南高夏の陣③~最悪の事態~
「よっ、と!」
右脇腹にパイプを強く当て、そのまま力ずくに横へ放り投げる。次の相手には武器を素早く持ち替えて頭部に強烈な一撃をお見舞いする。
「まだまだぁ!!」
数を減らしても倒した分だけ増援が現れてきりがない。むしろ武器を持っていたりするので状況は悪化する一方だ。
振り下ろされる武器の打撃をパイプで受けつつ、お留守になっている足元から崩して打ちのめす。
かれこれ2~30人は倒したと思う。しかし武器の消耗が激しく、パイプはデコボコに変形し赤錆のようなものができている。
「ちいっ!数の暴力たぁ感心しないな!!」
「勝てばいいんですよ。それに前々からわかっていたのに策を講じないのが悪いんですよ」
「ごもっとも!」
使い込んだ鉄パイプを奥に控えているターシャルに向けてブン投げるが、護衛の屈強な男に遮られてしまった。
意識が逸れたのを見逃すほど兵隊たちは愚かではなく、角材などで素手の俺では反撃できない距離から攻撃してくる。
そっちを潰そうと反転すると、今度はその反対側から攻撃を受け調子を外させられてしまう。
気付けば俺は完全に囲まれていて、跳び越えようにも兵隊が何重にも層を成していて越えられそうにない。
加えて機動隊が持つような盾を構えた奴が前線に立ち、じわりじわりと包囲網を狭めてくる。このままだとこいつらに押し潰されて圧死しかねない。
盾持ちを1人攻撃してそこからこじ開けようと試みたが、手と盾は強力に固定されていて剥がすこともできず、衝撃も後ろの奴らで吸収されて効果は全くない。
それどころかその間に反対側の壁が一気に寄って来て領土を奪われる。
手詰まり状態になってしまったため、ここで切り札を使うことにした。俺は内ポケットから小型の手榴弾を取りだし、ピンを抜いて真上に放り投げる。
壁が上を見上げているうちに急いで耳栓をする。その直後に手榴弾が炸裂し、鼓膜が破けるほどの大きな音がする。音をモロに聞いた壁役は皆揃って倒れる。
もちろん俺自身もタダで済むはずはなく、耳栓をしていたとはいえちょっとフラフラする。
閃光と爆音は控えの雑魚にもターシャルにも効果があり、しばらくの間は戦闘が行われず体勢を立て直すのに充てられる。
「ホントにこっちで合ってるの?なにもないけど…」
お兄ちゃんの使いの人についていって、校舎裏まで来たところでそう問いかける。
「いいからいいから」
皆の前では愛想よく対応していたのに、人前じゃなくなった時からだんだん適当になっている。
さらに歩いていくと、突然二人が立ち止まる。
「ここなの?でも何もないよ?」
「まぁそうだろうな、なんたって嘘なんだからよ」
「えっ…」
この2人がお兄ちゃんからの使者じゃないと理解し、来た道を一目散に走って引き返す。
物陰から2人とは違う制服を着た人たちがいっぱい出てきてマナミの進路を塞ぐ。それに加えて左右両側からも人が出てきて完全に囲まれてしまう。
「じゃ、俺達についてきてもらおうか」
偽の使者の2人も他の人と同じ制服に着替えていて、マナミに任意同行を求めてきた。
「べーっ!」
あっかんべえをしてその申し出を拒絶する。
「まぁそうだろうな。だが来てもらわないと困るんでね」
すると突然後ろから羽交い絞めにされ自由に身動きが取れなくなる。
「ちょっと!離して!!」
手足をばたつかせて抵抗するも、しっかりと絞められていて拘束は緩まない。それどころか口にガムテープを貼り付けられ言葉を出すことも封じられてしまった。
「んー!!!!」
「よし、遼さんのところに帰るぞ」
その後目隠しも耳栓もされ視覚と聴覚も奪われてしまったマナミは、成す術もなくどこかへ連れて行かれた。
―――ゾクッ
「―――っ!」
「どうしました?会長」
「ちょっと寒気がしてね……マモル君、大丈夫かな」
「さすがは守さん、あれだけの数で押してもまだピンピンしてるなんて」
回復のための時間稼ぎか、ターシャルが最前線にまで出てきて口を開く。
「囲まれたときはちょっとヤバいと思ったけどな」
俺も息を整えたかったため、それに答えて会話を続けさせる。
「こんな時になんですけど守さん、僕と取引しませんか?」
「取引?まずは話だけでも聞こうか」
「簡単な話です。守さん、僕と戦ってわざと負けてくれませんか?」
「見返りは」
「今後学校には一切手出ししません。もちろん守さんを狙ったりもしません」
「それだけか?」
「警察に出頭します。僕は『守さんを倒した』という事実が得られればそれで満足なので」
「……!」
「悪い話ではないと思いますよ?この場の人からはすれば守さんは最後の一人でも諦めずに戦った『勇者』ですから誰も咎めないでしょうし、取り調べでも守さんを立てるように話しますから」
「却下だ。俺は名声なんざ欲しくない、あんなものは身を縛る枷でしかない」
「そうですか…」
「それにだ」
「それに?」
「俺の勝利を信じて疑わない奴らがいるんでな、そいつらの為にもそう易々と負けてやるわけにはいかんのだ」
「へぇ…例えば、『妹さん』とか?」
「なっ!?」
ターシャルが合図を出すと、後ろの雑魚の一団が左右に分かれ道を作る。その奥から3人の男がこちらに歩いて来る。
1人は台車を押し、後の2人はその警護についている。台車の上には布をかぶせられた何かが載せられていた。
「ここに何があるかは、お察しの通りです」
布をはがすと、そこには椅子に縛り付けられたマナミがいた。タオルとガムテープで目と口を封じられていて、自分が今どんな状況下にあるかも理解できていないようだ。
両サイドの人間はマナミの顔から首のあたりにナイフを突き立てていて、変な動きをすれば確実にマナミが犠牲になってしまう。
「……貴様ァ!!!!」
「力ずくで奪還してもいいですよ?ただし、驚きのあまり手が滑ってしまうかもしれませんねぇ」
一度は激昂するも、ターシャルの言葉により逸る気を押さえつける。やり場のない怒りを地団太に転嫁して激しく大地を踏みつける。
人が軽く浮くほどに地面は揺れたが、マナミへの拘束は全く緩まなかった。
「どうです?取引に応じる気になりました?」
「……マナミと話をさせろ」
「…いいでしょう。妹さんからも説得してもらえれば、守さんも折れてくれそうですし」
部下に指示をだし、マナミから目隠しと耳栓・口栓を取り除く。
―――――ビリッ!!
