転校生、来たる
いよいよ二人の運命を狂わせる転校生が登場します
時間的余裕がない、と断ったのはギリギリに学校に行くのが嫌だったためで、実際チャイムの5分前に学校に着くことができた。
ざわざわ…ざわざわ…
なぜか今日の教室はいつも以上にざわついていた。
「なんだ、今日は抜き打ちのテストでもあるのか?」
とつぶやいた後、後ろから――
「ないよ。仮にそうだとしてこんなに知れ渡っておいて抜き打ちってのは意味ないんじゃない?」
と一声、誰だ、と振り返ると声の主は
「なんだ、陸か。」
こいつもマナと同じく中学のときからの腐れ縁だが6年連続同じクラスだったわけではない。いたかどうかなんて気にしないこともあったし。
「なんか今すごい失礼なこと考えてなかった?」
「全然。それより、テストじゃないとしたらこの騒ぎはなんだ?」
「今日編入してくる人がいるんだって」
「ほぉ、この次期にか、珍しいな。」
今は5月の終わり、学期の初頭とかならよくある話だがこの時期というのは初めてだ。
「で、どんな奴なんだ?」
いつでもそうだが、編入生となればこの話題に尽きる。
「知らない。クロムも知らないの?」
「知らん」
コイツだけは俺のことをクロムと呼ぶ。なんでも、元素のCrから取ったらしい。
「俺に聞かずとも、『あいつ』に聞けば一発だろう。」
噂をすればなんとやら、『あいつ』がちょうど近くを通りかかる
「おーい律っちゃん、編入生のこと知ってる?」
「もちろんよ。性別は男で、名前は真人って言うらしいわ。でも出身校以下他の情報は全て不明ね。」
「さすが律っちゃん!もうそんな情報を!」
新聞部の部長をやってるだけあって情報が早い。しかし、出身校が不明ってのはどういうことだ?
確かに、ウチの学校は俺やマナミの入学を許可している辺り普通の学校ではないみたいだから、前科のある奴やその他訳有りの奴がいてもおかしくはないが。
「このくらいは朝飯前よ。それと、業務連絡なんだけど…」
律っちゃんが耳元でささやく。
「例の写真が手にはいったわ、それも結構な量よ。」と。
「そうか、また明日にでも買い取らせてもらう。しかしどうやって入手しているんだ?」
「簡単なことよ、アタシの手の者を遣わしているだけ。」
つまり、スパイを送り込んでいる、というわけか。どおりで上質な写真が撮れるわけだ。
キ――ン、コ――ン、カ――ン、コ――ン
「ホームルームを始めるぞー、席に着けー」
「商談は成立ってことでいいわね?期待してるわよ。」
そうして俺たちはそれぞれの席に別れた。
「もう知っているかもしれんが、今日からこのクラスのメンバーが一人増える。木下真人君だ。」
廊下から入ってきて、教卓まで歩く。彼の一挙手一投足にクラス中の注目が集まる。
「じゃ、木下君、自己紹介を。」
自己紹介といっても名前を言って軽く挨拶の言葉を述べただけで、律っちゃんの言った事以外の情報が得られることはなかった。
「じゃあ木下君、後ろに余った机があるから好きなところに机を動かして座ってくれ。」
彼が座ったのは一番通路側の列の最後尾、ちなみに俺は窓際の列の最後尾だ。
「それじゃ、連絡事項に移るぞ。 保健委員は今日の昼休みに…」
休み時間になると彼の周りには人だかりができていろいろ聞き出そうとあくせくとしていた。特に律っちゃんが。
ただ、何か収穫があったかというとそうでもなかったようだ。
授業の時間は教科書がまだ支給されてないから隣の人と共有するのかと思っていたが、すでに支給されていたらしく机をくっつけるという光景は見られなかった。
キ――ン、コ――ン、カ――ン、コ――ン
午前の授業が終わり、昼休みの到来を告げるチャイムが鳴る。それを合図に何人かの生徒は購買を目指して教室を飛び出していった。
編入生も友人だか野次馬だかわからないが一緒に飯を食う面子に事欠くことはなかった。
そんな彼をよそに俺はいつもの面子(マナと律っちゃんと陸)で机をくっつける。
「さてさて、待ちに待ったメシを…」
手をカバンの中に突っ込んで探すのだが、
ない 弁当がない!
