奉仕活動
「お兄ちゃん、そろそろいいんじゃない?」
時計を見ると7時10分前。日も暮れて辺りは闇が支配しつつある。
「そうだな。それじゃあ現場に行くとするか」
俺達は立って出入り口へと歩く。退出際に先生の方を向いて、
「先生、ばいば~い!」
「さよならー」
マナミと理沙が準備室を出る。
「俺は他に行くところがあるから先に行ってろ」
「は~い」
マナミ達がいなくなったのを確認し、拳銃を元にあった場所に戻す。
「あぁいうのは冗談でもやめてほしいね」
「誰かさんが余計なことを言わなければよかったんですよ」
「僕のせいなのかい?」
「少なくとも2回目の時はそうですよ」
「そんなんだったらうかつにイジることもできないじゃない」
「イジらなきゃいいんですよ。…それにしても、スライド式のMK23ってことはPhase1ですか?」
「そうだよ。全Phaseあるけど見るかい?」
「遠慮しときます。しかしよく持ってますね」
「言ったじゃない。コレクションの1つだって」
「それもそうでした。それじゃ、失礼します」
――グラウンド――
俺がついた頃にはサッカー部や陸上部は活動を終えて帰ろうとしていた。
グラウンドの隅のトンボ置き場にマナミ達がいるのが見えた。俺はそこへ向いて歩きだす。
「悪い、待ったか?」
「ううん。全然」
到着してみると、マナミと理沙以外にマナと瑞姫がいるのに気付いた。
「お前ら、なんでここにいるんだ?」
「マモル君のお手伝いに来たに決まってるじゃない」
「そうですよ!先輩には日頃お世話になってますし」
「…来たわね、黒武者守」
「ッ!?」
暗闇の中から突如ユキが現れる。マナミと理沙は驚きのあまり尻餅をついた。
マナミに手を差し出して立ち上がらせ、服に着いた土を払いのけてやる。
「ずいぶんとお手伝いさんがいるのね」
「俺一人で、とは言われなかったからな」
「それじゃ、やってもらうわ。今回は夜間用の照明を点けているから安心して作業なさい」
「へいへい」
それぞれがトンボに手をかける。マナと瑞姫は普通のサイズで、マナミと理沙はちょっと小さめ、俺は大きいヤツだ。
皆が散ろうとしたその時、どこからか腕がもう一本伸びてきて、普通サイズのトンボを掴む。
「あれ、お前は監視役じゃないの?」
「そんなわけないじゃない。私もやるわよ」
一同が呆気にとられる。あの厳しいユキのことだから手伝うなんてことは絶対にないと誰もが思っていたからだ。
「おい、ユキちゃんがデレたぞ…」
「私も初めて見た…」
特にアイツとの付き合いの長い俺とマナは人一倍驚いていた。
「勘違いしないでちょうだい。こうすれば早く終わって早く帰れるからよ。あなたたちと違って忙しいの、私は!」
一人で勝手に喋りだし、だんだんと語気を強めていく。
「なんにせよ、早く終われるならそれに越したことはない。ちゃっちゃとやってしまうぞ」
「「「は~い」」」
グラウンドをだいたい8等分し、女子は1レーン、俺だけ3レーンを往復する。理沙・マナミ・マナ・優希・瑞姫・俺の順にトンボ置き場から遠いところのレーンを担当する。
「それじゃ、各々方担当の区域は任せた!」
俺を言葉を皮切りにそれぞれのタイミングでトンボかけを開始する。俺は石をひっかけて爪痕を残さないことだけ気を付けながら、早歩きの速さくらいでトンボをかける。
「先輩、もう少し急がないと置いてかれますよ?」
俺が2レーン目の往路の中ほどに差し掛かった時に、瑞姫ちゃん復路の中ほどに来ていた。
「マナミ達のことだから待ってくれるだろうよ」
「でもユキさんは早く帰りたそうにしてますから、先輩だけ残して切り上げるかもしれませんよ?」
ユキのレーンに目をやると、すでにトンボかけを終了していて、地団太を踏みながら俺達が作業を終えるのを待っていた。
「確かに、急いだ方がよさそうだなっ!」
さっきよりストライドを広くとり、さっきより急ぎ足でコースを進む。2往復を終えたころには全員が道具を片付け終わっていて、俺の終了を待つだけとなっていた。
残るは俺だけとなったせいでユキの機嫌の悪さは最高潮を迎えていて、頭に角が生えているような錯覚が見えるほどだ。
「……遅い!いつまで待たせるのよ!!」
「そりゃ先輩だけ3倍の作業量だもんねー…」
「それに一番遠いところの担当だし…」
「やっぱりお兄ちゃんとユキ先輩って仲悪いのかな…」
「そこ、うるさいわよ!」
―――ビクッ!!
マナミちゃんたちは蛇に見込まれた蛙のようにすくみあがってしまった。
「まぁまぁ優希ちゃん、そんなにカッカしないで」
「会長、ですが…」
「マモル君は私達よりも多いノルマを文句も言わず請け負ったんだから、そういう態度はいけないと思うよ?」
「……すみません」
「何なら先に帰ってていいよ。忙しいんでしょ?私も大体の段取りはわかってるから」
「いや、あれは物の弾みでして…」
「それじゃ、大人しく待つよね?」
「・・・はい」
「だよね!」
優希ちゃんを懐柔させると、マナミちゃん達から英雄のような扱いを受けた。
「マナ先輩すごーい!あのユキ先輩を丸め込むなんて!」
「さすが生徒会長、あの風紀委員長も先輩の前ではただの一生徒ですね!」
「そ、そんなことないよ。マモル君が悪者になってるのが許せなかっただけ」
「それはつまり守先輩のためにユキ先輩をやっつけたってことですよね!?」
「う、う~ん……そうなるのかな?」
「リア充なんて爆死してしまえ――――!!」
「リサリサ!?」
「……ハッ!ウチは何を…」
「ふぅー…、ようやく終わったな」
終点にまでたどり着いた俺は一息ついてからマナミ達の方へと歩き出した。
カキーン、カキーン――――
静まり返ったグラウンドに野球部からの打撃音が響く。金属バットだけあってよく聞こえる。
「あぶなーい!!」/「危ない危ない危ない!!」
危険を知らせる声がその静寂を打ち破る。見上げると白球がフェンスを飛び越えていた。落下地点に目をやると、マナミ達の姿があった!
