眠り姫と家出少女
――自宅、マナミの部屋――
「これでとりあえずは大丈夫そうだね」
マナミをベッドに寝かし、有事に備えて複数の袋と飲み物を用意した。
俺達はベッドから少し離れた場所に椅子を持ってきて座り、さっきまでのことを振り返る。
「言われるままにしてきたけど、どうしたの?マナミちゃん」
「過呼吸状態になってたようだ。激しい運動はしてないから、おそらく精神的な原因によるものだ」
「精神的な原因って、それじゃ…!」
「たぶん星影のことで俺が躍起になったからだな」
「…………。」
「お前のせいじゃない、昔の事を知られまいと焦った俺の責任だ」
「そう…かな」
「そうだ。だからそう気を落とすな」
「…うん。でも、何か不都合なことでもあるの?」
「いくつかな。例えば俺小学校通ってないし」
「えっ!?」
「不思議に思わなかったのか?あんだけ一緒にいたのに小学校がバラバラなんておかしい、って」
「その頃は全然思わなかったね。今にしてみれば不自然だったけど」
「俺と星影は親父の知り合いが運営する小学校を『卒業したことにしてもらったんだよ』」
「そっか…。お父さん、亡くなっちゃったもんね」
「あぁ。親父さえ生きてれば俺はその後のずっと自宅教育で、学校に通うことはなかっただろうな」
そして俺は親父の後継者として裏の世界に住み続けるはずだった。星影は俺のパートナーになる予定のいわば許嫁だった。
「…大丈夫か?」
「マモル君のお父さんお母さんの話?」
「あぁ、まだ引きずってるんじゃないかと思ってな」
「あれからだいぶ経つからね、その言葉を聞いたくらいじゃ何ともないよ」
「そりゃよかった。…でもその様子だとまだあの場所には行けそうにないな」
「ンッ…んん……」
「気が付いたか!」
2人は椅子から飛び上がり、マナミの顔を覗き込む。
「あれ…お兄ちゃんにマナ先輩…、それにここはマナミの部屋……」
「マナミ、お前自分がどうしてこうなったか覚えてるか?」
「……ううん、覚えてない」
「そうか、頭は痛くないか?」
「痛くないよ」
「よかった。お前転んで頭打って今まで気絶してたんだが、怪我なくて何よりだ」
マナがこちらの方を見る。俺はマナを肘で軽くつつき、話に乗るよう要求する。
「そうなんだよ!それでマモル君がマナミちゃんをおぶってここまで運んだんだ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
ベッドから起き上がり、俺に抱き付いてくる。俺もそれに応えてマナミに覆いかぶさる。
「マナミちゃんの意識も戻ったし、私は帰るね」
「あぁ、すまんな。玄関まで見送るよ」
マナミにはもう少し安静にしているように指示し、2人で1階に下りる。靴を履いて外灯をつけ、外に出る。
「マナミちゃんが覚えてなくてよかったね」
玄関の扉が閉まる音がした後、マナが背中越しに尋ねる。
「まったくだ。ま、もし覚えてたら忘れてもらうつもりだったが」
「またまた~、そんな強がり言っちゃって」
「ありゃ、バレてたか」
「そりゃわかるよ、長い付き合いだからね」
「そうだな。…じゃ、気を付けて帰れよ」
「うん。また明日ね」
歩き出したマナであったが、心残りがあるのか少し歩いてはこちらを振り返り、そのたびに俺は手を振って返していた。
結局マナは角を曲がって見えなくなるまでずっとこっちを振り返り続けていた。もちろん俺も最後まで付き合って手を振っていた。
「さて…。マナミは疲れてるだろうし、たまには俺がメシ作るか」
とはいえ、俺には十分な料理スキルもないからマナミには雑炊で我慢してもらうしかない。
だがその前にどの食材がどれだけあるかを把握してからでも遅くはないな。そうと決まれば早速・・・
「あーーーーーっ!!!!」
2階の方からマナミの声がする。俺はすぐさま家の中に戻り、サンダルを脱ぎ捨てて壁に向かって跳び、そこを足場にもう1段飛び跳ねて2階へ一気に移動する。
「お兄ちゃん!!」
バダン!!―――ドガッ!
マナミの部屋の前に着地しようとしたところ、突然部屋の扉が勢いよく開けられ弾き飛ばされる。その結果俺は壁に打ち付けられてめり込んだ。
「お兄ちゃん、大変……って、お兄ちゃんが大変なことに!!」
「いやなに、ちょっと壁画のマネしてみただけだ。どうってことない」
壁から出て体に着いた破片を払い落とす。
「で、何が大変なんだ?」
「そうそう!お兄ちゃん今日歩いて帰ってきたんでしょ?」
「そうだ、奉仕活動やったメンバー(優希を除く)で帰ったな」
「今朝はバイクで行ったのに歩いて帰ってきたから、バイク学校だよ!!」
「・・・・・・あ」
このあと学校へ取りに行ったのは言うまでもない…。
バイクも取りに行って、夕食も済ませ、特に勉強もせずにテレビを見てのうのうと時間を潰す。
結局夕食は俺がバイクを取りに行っている間にマナミが調理を始めたため俺が包丁を握ることはなかった。
時刻は22時を過ぎたころ、ニュース番組を見て今日一日の出来事を把握していたその時――――――
ピンポーン
不意に呼び鈴が鳴る。俺達は予想していたかった出来事に顔を見合わせる。
「今日誰か来る予定だったか?」
「ううん。そんな約束してないよ」
「はて、じゃあ誰だ?」
╲マナミちゃーん!守せんぱーい!/
聞き覚えのある声が2人の名前を呼ぶ。気になった2人は玄関に出向き、覗き穴から見てみると……
「理沙ちゃんじゃないか?」
「ホントだ、リサリサだ」
とりあえず知人ということで玄関をの扉を開け、家の中に招き入れる。
「どうしたの?リサリサ」
「いやぁ、ちょっと親とケンカしちゃいまして…」
「で、今晩はここに泊めて欲しいというわけか」
「さすが守先輩!話が早い!!」
ここぞとばかりに俺を持ち上げる。マナミが認めても俺が認めないとダメということが分かっているようだ。
「そういや前にも親とケンカしたって言ってたな」
「そ、そうでしたっけ?アハハハ…」
「別にいいけどな。で、どうする?」
「マナミは別にかまわないけど」
「じゃあ泊まっていきな。雨風しのぎくらいにはなるだろ」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げ、感謝の意を表す。その姿勢は俺達が頭を上げるように言うまで続いた。
作者「お疲れ様でした。次回の更新もご期待ください。
この後はおまけに続きますが、連載1周年のコメントを活動報告の方に
載せましたので、そちらの方もよければ見てください」
「それでは、引き続きおまけをお楽しみください」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
理沙「さぁ行きますよ先輩!」
守「行くって何しに?」
理沙「マナミちゃんのお風呂を覗きに行くに決まってるじゃないですか!!」
守「ぐずぐずするな、ついてこい!」
理沙「ハイ!」
マナミ「何をしに行くって?」
守「いやちょっと二人で買出しにでも行ってこようとだなぁ…」
マナミ「どうせお風呂覗きに来たんでしょ?」
二人「ギクッ」
マナミ「もし覗いたら二人とも鼻血がいっぱい吹き出るよ?」
理沙「それは見てそうなるの?殴られてそうなるの?」
守「前者に決まってるだろ!」
マナミ「両方だよ!!!」
守「次回『義妹記』、『家出少女の外泊』」
理沙「見ないとマナミちゃんのお風呂シーンも拝めないぞ!」