表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義妹記  作者: 白鳳
義妹編
53/59

南高夏の陣⑦~後日談~





目を覚ますと俺は保健室にいた。ベッドに横たわっている俺をみんなが囲んでいる。


「お兄ちゃん…気がついた?」


マナとマナミが心配そうな目でこちらを見ている。どうやら俺はあのあとここまで運ばれてきたらしい。


「ちょっと悪いんだけど、2人にさせてもらえないかしら」


綾さんは人払いをして部屋から退出させ、保健室は2人だけとなる。


「さて、治療するわよ」


前回もお世話になった神通力で俺の傷を癒す。


「時間がないから大雑把にするわ、またあとでウチに来て頂戴」


「わかりました。…それにしても綾さん、ずいぶんと強いんですね」


「当然じゃない。だてに長生きしてないわ」


治療が終了する。動かしてみて結構な違和感があるが、骨は一応繋がったようだ。


「痛むと思うけど、我慢しなさい。でないと病院送りになるわよ」


「…気を付けます。もしかしてマナが何か言いませんでした?」


「えぇ、引きとめたのは彼女よ。私もそれに乗ったけど」


綾さんはそれだけ言うと部屋から出て行った。入れ替わりに優希が部屋に入ってきた。


「思ったより元気そうね」


「丈夫さが売りだからな。絶対安静の方がよかったか?」


「今のままでいいわよ」


「へぇ、意外と優しいじゃないの」


「べ、別に深い意味はないのよ、ただ仕事に張り合いがないのが退屈なだけよ!!」


「退屈なのは平和でいいことなんじゃないのか?」


「う、うるさい!」






「それじゃ、私は跡始末がまだ残ってるから帰るわね」


「あぁ、じゃあな」


そのまままっすぐ帰るかと思ったが、ドアの前で立ち止まる。


「そうそう、今回の件でパパが会いたがってるわ」


「へぇそうですか、明日にでも出頭するよ」


「伝えておくわ。それじゃ」


再び歩き出し、今度こそ部屋を出る。今度はマナミとマナが入ってくる。


「人の出入りが激しいことで…」


「私達以外はみんな帰ったから安心して」


「遠野先生は?」


「片付けの方に行っちゃった」


「律は?」


「『月曜まで猶予をやるから質問の答えを用意しておきなさい!』…だって」


「ケイとハギは?」


「病院だね。2人とも命に別状はないって」


「瑞姫ちゃん達は?」


「今日は帰ってもらったの。お兄ちゃんとゆっくり話がしたい、って言って」


どうやら本当にこの2人以外はいないらしい。俺は手足を楽にして一息つく。


「…おにいちゃん」


「ん?」


「ゴメンね…。マナミのせいでこんな大変なことになっちゃって……」


言葉の合間に鼻をすする仕草が混じるようになる。


「気にするな、むしろ謝るべきは俺の方だ」


マナミを手繰り寄せ、両手でしっかりと抱きしめる。マナミもそれを受け入れる。


「怖かったろう?ゴメンな、本当にゴメンな…!」


「お兄ちゃん…おに゛い゛ぢゃぁぁぁぁん!!!」


マナミの涙腺のダムは決壊し、大声で泣き崩れる。俺は背中をさすってやりながらマナミを慰める。


「もう…もうあんなお兄ちゃんは出てこないよね?」


「もちろんだ、約束する」


「綺麗な兄妹愛だね…」


傍から見ていたマナの目にも涙が綻んでいた。


「お前も来るか?」


片方の手を伸ばし、受け入れる準備があることを示す。


「ううん、私はいい」


「そうか」


マナは俺達に気遣って申し出を断る。俺は伸ばしたその手でマナミの頭を撫でる。


