせいで危ない話に足を突っ込んだりすることもままあり、特務課に匿ってもらったことがあるとか。
さっき行った時には、会って早々に『迷惑はかけない』と言っていた。
「何か言ってた?」
「特には。忙しそうだったからな」
ちなみに真面目な雑誌ではないため、UMAやUFOの特集をやったり、埋蔵金を追っかけたりもしている。
「お兄ちゃーん、できたから取り来てーー!!」
「あいよー」
昼飯を取りに行く。さっき暑いと言ったから、今日の昼は冷麺になっていた。
俺は三人分を一気に持ち、部屋に戻る。すぐにマナが受け取って机に置いてくれた。
俺とマナは座って待つ。少しするとマナミが三人の箸を持って部屋に入ってきた。ちなみに昔からの名残で、マナにも専用の箸がある。
「「「いただきます」」」
各人麺をすする。はじめは味などに触れていたが、しばらくするとネタがなくなってそれらには触れなくなる。
「そういえばお兄ちゃん」
「ん?」
「来週の週末あたり、みんなを呼んでもいい?」
「皆って言うと…」
「みーちゃん・リサリサ・サキちゃん・みほりん…かな?今のトコ」
「その辺だよなー…。マナ、お前その日予定あるか?」
「ううん。特にないよ」
「よし、じゃあ来てくれ。人手が足りん」
「私はいいけど…、四人位なら二人で何とかなるんじゃないの?」
「ハギとケイも来ることになってるんだよ」
二人の目的は、勉強会というよりはノートを写すことである。テストの日には内容をほぼ完全に覚えてくるから恐ろしい。
「ついでに言うと、その後メシ当番も頼みたい」
「え~!?折角なんだしどっか食べ行こうよ!」
「親御さんの許可が下りたらな」
ハギとケイがアホみたいに食べなければいいのだが……。
「「ご馳走様」」
「お粗末様でした」
マナミは食器を持って台所の方へと行った。俺とマナの二人が残される。
「マモル君…」
ヴーーーッ、ヴーーーッ…
携帯が震える。おやっさんからの電話だ。一応アドレス帳には店長として登録してある。
「悪い、店長から電話だ」
「あ…。う、うん」
俺は廊下に出て、電話をとる。
「もしもし、守です」
「明日、頼めるか?」
「はい、大丈夫です」
「では詳細を送る。そっちを見て確認してくれ」
ブツッ、ツー…ツー…ツー…
二階に上がり、自室の隠し部屋に入る。既にプリンタは音を立てて起動しており、内容が書かれた紙を吐き出す。
吐き出された紙を順番に並べ、読み取り内容を整理する。
依頼人はとあるエリート官僚で、依頼内容は息子の殺害。
息子にも自分と同じ道を歩ませようとしたらしいが、どこで道を間違えたかグレてしまった。
それどころか、父の威厳を盾に好き放題しているそうだ。そしてとうとう父は息子を亡き者にする決意をした、ということだ。
彼(とその仲間たち)は現在その官僚の別荘を根城としているらしい。
また、明日の夜に全員が集まるので、その時を狙われたしとある。
他は、ターゲットの容姿や生年月日などのプロフィールなどが載っている。
顔と名前を覚えておく程度にサッと目を通し、シュレッダーにかける。
その中で一人、出身がこの辺りの者がいた。俺は手を止め、詳しく読んでいく。
(野上麗奈、か…。知らん奴だな)
その紙も裁断機にかけ、ばらばらの紙くずにする。
全員分を見たが、ほぼ全員が中卒あるいは高校中退で札付きのワルだ。族や暴力団に名を連ねる者もいた。
あらかた整理が終わった思ったその時、プリンタがもう一枚紙を吐き出した。
その紙の上には【注意事項・備考】と書いてあった。
・彼らは戦闘に関しては素人だが、父親の金と権力で装備だけは一流の物を揃えているので油断せぬこと。
・彼らは重度の薬物中毒であるとの報告を受けている。我々の予想だにしない動きを見せる可能性があるので油断せぬこと。
・殺害後、残った武器や薬物は好きに持ち帰って構わない。置いて行ったものはこちらで処分する。
ご丁寧に太字で書いている。毎度毎度ご苦労なことだ。
必要な書類をファイルに綴じ、棚にしまって一階に戻る。
「ふー」
「あ、おかえりマモル君」
「まだ勉強やるのか?」
「うん。マナミちゃんまだ聞きたいとこあるって言ってたし」
「はー、熱心だな」
「一緒に勉強する?」
「やめとく。俺がいると集中できないだろ」
「そ、そんなことは!ない…よ……」
「大ありじゃねえか」
この後俺は二人がかりで説得され、同じ部屋で勉強することになった。
マナミ「すっごい久しぶりだね」
守「だいたい3週間ぶりだな」
マナミ「なんでこんなに間が空いちゃったの?」
守「ネトゲとバイトのせいだな。加えて学校も始まってさらに遅くなりそうだ」
マンミ「…大丈夫なの?」
守「ネトゲは飽きるだろうが、バイトはなぁ…」
マナミ「やめたいって言ってるって聞いたけど?」
守「なんだかんだで続けるだろうな」
マナミ「なんか…月一くらいになりそうだね」
守「否定はしない」