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義妹記  作者: 白鳳
義妹編
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守の昔話①(購買利用禁止の経緯)













――屋上――


「買ってきたぞー」


「「「「おかえり~」」」」


女性陣は円卓を囲んでプリンの登場を今や遅しと待ち焦がれていた。


プリンを専用の皿の上に移す。確かにデラックスというだけあってバケツプリンよりも一回り以上デカい。


上質な卵を使ったと思われる鮮やかな黄色、太陽の光を反射して輝くカラメル、そして絶妙なバランスで保たれているそのスタイル…!どれをとっても間違いなく一級品だ。


皆は食べることの方が優先らしく、最大の功労者の一口を待たずにぱくぱくと食べ始めている。


「甘いものは別腹」というがまさにその通り、昼食後だというのにペースは一向に落ちる気配がない。


完全に プリン>>>俺 の構図に打ちひしがれていると、マナミとマナが俺を手招きして呼んでいることに気付いた。そばに寄ってみると…


「おに~~ちゃんっ」


「マモル君っ」


「「あ~~~ん」」


プリンの乗ったスプーンが俺の口の前まで運ばれる。傍から見れば『死ね!!』と言いたくなるだろうがこの状況、軽く修羅場である。


マナミの方に目をやるとマナがしゅんとしてしまい、逆にマナの方にしようとすると今度はマナミがしょぼくれてしまう。


どちらか一方だけを選ぶことはできない。ならばとるべき選択肢はただ一つ!『両方』だ。


大きく口を開け、2人が差し出したプリンを一気に食べる。2人とも自分のを食べてもらったということで満足げだった。







ものの数分でプリンは消失し、皿と空の容器だけが残される。結局俺が食べたれのはさっきの分と通常サイズ分ぐらいだけだ。


「おいしかったね!」


「よね~。来月も先輩にお願いしない?」


「悪いがそれはダメだ」


「ふぇ、どうして?」


「昔ちょっとした取り決めがあってな…今回だって非難囂々なのは目に見えてるし」


首をかしげたままのマナミら一年生たちに対し、事情を知ってる三年生たちはうんうんと頷いていた。


















――2年前――


「おばちゃん、カツサンドと焼きそばパン5こずつちょうだい!」


「おばちゃん、この限定プチシュー3箱!」


このころの俺は『強奪商会』という組織に所属し、依頼された商品を確実に買ってくるという商売をしていた。


他のメンバーよりも依頼料は張るものの、その確実さから毎日指名が絶えなかった。


しかしある日、俺はこの組織を脱退せざるを得なくなった―――



「守、大変だ!」


「どうしたんですか?」


「今日発行の瓦版だ、この記事見てみろ!」


『風紀委員会に抗議文提出、強奪商会に捜査のメスが!?』と見出しがつけられた記事、詳しく読んでみると……


【最近の購買において、確実に商品を得るために代理人に買ってきてもらうというケースが多々見られる。


 その中でも一番人気なのが、一年生の黒武者守という生徒だ。彼は連日購買に現れては目玉商品・大人気商品を買い漁っているという。


 その状況を見かねたとある生徒が風紀委員会の目安箱に意見書を提出、事態を重く見た委員会側は『彼と彼の所属する組織の代表と一度話をする必要がある』とコメントした。】



「……ふーん」


「そして早速迎えに来たわ、黒武者守!」


「さすがに手が早いな、ユキちゃん」


「当然よ。黒武者守、貴方に任意同行を要求します」


「いいだろう。付き合ってやるよ」


「お、おい守…」


「大丈夫ですよ、先輩。俺がけじめをつければいいだけですから」





ユキらと共に風紀委員会の根城、生徒指導室へと連行される。


中に入ると、強奪商会の会長と風紀委員が向かい合うように机が配置されていて、その奥中央にはマナが座っていた。


「会長、当事者の黒武者守を連れてきました」


「お疲れ様、それじゃあ座って。マモ…、黒武者君も」


いつものクセで俺を名前で呼ぼうとして言い直したマナに一礼してから席に座る。


「それでは、話し合いを始めてください。なお、第三者の立場として私、生徒会長の佐伯真奈が立ち会わせていただきます」







「まず、投書の内容に間違いはありませんか?」


「間違いない」