マナミはまだ泣いている。その涙は俺の制服の上着をぐしょぐしょに濡らしている。










「そういえば、綾さんから聞いたんだが…」


マナミは泣き疲れて眠ってしまった。そこでこの間にマナにちょっとした『聴取』をする。


「何かな?」


「お前が、俺を病院送りにするのを拒んだんだってな」


「う、うん…」


マナはばつが悪そうに返事をする。


「…ありがとな」


「えっ…?」


「ありがとよ。お前の病院嫌いが役に立ったな」


「そ、そんな言い方はないんじゃないかな!!」


反論するが怒っている感じはしない。役に立ててうれしいという感じの方が強い。


「悪い悪い。ついでにちょっと頼まれてくれないか?」


「いいよ。帰るから荷物持ってきてくれ、でしょ?」


要件を言う前に当てられる。俺は黙ってうなずく。


マナが保健室を出て行く。マナミのも忘れずにと言おう思ったが、言うまでもないなと考え直し飲み込む。




室内は俺とマナミの2人だけになる。マナミは相変わらず寝ていて、起きる様子もない。


寝息が俺にかかる。抱きついたままの姿勢で寝ているのだから当然なんだが、涙でぬれた部分に寝息が当たるため冷たく感じスースーする。


俺もマナが帰ってくるまで寝ようと思っていたが、それどころじゃない。


結局俺はその後の10数分の間、生殺し状態で苦しめられた。







「荷物持ってきたよ~」


「お、おかえり…」


マナが俺達の荷物を持ってようやく戻ってくる。これで帰るという口実でマナミを起こすことができる。


「起きろマナミ、帰るぞ」


頭をぽんぽんと叩く。柔らかい髪が衝撃を吸収し、起きそうにない。


肩口を掴み、前後にゆする。


「ン……あ、お兄ちゃん。おはよう」


「おはよう、起きたなら眠気覚ましに顔洗ってきな」


「は~い…」


マナミは寝ぼけ眼をこすりながら備え付けの洗面台へ歩いていく。


その間にマナが持ってきた荷物を受け取る。俺の薄い鞄、マナミの厚い鞄とスクールバック、それから…


何度探しても俺達の荷物はあるが、マナの荷物はない。


「あれ、お前のは?」


「もう取ってるよ。今日は部活も禁止になったから、みんなは先に帰っちゃったよ」


背中の方から自分の荷物を出して見せる。鞄には、昔3人で貰った宝玉付きのストラップがついていた。


「それ…まだ持ってたのか」


俺もまだ捨ててはいないが、身に着けてはいない。箱に入れて奥の部屋にしまってある。


ちなみにだが、それぞれが貰った宝石は異なる。


マナはクンツァイト、星影はラピスラズリ、俺はスモーキークォーツだった。


「うん。マモル君もまだ持ってるでしょ?」


「まぁ、一応な」













そのあと3人で帰ったが、特に何もなく他愛のない話をしながらマナと別れ、家にたどり着いた。


家についてからも何も変わらぬ日常が過ぎる。



    






そしてここは風呂場、俺は体を浴槽に沈め一日の汚れを落とす。


風呂の温度はいつもよりぬるめで、疲労回復に適している。ここにもマナミの配慮がうかがえる。


俺は頭や体を洗うのもそっちので長湯する。


―――コン、コン


半刻ほどたったころ、風呂場の扉が叩かれる。


「どうした?」


「お兄ちゃん、今日は…その…いろいろとお疲れ様」


「労ってくれるのか?ありがとう」


「それでね、よかったら…」


「よかったら?」


「お背中、流してあげようかな…って」


「ナ、ナンダッテ!!」


思わず浴槽から立ち上がる。そのせいで立ちくらみに遭い、意識が薄れる。


(ダメだ、ここで意識を失ったら折角の三助さんイベントが無駄になってしまう!!)


