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義妹記  作者: 白鳳
義妹編
46/59

スウィートシュガー作戦












朝。カーテンの隙間から朝日が差し込み暗い部屋が局所的に明るくなりだした頃、俺は活動を開始する。


時刻は午前6時半。すりガラス越しにマナミの部屋を見ると、部屋の主もちょうど起きたところで、女の子座りでぽけーっとして脳の覚醒待ちのようだ。


2,3分後にはスイッチが入り、大きく伸びをしてから部屋を出て行った。もちろん寝ている理沙を起こさないよう、カーテンも開けず足音も立てずに退出していった。


部屋を出たマナミは1階へ降り、洗顔・歯磨き・寝ぐせの矯正をする。寝相がいいためこれらの動作も10分少々で済んでしまう。


その後はキッチンに立ち、朝食の支度を始める。献立がネタバレしないよう、調理中は『聞く』だけにする。


俺の部屋とはだいぶ離れているため匂いは伝わってこないが、箸でかき混ぜる音やフライパンで熱する音がよく聞こえて俺の食欲を掻き立てる。


観音開きの食器棚から皿を取りだし、朝食を盛り付けると俺達を起こしに2階へと上がってくる。


同居したての頃は先に俺を起こしてから調理を始めていたが、俺の目覚めが良いのでいつしか出来上がってから俺を起こすようになった。


『ギリギリまで寝られて、それでいて出来たての朝食が食べられるように』とマナミが言っていた。


足音が直接聞こえるようになってきたので俺はイヤホンを耳から外し、ベッドに横になって布団を腹回りだけにかけて寝たフリをする。





「お兄ちゃん!朝だよ!!」


俺の部屋に入り、カーテンを開け放ち、部屋全体が朝の光で明るく照らされる。


「ん…もう朝か、おはよう」


「おはよう、お兄ちゃん」


ベッドから立ち上がり、マナミと同じように大きく伸びをし、手や首の関節をポキポキと鳴らす。


「それじゃ、次はリサリサを起こしに行くよ!」


「うーい」


頭をぼりぼりとかきながらマナミの後に続いて理沙の枕元に立つ。


「リサリサ、起きて!朝だよ!」


俺の時と同様にカーテンを開けて起こそうとするが、コイツはその程度じゃ起きない。


「リーサーリーサ!起きてっ!!」


「んっ…んん…」


体を乱暴にゆすって睡眠状態から引き剥がす。理沙も一応には目が覚め、マナミの呼びかけにも生返事を返す。


「早く起きないと朝ごはん覚めちゃうよ!」


「んー…、別にいいからもう少し寝かせて…」


すんなりと起きてくれない理沙。マナミも呆れ、俺が代わりに起こすことになった。


「ほら起きろ、朝だぞ」


背中のあたりをゲシゲシを蹴るが、やっぱり起きる気配はない。これ以上時間を取られると朝食が完全に冷めてしまうため、最後に力ずくで起こしてみて、ダメだったらもう起こさないことにした。


