待ち時間
―――放課後―――
「っしゃ終いや!帰るで」
「守もこれからどっかに…、おっと、仕事があるんだったな」
わざと嫌味を言ってから帰る2人。さんざん言われたせいでもう言い返す気力もない。
「はぁー。部活が終わるまで待機かぁ」
「その間も奉仕活動をさせられないだけいい方だと思うよ?」
「でも強烈に暇なんだよなぁ…」
「期末テストも近いんだし、勉強したら?」
「やだ」
「一応私たち受験生なんだよ?」
「やだったらやだ」
「もぉ…、そんなんだから学年トップ10から落ちちゃうんだよ」
「うっ…」
ウチの学校は文系と理系ではテストの科目数が異なるため、学年全体で成績を比較するときは得点率のデータが用いられる。
中間テストだと、俺は得点率86%で上から16番目。ちなみにマナは98.5%でトップ、ちなみに次点はユキで98%だった。
「それじゃ、私は生徒会に行かないといけないから」
「ん。またな」
マナが教室を去る。残ったのは俺と黙々と勉強している数人の生徒。さすがに居づらくなってきたので荷物を持ってマナミのいる教室に移動する。
「うぃーっす」
「あっ、お兄ちゃん。どうしたの?」
「受験生ばっかで教室が息苦しいから逃げてきたんだよ」
教室にいたのはマナミと理沙だけで、沙希・美穂・瑞姫はそれぞれの部活に行っている。
「お前らは帰らないのか?」
「やることがあるの」
「やること?何するんだ」
「お兄ちゃんのお手伝い!」
「ウチも微力ながらお手伝いします!」
「お前ら…」
目頭が熱くなり、おいおいと泣き出してしまう。マナミはよしよしと俺の頭を撫でてくれていた。
「兄妹仲睦まじいところ悪いんだけど…」
邪魔が入ったので俺は泣き止み、マナミは手を離す。
「遠野先生じゃないですか、何の用ですか?」
「補修するから呼びに来たんだよ」
「大変だな、お前ら」
マナミは成績は優秀だから該当するのは理沙の方で、マナミは付添いみたいなもんだろう。
「何を言ってるんだい、補習を受けるのは君だよ」
「……え゛っ」
「テストであんな点を取っておいて何もないと思ったのかい?」
「まぁ…確かに何かはあるかと思ってました」
「せんせー、お兄ちゃんがどうかしたの?」
「この前の中間テストで物理の点が―――」
「さぁ補習行きましょう、補習!!」
先生の背中を押し、マナミらと力ずくで離れさせる。
「お兄ちゃんたち、行っちゃったね」
「だね。でも先輩の物理の点、気にならない?」
「なるなる!」
「そうと決まれば、早速追いかけよっか!」
「おー!」
教室を出た後は先生が俺を誘導する。すれ違う生徒すれ違う生徒が俺達に挨拶をする。
――遠野先生の場合――
「遠野先生、このあといいですか?」
「先生、私に勉強教えてください!」
「先生、コレ受け取ってください!!」
「う~ん、みんなの気持ちは嬉しいけど…、僕はこの後補習が入ってるんだ」
追っかけの女子たちが殺意を膨らませてこちらを見る。が、それは一瞬で収まり――
「あっ、守先輩!」
「補習の対象ってもしかして守先輩ですか?」
「そうだよ」
「放課後の誰もいない教室で2人っきりでの特別授業、これはまさに…」
「「「禁断の恋!!」」」
テンションがハイになりすぎて意識が吹っ飛んでしまい、取り巻きが次々と廊下に倒れていく。
先生は彼女らを廊下の端っこに寄せると、再び歩き出した。
「いいんですか?あれで」
「いいのいいの、いつもあんな感じだし」
「言っときますけど俺はそんな関係は御免ですよ。もしその気になったら俺はそうなる前に先生のケツに銃弾ぶち込みますから」
「僕も御免だよ。でも…案外悪くないのかもしれないよ?」
「銃弾からダムダム弾に変更した方がよさそうですね」
「ほんの些細な冗談だって!」
――俺の場合――
「あっ、守さん。お疲れ様です!」
ガタイの良いゴリマッチョが俺に挨拶をしてくる。
「お疲れー。頼まれてた例の物、もうすぐ着くから」
「ありがとうございます!!」
ゴリマッチョは嬉しそうに去って行った。
「例の物って?」
「アメリカで大好評のプロテインですよ。オークションじゃ数倍の値がつくそうです」
「へぇ~」
「あ、守さん!この前はありがとうございました!!」
廊下を走っていた坊主頭の好青年が一度止まって俺に礼を述べる。
「それでは、練習があるので失礼します!!」
彼は廊下を走って消えていった。
「また困ったことがあれば言えよー…って、聞こえてないか」
「今の彼は?」