硬球の直撃を受けたら大事故は避けられない。俺は道具をその場に置き捨て、マナミの元に全力で駆け寄った。
「先輩がものすごい勢いで走ってるけどどうしたんだろ?」
「さっき野球部の人達が『危ない』って言ってたからそれから逃げてるんじゃない?」
「でもマナミちゃん、野球グラウンドは私達の後ろにあるよ?」
「「「と、いうことは……」」」」
全員が上を見上げる。そこには日が落ちて真っ暗な空に白点が1つ、照明の光を反射していた。
しかし気付いた時にはもう既にボールは頭上数メートルのとこまで来ていた。
「伏せろぉ!!!!」
俺は忍ばせていた刀から刀身を抜き捨て、ステップを刻み渾身の力で鞘を投擲する!
鞘は一直線に飛んでいき、マナミの頭上で硬球を弾き飛ばしてネットに絡まって止まった。
「あ、あれ…?落ちてこない?」
「いやー、上手くいってよかったよかった」
「先輩!」/「お兄ちゃん!」/「マモル君!」
「全員怪我ないか?」
「うん。アレ当たったら痛かっただろうね」
「ねー。でもリサリサは頭がよくなるかもよ?」
「マナミちゃん、ひっどーい!」
「「「あはははははは」」」
「それより先輩、その物騒なものいつまでぶら下げてるんですか?」
「あぁ、すまんすまん。そうだったな」
俺はネットに絡まっていた鞘と弾き飛ばした白球を回収し、刀身は鞘におさめ、球は取りに来ていた美穂ちゃんに渡した。
「アンタ、そんなもの持ってたの」
「まぁな」
…ん?今の声は優希の声だったよな?
「そんな物騒なものでどうしようっていうの!?銃刀法違反の現行犯でパパに突き出すわよ!!」
俺の胸ぐらを掴み、いつも以上に強い口調で訴える。
「そう怖い顔すんなって。これは刃のついていない模擬刀だよ」
そういうと優希は俺から刀を奪って鞘を抜き、様々な角度から眺める。
しかしこういうものに興味のない女子に違いが判るはずもなく、すぐに突き返された。
「まぁいいわ。今回はあなたを信用しましょう」
「そりゃどうも。で、もう奉仕活動も終わりでいいだろ?」
「そうね…。いいわ、今日はこれでおしまいにしましょう」
「二度とこんなことにならないように…」
「うし、帰るか」
「お疲れ様でした~」
「一生徒として自覚のある行動を…」
「宿題ってなんかあったっけ?」
「数学の練習問題と英語の予習があるよ」
「うぇ~、マジ最悪」
「ねぇマモル君、一緒に帰ろ?」
「あぁ、いいぞ」
「ちょっと!!聞きなさい!!!!」
「あーはいはい。二度とこうならないように一生徒として自覚ある行動をするように心がけますよー」
「…ならいいわ。あなたたちもよ、いいわね!!」
「「「は、ハイ!」」」
怒鳴るだけ怒鳴り散らして優希は一人さっさと帰ってしまった。残された俺達も荷物を持って再度校門前に集合することにして一度散開した。
守「お疲れ様でした。今回の更新は以上になります。引き続きおまけの方もお楽しみください」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マナミ「校門の前に行ってみればそこにはお兄ちゃんとマナ先輩が!」
理沙「隠れてこっそり聞いていたらまさかの展開に!」
瑞姫「やっぱり先輩に気付かれずにってのはムリだったね」
マナミ「次回『義妹記』、『フラッシュバック』。久しぶりにお話が進みます」
3人「絶対読んでね!」
―――――――――――――――――――――――――
マナミ「ねぇお兄ちゃん」
守「ん?」
マナミ「マナミ達が出会わなかったら、今頃どうなってるんだろうね」
守「多分遼たちを従えて大暴れしてただろうな」
マナミ「じゃあマナミと出会って正解だったってこと?」
守「そういうことだ」
マナミ「じゃあマナミはどうなってたと思う?」
守「どうなったって…一緒になる前の事はよく知らないからなぁ」
マナミ「そう…だよね。マナミが知らないことをお兄ちゃんが知ってるわけないよね」
守(知ってるけどな…。俺と出会わなかったらお前は正義さんと同じ道を辿っただろうよ)
守「なぁマナミ…、大事な人と一緒にいられるんだったらお前は『幸せ』か?」
マナミ「ど、どうしたの急に?」
守「ちょっと気になってな。で、どうなんだ?」
マナミ「お兄ちゃんと一緒ならマナミは幸せだよ!」
守「そうか…。嬉しい、俺は今サイコーに嬉しいぞ!!」スリスリ
マナミ「ちょっ、お兄ちゃん?!」
守(今の言葉が真実なら…、もしかするとマナミは俺と出会わない方が幸せだったかもしれんな)
マナミ「お兄ちゃん、そういうのはオフレコの時にやろうよ!」
守「む、そうだな。じゃあ今回のおまけはここまで!じゃあな!」