深く深呼吸をし、遠のいていた意識を呼び戻す。それから浴槽用のイスに座る。


「そ、それじゃあお願いしようかな」


そういうと、外で待っていたマナミが浴室に入ってくる。


濡れる前提なのか、スク水を着用していた。


「久しぶりに着てみたんだけど…ど、どうかな?」


「…すごく可愛い。こういう機会がないとみ見られないのが残念だな」


中学までは水泳の授業があったが、高校では行われていない。理由はだいたい察しが付く。


マナミはタオルに石鹸をつけて泡立たせ、俺の背中に当てる。


タオルの柔らかい感触が背中を上下に移動する。加えて水着のスベスベした感触も感じる。


マナや星影と一緒にプールで遊んでた頃の記憶では、もっとごわごわしていた…。これも技術の進歩の恩恵だろう。


「どう?お兄ちゃん」


「気持ちいいぞ。かゆいところに手が届いてる気分だ」


とはいえ、じっとしているとどうも落ち着かないので同時進行で前半身も洗う。


「暇だったらついでに頭も洗ってくれるか?」


「は~い」


背中を洗い終えたマナミはシャンプーを手に付け、俺の頭皮を洗いにかかる。


指の腹を使って頭皮を刺激する。今日はいつも以上に汗をかいていたため、泡立ちは非常に悪い。


「かゆいところはない?」


「んー、ないかな」


全身を洗い終わり、マナミがシャワーをかけてくれる。泡が一斉に流れ落ちていき、楽しかった一時の終わりを実感させる。


「お兄ちゃんの体…思ったより傷だらけだね」


「昔の名残だよ、今となってはこれもいい思い出だな」


「そう…なの?」


「あぁ。背中のその傷はバイクでウィリーやって、そのままバク転した時の傷跡だったかな」


「ふ~ん…お兄ちゃんはいいなあ。そうやって笑い話にできて」


「いつまでも引きずっててもしょうがないからな。それより、お前の傷も大丈夫か?」


「えっ!?な、なんのこと?」


「今日ターシャルの取り巻きに頬切られただろ、アレだよ」


「あ、あぁ…そっちか。うん、大丈夫だよ」


「ちょっと見せてみろ、俺が確認する」


180度回転し、マナミと向かい合う。腰回りにはタオルを巻きつけてあるので問題はない。


マナミの両頬に手を当て、近くに寄せる。


確かにパッと見ではわからない程度にはなっている。


「なるほど…まぁこれなら大丈夫かな」


少し下に手をやると、マナミの脈が早くなっているのがわかる。


「お、お兄ちゃん…。も、もういいでしょ?」


「あぁ、わるいわるい」


マナミに忠告されて手を放す。


「そそそ、それじゃあマナミは先に上がるね」


そう言ってマナミは風呂場を出て行った。俺は湯冷めしないように再度浴槽に浸かり直した。




マナミ「ねぇお兄ちゃん」


守「ん?」


マナミ「どうしてマナミの水着はスベスベで、マナ先輩達のはごわごわなの?」


守「素材が違うんだよ」


マナミ「へぇ~」


守「最近のヤツは体にピッタリくっついて泳ぎやすいけど、3年持たないこともあるらしいな」


マナミ「じゃあ3年間使い切ったマナミは物持ちがいいってことだね!」


守「そういうことだな。しかし裏を返せばせいty」ガシッ


マナ「マモル君、ちょっといいかな?」ニコニコ


守「離してくれー!俺はまだ死にたくない!!」ズルズル


マナミ「………。」


   「お兄ちゃん、何を言おうとしたんだろう…」



――――――――――――――――――――――――――――――――――


優希「例の事件の翌日、黒武者守は警察署にいた」


マナミ「えぇっ!お兄ちゃんタイホされちゃうの!?」


優希「それはわからないわ。ただ、何もないってこともなさそうね」


守「ということは、俺今度のテスト受けれない可能性あるの?」


優希「そうなるわね」


守「テスト受けないとどうなるの?」


優希・マナ「最悪、留年ね」


守「じゃあ更にもう1年ダブってマナミと一緒に卒業すっか!」


優希・マナ「……だめだこりゃ」


「次回『義妹記』、『処罰』」


マナミ「でもそれだとお兄ちゃんハタチで卒業することになるよ?」


守「……それはちょっと勘弁してもらいたいな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