マナミに協力してもらい、背中合わせの状態で理沙の両手を俺の両手で掴み、両足を俺の両足にかける。


あとは両手を引っ張るなり体を揺さぶるなどしてしまえば理沙の体が悲鳴を上げる。


「痛い痛い痛い!!!ギブです先輩!!」


技をかけてからほんの数秒で理沙は音を上げる。それを聞いたマナミがストップをかけたので、技を解いた。


「あたたたた…」


「大人しく起きないからこうなるんだ。飯にするぞ」


「はーい…、いたたた…」





「「「いただきます」」」


朝食を口に運ぶ。メニューはベーコンエッグに味噌汁、野菜サラダが全員共通で、俺の皿だけ加えて卵焼きが添えられていた。


「…うまっ!先輩はいっつもこんな美味しい料理を食べてるんですか!?」


「まぁな。リクエストは聞いてくれるし味は美味いし、完璧なシェフだよ」


「お兄ちゃんってば…///。今日はお兄ちゃんの食べたいもの食べさてあげる」


マナミも褒められて上機嫌なようで、食事中終始にこやかだった。


「先輩って嫌いな食べ物あるんですか?」


「嫌いってわけじゃないけど、臭いがキツいのはできれば食べたくないな」


「例えば?」


「納豆。だから今も納豆がないだろ?」


「あ、ホントですね」


「マナミも納豆嫌い。あのねばねばがイヤ」


「とまぁこんな風に兄妹で好き嫌いがだいたい一致してるから、苦手なものが食卓に並ぶことはまずないわけだ」


「へぇ~」


「それはそうとちゃんとサラダも食えよ?さっきから全然減ってないが」


「うへぇ、バレてましたか」








「ごちそうさまでした」/「ごちそうさま」


「お粗末様でした」


「んじゃ、着替えてくるわ。お先ー」


「は~い」


部屋に戻り30秒で着替える。着替えたらカバンと竹刀袋に入れた真剣を用意し、家を出る支度をする。


いつもより時間に余裕があったので、袋から真剣を出して鞘から抜き、柄を強く握りしめて集中する。


こうすると、不思議なことにマナミを大事にしたいと思う気持ちが強くなる。


この状態を4,5分維持し、今日一日の活力をチャージする。チャージし終わったら刀は鞘に収め、竹刀袋に包んでカバンの近くに寝かせる。


(そろそろ行くか…)


荷物を持って1階に下りる。理沙とマナミも既に制服に着替えていて、テレビを見ながら談笑していた。


「あ、先輩。遅かったですね」


「すまんすまん、ちょっとやることがあってな」


「それじゃ行こっか!」


それぞれの荷物を持ち、玄関を出て学校へと向かう。まだ十分に時間があるため学生の数はまばらだった。


「こんなに時間に余裕もをって登校するなんて初めてですねー」


「リサリサはいっつも遅刻ギリギリだもんね」


「あの眠りようじゃ無理もないな。どうせ朝飯もろくに食べないんだろ?」


「ハイ。でも何とかなってるから大丈夫ですよ」


「マナミから弁当のおかずをたかったりしてないか?」


「し、してないですよ…?」


目線をそらし、白を切る。


「ほぅ…、身に覚えがあるらしいな」


「待ってお兄ちゃん!ちゃんとそれは計算済みなの!」


「なに、そうなのか?」


「うん。ほら、今日の朝ごはんお兄ちゃんだけ卵焼きがあったでしょ?」


今朝の食卓を思い出してみる。確かにマナミの言うとおりだった。


「あれはいつもならリサリサに食べさせてあげる分なの。で、今日はリサリサお弁当持ってるから作らなくてよかったんだけど、いつものクセで作っちゃってお兄ちゃんのお皿に入れたの」