「野球部のやつなんですけど、自前のバットが手に馴染まないからちょっと削ってくれって頼まれまして」
「…職人になった方がいいんじゃない?」
「よう黒武者、例の件ありがとうな」
体育教師が現れ、俺に礼を言う。遠野先生はその場でこわばっていた。
「大事に扱ってくださいよ」
「もちろんだとも」
体育教師はグラウンドの方へと消えていった。
「今度は何をしたんだい?」
「壊れかけてたトンボの修理・溶接等々です」
「先生達にまで依頼されるってことはかなり信頼されてるんだね。さすが『よろず屋』」
「褒めたって何も出ませんよ?」
そうこうしているうちに物理室に着く。先生は準備室の方に入り、俺もそれに続く。
中は授業で使う備品が大半を占めており、銃火器を隠すにはもってこいの場所だった。
「その辺に銃があったりするから気を付けて」
「はいはい。でもチョークの箱に銃弾を入れるのはどうかと思いますよ…」
「たまに間違えるんだよねー、それ」
「だったらやめてくださいよ!」
「便利だからしょうがないよ。…………お客さんみたいだね」
「どうしますか?」
呑気に笑っていた顔が引き締まり、仕事の時の顔になる。どうやら盗み聞きしている奴がいるようだ。
俺は落ちていた拳銃(MK23)を蹴りあげて手に取り、扉に忍び寄る。先生は椅子に座ったままで動こうとしない。
「それじゃよろしくー」
「…まぁ学校だから杞憂に終わると思いますけどね」
扉を一気に開ける。体を押し当てていた客人は支えを失い地面に突っ伏す。俺は隙だらけになった後頭部を銃で狙う。
「いったぁ~い!」
「マナミ!?なんでここに…」
「お兄ちゃんの後をつけてきたの」
「ほぉ…、というとこはお前がマナミを唆したわけか」
一緒にいた理沙の顎に銃口を突きつけ尋ねる。万が一のことがあってはならないので引き金に指はかけていない。
「確かにウチですけど先輩!ここは日本です!銃はダメです!!」
「本物なわけないだろ。エアガンだよ、ねぇ先生?」
「ん?あー、そうだよ。それ僕のコレクションの1つだよ」
2人とも先生の言葉を聞いて安心し、ゆっくりと立ち上がる。そして服を払って埃を落とす。
俺は隣の物理教室から椅子を拝借してきて2人を座らせる。しかし物であふれている部屋に4人も人がいると結構狭く感じる。
「で、補習はしないんですか?」
「うん、もういいや。何があっても自己責任ってことで」
ガッツポーズをとって喜びを体で表す。
「あ、でも追試はやるからね」
盛り上がった気分も急落してうなだれる。
「もし不合格だった場合、夏休みは半分以上なくなるからね」
「「「え゛っ」」」
その場にいた3人が声を合わせて驚く。
「なんで君達も驚くの?特に理沙ちゃん」
「先輩といると退屈しなさそうですし…。もしかしたら宿題見てくれたりするかなーって」
「だったらマナに頼め。アイツは学年一なんだから」
「いやぁ…、でも先輩の方がこう…、距離が近いじゃないですか。友達のお兄さんだし」
「それに理沙ちゃんは文系だから、物理とは無縁だもんね」
「うんうん」
「…ケンカ売ってんのか?」
拳銃のスライドロックを解除し、脳天をめがけて構える。
「売ってませんから銃を下ろしてください!!」
理沙は両手を上げて抵抗しないことをアピールする。この銃が偽物だと信じて疑わないマナミは笑って傍観していた。
遠野「お疲れ様。今回の更新はここでお終い、次回も読んでくれると嬉しいな」
「それじゃ、引き続きおまけの方もよろしくね」
JS「こんにちわー」
青年「こ、こんにちわ…」
守「へー。最近の小学生はちゃんと挨拶してるんだな、知らない人にはガン無視っ てイメージがあったが」
マナミ「それはちょっと違うよ、お兄ちゃん」チッチッチ
守「どういうことだ?」
マナミ「なんか、危ない人にはこっちから声をかけるように言われてるらしいよ」
守「ふーん、まぁ確かにそういう子は襲いにくくはなるけど……」
マナミ「けど?」
守「勘違いしたストーカーみたいな奴が湧きそうだな、と」
マナミ「たしかに…」
守「お前は大丈夫だよな?」
マナミ「えっ?」
守「お前は優しいから分け隔てなく接してるだろう、中には『話しかけてきたって ことは俺に気があるってことだ!』とか思ってる奴に心当たりないか?」
マナミ「心配いらないよ、お兄ちゃん」
守「そうか?」
マナミ「そうだよ!だってマナミとお兄ちゃんは誰が見てもラブラブだもんっ」
守「マナミ…!」
マナミ「ふぁ…んっ……お兄ちゃん」
律「おぉ、アツイアツイ」
二人「!?」