ちょっと今朝の様子を思い出してみる・・・
・
・
・
・
あぁそうだ、マナミから貰ってなかったな。
「悪い、ちょっと下行ってくる。」
「どうせもどってこないんでしょ?」
どうせとは失礼なぶブン屋だ、買値を下げる口実にしてやろうか。
「いつものルートでいくの?」
「あぁ、近道だしな。食事前にほこりをたてるようで悪いな。」
「そう思うんだったらいかなきゃいいのに…」
「何か言ったか?」
「な、なんでもない!守君のバカ!」
「…変なやつ。」
そう言い捨てて下の階に降りた、飛び降りた、といった方が正しいかもしれない。
「いつ見てもすごいよね。窓から下の階に行くなんて、クロムにしかできないね。」
「守君しかしないよ、あんなことするのは」
「あれ、マナちゃん、なんか怒ってない?」
「べつに怒ってなんかない!」
絶対嘘だ、とは思ったが後が怖いのでそういうことにしておいて、昼食を楽しむことにした。
――1年2組――
「よう、美味そうなメシじゃないか。」
「?あ、お兄ちゃん!」
颯爽と窓から侵入。しょっちゅうこうやって教室にお邪魔しているもんだから動きも慣れたものだ。華麗に着地を決め、流れるようにパソコン用の椅子に座る。
「守センパイ、どうしたんですか?」
「お恥ずかしいことに弁当を忘れてしまってね…ちょっとタカりに来たんだよ」
「ホントだー、マナミちゃんスゴいね」
「まぁね、伊達にお兄ちゃんと一緒に暮らしてないからね」
マナミがえらそうにふんぞり返る。そこから察する辺り、何か目的があると見た。
「用件は話しながらでもいいんだからさ…先に弁当くれよ」
マナミに弁当を催促する。が、マナミは苦笑いしたままだ。
「……まさか、忘れたってのは演技じゃなくてマジなのか。」
「てへっ、ゴメンね?」
ゴメンね?で済む問題じゃない!でもマナミだからお咎めは無しだ。もしマナミじゃなかったら、律っちゃんに協力要請して公開処刑しただろうな。
「かわりに卵焼きとご飯あげるから、ね?」
「じゃあ私はから揚げあげます!」
「私ウインナー!」
わいのわいの・・・
結局いつもの弁当と変わらない、いやそれ以上のご飯とおかずが集まった。
「案外何とかなるもんだなぁ…」
思わず感嘆の声を漏らした。
「ところで先輩、これからもココに出入りする感じですか?」
痛いトコを突かれる。確かに俺とマナミは兄妹だが、毎度毎度飯を食いに行くのはさすがに度を超えている。迷惑なのだろう、そのくらいの自覚はある。
「やっぱマズいよな、しばらくは自重するよ」
「あ、いえ!そうではなくて…」
違うのか?来るたびに「なんだまたアイツか」みたいな視線を感じることがあるんだがそれは気のせいか?
「ココで食べるのって意外と味気なくてつまんないの」とマナミが付け足す。
まぁ確かにそうだろうな。教室なんて学校に居るうちの大半を過ごすところだ、飽きもするだろう。
「で、他のところで食べるんだとして、アテはあるのか?」
「ないよ。だからおにいちゃんに探してきて欲しいんだ。」
「俺は使いっ走りか?3年なんだがなぁ…」
「それは私達も十分承知しています。でもこれは『真奈美ちゃんのたってのお願い』なんですよ、マナミちゃんの為ですからもちろん引き受けてくれますよね、セ・ン・パ・イ?」
「もちろんだ」
参った、そういわれると引き受けざるを得ない。しかしアイツは交渉が上手いな、前世でネゴシエイターでもやっていたのか?今度律っちゃんに身元を洗ってもらうか
「ところで、場所の候補地なんだけど…屋上はどう?」
食事どころといえば教室と食堂についで定番中の定番だ。ただ…
「屋上、いいですね!でも、屋上って・・・」
「不良たちの溜り場、よね」
よく知ってるな、どうやらネゴシエイターはバン記者もやっていたようだな。
「心配するな、俺が確保してきてやるから。」
「でも…」
「これでも俺、『治安維持局』の局長やってんだぜ?」
「治安維持局…?」/「…?」/「…!」
様々な反応が返ってきたが、どうやら治安維持局の存在や内容について知らないようだ。ネゴシエイターは知っているみたいだが。
「知らないならいいか、まぁ放課後にでも掃除にいくよ」
「お、おねがいします!」
皆一様にそういう旨のことを言う。ただ、マナミだけは暗くうつむき、不安を隠さずにいた。
「心配事でもあるのか?」と尋ねると――
「お兄ちゃんは負けないよね?絶対帰ってくるよね?」
「当たり前じゃないか」
頭を撫でてやる、するとマナミも嬉し恥ずかしといった感じでさらにうつむく。周りからは羨望の眼差しが注がれる。
「じゃ、昼休みも終わりに近いし、帰るな。」
行きとは違って階段で帰るため、普通に教室を出た。
―――廊下、帰途にて―――
マナミに強く念押しされてしまった以上、負けることは絶対に許されない……そんなことは万に一つもないだろうが。しかし今回は念には念を入れて、『奴等』に協力を依頼することにしよう。
そう思い、俺は自教室へと急いだ。
奴等とは一体・・・? 次回は少しバトルが入ります。
それでは、誤字脱字の指摘・感想等々お待ちしております。