南高夏の陣⑤~マナミ、決死の行動~
期末考査も再試・追試を除いてほぼ終わりましたので投稿しました。
今週末に次話が投稿できるかは微妙なところです…
飛んできた方向を見ると、紅白の巫女装束に身を包んだ綾がいた。
いつもの温和な雰囲気はなく、刺々しい殺気に満ちていた。
「さぁ…殺しあいましょう」
綾が俺の方へ走り出す。その速さは人の領域を明らかに超えていた。
「…………。」
俺も迎え撃つべく綾の方へ駆ける。
真ん中のあたりで衝突する。互いの腕が交差するが、すぐに離れて再度ぶつかり合う。
互いに両手で掴み、力比べの押し合いになる。
「着いたで」
ハギ先輩はそういうが、グラウンドの隅っこの方で入口らしい入口は何もない。
「どこにも入口ないですよ?」
「目印がどっかにあったはずや」
マナミをおろし、目線を低くして『目印』を探す。
双方の力はつり合い、動かない。鬼が憑いているとはいえ、女に力で勝てないとは思わなかった。
拮抗の中、鬼が突然押しを緩める。俺は姿勢を崩され前のめりになる。
前向きに働く力を利用され、巴投げの要領で綾に投げ飛ばされる。
着地時に手足をつき、グラウンドを削り減速しながら止まる。
目線を上げるとそこに綾の姿はなかった。
「どこを見ている」
背後で声がしたかと思うと、次の瞬間には背中に蹴りが入れられた。
俺は地に叩き付けられ、背中には綾が乗る。
「この程度じゃないはずよ、もっと私を楽しませて頂戴」
綾は俺を踏み台に跳躍する。俺は急ぎ立ち上がり、着地直後の隙を狙うべく追って間合いを詰める。
間に合うことがわかったので、俺は走りながら『左手』を前に出し、『右手』を後ろに引きバネを作る。
綾は回避運動をとっても間に合わないと判断し、『右』に対しての防御姿勢をとる。
俺はすかさず左手をまっすぐ伸ばす。左手は守りを固めた綾の両手の横を突き抜け、顔の前にまで伸びる。
その状態からさらに体を右にひねり、左腕をさらに前に出して綾の顔面を掴む。
それにより守りが緩む。引いていた右を綾の腹部に叩き込む。
利き手ではないためダメージは少なかったが、綾をのけぞらせるには十分だった。
左脚で綾の右頬を蹴り貫く。次いで脚を同じ軌道で戻し、左頬を踵で強襲する。
サマーソルトで顎から蹴り上げる。綾は口から出る血をまき散らしながら上に打ち上げられ、無防備に落下してくる。
落下に合わせ、バネと溜めを最大限に生かした渾身の左を綾にぶちかます。
綾はまっすぐ吹き飛び、壁に激突して止まる。
「あっ、これですか!?」
地面に何かを紐で結んだようなものを見つけた。
「それや!」
ハギ先輩はその紐を掴んで引っ張る。すると地面が開き、下へ続く階段が現れる。
「ここが言うてた『秘密基地』や。下りるで」
入口を閉めると辺りは真っ暗になる。マナミは携帯のライトを点けて灯りを確保する。
「大丈夫やで、スイッチの場所は覚えとるから」
ハギ先輩は暗闇の中を一人で歩いていく。足音が止んだと思うと、部屋に明かりが灯った。
「な?」
そのままベッドの方まで歩いて、横になる。
「ワシはちょっと寝るわ。ここは安全やから自分も休みや」
「あ、はい…」
「水も食べ物もその辺にあるから好きにしてかまんで」
ハギ先輩はアイマスクをして寝る体勢に入った。
辺りを見渡してみたけど、外の様子を窺い知ることはできなさそう。
(一応避難はしてきたけど、やっぱりお兄ちゃんが心配だよ……)
綾が立ち上がる。口と頭から血を流してはいたが、致命傷というほどでもなかったようだ。
「そうよ、そうでなくっちゃ!!」
綾が笑顔を見せる。
俺もそれに応えて笑う。
綾が突っ込んでくる。俺は後退しながら攻撃をいなす。
しかし垂れ落ちてくる血が邪魔らしく、時々狙いがずれた拳が飛んでくる。
綾が攻める。俺はそれを受け流す。
また外れた一撃が放たれる。俺は手刀で綾の顔面を突き刺す。
しかし綾はすんでのところで首を捻って躱し、頬に切り傷をつけることしかできなかった。
それどころかカウンターの右を喰らわされた。鉄分を多く含んだ血の甘美な味が口の中を覆う。
その後も俺と綾は一進一退の攻防を繰り広げる。頭の出血はもう止まりかけているらしく、以後は狙いが外れることはなかった。
キィィィ……バタン
(ごめんなさい、ハギ先輩…)
マナミは鉄製の扉を開けて、外に出た。お兄ちゃんと綾さんはまだ闘ってた。
「ダメだよ…、そんなの嫌…」
マナミの知り合い同士が闘っているのなんて見過ごせない。ましてその一人がお兄ちゃんなら尚更だ。
「止めなきゃ…、お兄ちゃんを止めなきゃ!!」
(お兄ちゃんがああなったのはマナミのせい、だったら止めることができるのもマナミだけのはず…!)
マナミはグラウンドのはしっこの方を通って、お兄ちゃんたちに近づいて行った。
均衡はまだ続いている。攻めては守り、時に反撃を狙う。その繰り返しだ。
しかしそれも終わりを告げる。
俺は綾の正拳を躱し、その腕を掴む。
綾は反対の腕で殴りかかる。俺はそれも掴み、両腕を封じる。
無防備になった綾の顔面に俺の口内を潤していた血を吹きかける。
「くっ…、目潰しか!」
綾は本能的に目を庇う。俺はお留守になった中段に蹴りを放ち、力ずくで蹴り抜く。
綾は後方まで蹴り飛ばされ、その場に膝を突く。
「このままじゃちょっとマズイわね…」
畳み掛けるべく追撃を試みる。服の内に手を入れ、ナイフを親指を除く指の間に挟み振りかぶる。
「もうやめて、お兄ちゃん!!!」
作者「テストに気を取られてて8月2日を何もせずにすごしてしまいましたね…」
守「ああ、そうだな…」
マナミ「8月2日?誰かの誕生日?」
律「82(ハツ)…、わかった!その日だけ発が二翻なのね!!」
守「そんなわけないだろ」
作者「現実では過ぎてしまいましたが、作中ではまだなんでそっちでやりましょう!」
守「だな!」
マナミ「なんだろう…イヤな予感がする」
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マナ「マモル君の前に立ちはだかったマナミちゃん、果たして止められるのか!?」
マナミ「お兄ちゃんはマナミが止めてみせる!」
綾「実現することはないと思われていた組み合わせの対決が今始まる」
「次回『義妹記』、『南高夏の陣⑥~決着~』」
真人「最後に立っているのは鬼か、それとも兄か」