「痛っ!!」
挑発の意味合いもあって口栓は勢いよく剥がさる。そのせいでマナミの口周りは赤く色づく。
「ンの野郎…!」
殴りかかってやりたい衝動を我慢し、マナミを奪還できそうな隙を窺う。
「……あっ!お兄ちゃん!!」
「マナミ!大丈夫か、ケガはないか!?」
「う、うん…でもマナミのせいでこんなことになって…」
「気にするな、お前が無事ならそれでいいんだ」
「お兄ちゃん…!」
「感動の対面もそれくらいにして、本題に移りましょう。マナミちゃん、守さんにわざと負けるよう頼んでくれないかい?」
「わざと…負ける…?」
「そう。君だってお兄さんがこれ以上傷つくのは見たくないでしょ?」
「それはそうだけど…」
「僕らだって憧れの守さんとこれ以上戦いたくはないんだ、だから…」
人間味にあふれた台詞を吐き、マナミに同情させようとする。
「…………。」
マナミは黙り込んで俺にどう助言をするかを考える。しばらくするとマナミは考えを固め、決意の表情で俺を見つめる。
「…お兄ちゃん」
「なんだ?」
「負けちゃダメ!だって…だってお兄ちゃんはマナミのヒーローだもん!!」
「このクソガキ!!」
「へぇ、意外に気丈なんだね。それじゃ、もう一個の方で攻めてみようか」
「例のアレですか、遼さん!」
「そ」
「「「「イヤッホォォォォォウ!!」」」」
「俺達もついに卒業できるんだな!」
「こんな可愛いことできるんだったらマワシでも俺は気にしねぇ!!」
雑魚たちが一斉に歓喜の声を上げ、がやがやと騒ぎだす。
(…卒業……マワシ……まさか!!!)
「貴ッ様ァァァァァ!!!!!」
ターシャルを取り押さえようと飛び出すも、血気に逸った雑魚数十人に逆に取り押さえられてしまった。さっきまでなら振り払うこともできたはずだが、得体のしれない力が働いているらしくどれだけあがいても離れない。
「みんな盛んでしてね…何かと欲求不満なんですよ」
ターシャルはマナミをじろじろと見て回り、スカートをまくり上げる。
「白、ですか…。お似合いの可愛らしい下着ですね」
そこからさらにスカートの中に手を入れようとする。
「ちょっ!何するのヘンタイ!!」
マナミも動けないなりに体をじたばたとさせて抵抗を試みる。
「遼さんが直々にウォーミングアップをしてくださるんだ。大人しくしてろ!!」
警護の者がマナミの頬にナイフを突き立てるが、マナミはそれが見えてないらしく抵抗を続ける。
「やーだ!!やだってば!!!」
マナミが抵抗をしていると、頬を刃が掠める。
「きゃっ…!」
―――――ブチン!!!
切り口からは紅い液体がたらたらと流れ出し、その液体が俺の理性を完全に破壊する。
「…………殺す、ぶち殺す」
―――ピシッ!!
綾「あら、湯飲みにヒビなんて不吉ね」
綾「…何?何なのこの殺意に溢れた気は!」
オニさん「南高校で事件…いや、事故だな」
綾「南高で?まさか守君が!?」
オニさん「そうだ。ついにアイツが覚醒したぞ」
綾「……こうしちゃいられない!行くわよ!!」
オニさん「あぁ。…フフッ、これは楽しめそうだ」
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マナ「理性を失い、一人無双するマモル君。その姿はまさに怒れる獅子のよう…」
遠野「そこに綾さんが乱入し、戦いはいつしか守君と綾さんの一騎打ちに!」
マナミ「もうやめて…、もうやめてよお兄ちゃん!!」
マナ「次回義妹記、『南高夏の陣④~悲願の対決!?守VS綾~』」
オニさん「素晴らしい!もっと私を楽しませてくれ!」