「ふーん…、まぁマナミの昼メシを奪ってるわけじゃないならいいか」


「そうですよ!それにそんなカッカしてたら将来ハゲますよ?」


「…ウチは代々白髪だ」







「あ、マナ先輩だ!」


マナの家の少し手前に来たところで2人がマナに気付き、駆け寄っていく。


「「おはようございまーす!」」


「おはよう、マナミちゃん、理沙ちゃん」


「よっ」


「マモル君もおはよう」


俺も遅れて2人に追いつき、挨拶を交わす。


「今日は早出じゃないんだな」


「今は期末試験の方が優先だからね。追試や補修に引っかかって仕事に支障が出ると困るでしょ?」


「そうだな。俺には関係ない話だが」













「いただきます」


「「「「「いただきまーす!」」」」」


いつも通りみんなで昼食をとる。今日はいつもと違い、マナミ側の面子に美穂ちゃんが加わっている。


「ミホミホ、今日は部活の方はいいの?」


「今日は休みだからいいの」


野球グラウンドの方を見ると、早弁か何かで既に昼を済ませた生徒達が集まっていた。


「でもグラウンド整備はやるのか、大変だねぇ」


「えぇ、まぁ放課後にちょちょっとやるだけだと思いますよ」


「ん?今じゃないの?」


「今じゃないと思いますよ」


「………ふーん」


そう言われてからさっき見た集団が何者なのか気になって仕方ない。そこで急いで食事を済ませ、近くに行ってみてみることにした。






物陰に隠れながら集団の近くの木の葉の中に潜り込む。木の枝を伝って集団の真上にまで来る。


「…というわけで、これより『スウィートシュガー作戦』を決行する!」


「「ウッス」」


「それじゃあ手順を確認する。俺達は今から野球部の部室に行き、砂糖水やハチミツを壁に塗りまくる」


「そして見つからないように撤退する」


「部活の頃には、奴らの部室はアリまみれ!」


「「「完璧だな」」」


「そのまえにちょっと味見…うん、美味い!」


冗談だと思っていたがまさか本当に妨害しに来るとは…。しかし敵陣で作戦会議を開いてくれたおかげで情報は筒抜けだ。


今から下におりて叩きのめしてもいいのだが、野球部員が相手となると最悪こっちにも出場停止等の処分が出る恐れがあるためうかつに手は出せない。


かといって黙って見過ごすと、美穂ちゃんの依頼を放棄したことになるからそれもできない。何か打開策があるはずと周りに目をやる。


ブーーーーーン!!


耳の近くでの大きな羽音に思わず頭を屈める。羽音がしなくなってから頭を上げると、1匹の蜂が警戒の為に俺の近くを飛んでいた。


近くに巣があるはずと思い探すと、少し奥にそれはあった。既に住居は完成していて、住人もたくさんいるようだ。


(よし、これで追い払おう!)


俺はその場をこっそり離れ、隣の木に移る。そこから消音器を付けた拳銃を構え、発砲する。パスッと乾いた音の後に銃弾と薬莢が飛び出す。証拠を残さないために熱いのをこらえて薬莢を回収する。


弾は巣と木のつなぎ目を貫き、幹に突き刺さる。つなぎ目を損傷した巣は重力に従い落下する。落下の衝撃で巣は砕け、中の蜂たちが攻撃態勢で出撃する。


「兄貴、アレ!」


「あ?なんだありゃ。……蜂の巣、か?」


たまたまに近くにいたからかハチミツを持っていたからか、蜂たちは彼らを目の敵にして襲いかかっていく。


「あんな奴らに刺されちゃあ痛いどころのハナシじゃねえ!逃げるぞ!」


「「ウ、ウッス!」」


工作員たちは一目散に撤退する。それを見届けた俺も撤収して屋上に戻る。


(試合まではまだ日がある。きっとまた妨害工作をしにやってくるんだろうな…)






守「というわけで、外道高かわからんが妨害工作しようとしてた奴等を追い払った」


美穂「ありがとうございます。先輩」ペコッ


守「なに、依頼を遂行するのは仕事人として当然の事だ」


美穂「また違う手口で来ると思いますので、その時もお願いしますね」


守「任せとけ」


美穂「それと先輩…」


守「ん?」


美穂「ほ、報酬なんですけど……お金ないんで、か、カラダでいいですか?」ヌギヌギ


守「マナミの友達から金をとるつもりはないよ。それに枕営業はお断りでね」


美穂「そ、そうですか…わかりました」


守「マナとマナミ以外は攻略するつもりないからな」ハハハハ



――――――――――――――――――――――――――――――――


???「何?失敗しただと!?」


工作員「は、はい・・・」


???「失敗しておいてのこのこと帰ってくんじゃねぇ!!」ドゴッ


工作員「う゛っ…す、すいません、キャプテン」


キャプテン「おめぇの希望に応じて一番手をやらせてやったのにこのザマはなんだ!!」バギッ・ゴスッ


工作員「がっ…」


キャプテン「…チッ、もういい。お前ら、死なない程度に躾けておいてやれ」


部員「「「ウイッス!!」」」




―――――――――――――――――――――――――――――――


マナ「お疲れ様でした。今回はおまけを先にしてみましたがどうでしょうか?

   では、続いて次回予告もどうぞ」



―――――――――――――――――――――――――――――


守「週末の予定にあくせくする金曜の頃、ついに奴らがやってきた…。

  

  多くの部下を引き連れ、俺たち三人を指名してきた。

  

  それに応じて外に出ようとしたその時、ケイとハギの拳が俺を打つ!


  次回『義妹記』、『南高夏の陣~裏切りのケイとハギ~』」


マナ「そんな…マモル君たちが仲間割れなんて!!」





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