「では、今回の一件の処分として『黒武者守の購買の利用の全面禁止』、それと『強奪商会の脱退』を提案します」


「そんな!彼はウチのエースでして…」


「会長、いいんですよ。それで手打ちにしてくれるって言ってるんですから」


他の判例では所属組織にも相応の罰則があったのだが、不思議なことに今回商会側への処分は一切ない。


「あっさりしてますが未練とかはないのですか?」


「ないね、小遣い稼ぎの感覚だったし」


「では、会長さんもそれでいいですか?」


会長は黙ってうなずく。俺はこの時重大なことを忘れているのに気付いた。


「それでは、黒武者守には強奪商会の脱退と―――」


「やっぱ待って、ユキちゃん!!」


「なんですか?」


「購買の利用禁止だけど…『無断での利用禁止』にならない?」


「そうする必要がある理由を説明してください」


「俺も人間だからさ、弁当忘れることもあると思うわけ。そういう時は購買で買うしかないじゃない」


「…いいでしょう。その程度は認めましょう」


「感謝する」


「そのかわり、反省文を提出してもらいます」


「え゛っ。……それだけは勘弁してもらえない?」


「それだと緩和は認められませんがいいですか?」


「ぐっ……」


「反省文は利用権を得るために必要なものと私たちは考えていますが」


「……しゃぁねぇな。1枚でいいんだろ?」


「いいえ、2枚です」


「2枚!?」


思わず立ち上がってしまう。反省文は何度か書いたことがあるが、俺は文章力に乏しいため1枚書き上げるのに何時間もかかってしまう。それを2枚もだなんて!!


「では、全面利用禁止の方がいいですか?」


「いや、それは…」


「それじゃあ反省文ですね」


「………………。」


「どうしますか?」


「わかったよ、書く書く」


話し合う必要があるとは言ってたが、それは俺の処遇のためだけの話し合いだったとは。


結局会議はこれでお開きになってしまい、風紀委員の連中に追い出されてしまった。
















―――後日―――


「これ、反省文な」


「…確かに。じゃあ1枚は掲示させてもらうから」


「待て、そんなことは聞いてないぞ」


「だって言わなかったもの、それにそっちも聞いてこなかったし」


「そりゃ随分なことで」


「あら、終身名誉会員に任命されて惜しまれつつ脱退したのはどこの誰だったかしら?」


「脱退しろとしか言われなかったからな」


両者一言も発しないまま無言の睨み合いが続く。この険悪な空気は授業開始のチャイムが鳴るまでそのままだった。



























「ってことがあってな」


「懐かしいわね。そういえばあの頃からじゃない?、優希がアンタに固執するようになったの」


「言われてみればそうだな」


律の言葉で合点がいった。あの時商会側に処分がなかったのはそういうことだったのか。


「でも、今それを知ってる人は半分もいないんだよね」


「俺らまだ1年だったからな」


たった2年前の話なのに数年振りの同窓会の席のように盛り上がる。その一方で、今の一年生たちはお通夜みたいに重たくシーンとしていた。


「そんな事情があったなら断ってくれてよかったのに…」


マナミは自分が蒔いた種という責任を感じているのか今にも泣きだしそうだった。他の面子は自分たちの軽はずみだった行動を恥じているようだ。


「そんなにしょぼくれるなって。今回はそんな騒ぎにはならないし」


「え…?」


「今回は事前に出現を知らせたからな。『無断での利用』にはならないわけだ」


「風紀委員が動かなかったのが何よりの証拠よ」


「さすがに次はないと思うけどね」


「マナ、お前また圧力かけたのか?」


「ううん、かけてないよ。それにユキちゃんにそういうのは通用しないし」


「それもそうだな。まぁそういうわけだから、気に病む必要はないぞ」







「先輩が購買に行かないのにはそういう裏があったんですね…」


みんないつもの調子に戻り、いつものように穏やかな昼休みが訪れる。


「そそ。マナミの作る弁当ウマいってのもあるけどね」


「いつからお弁当作ってもらってるんですか?」


「高1の夏休み明けくらいからだったかな」


「何かその頃のエピソードはないんですか、センパイ?」


「もちろんあるぞ。いつだったかマナミから弁当貰いそびれた時にココまで持ってきてくれたことがあってだな…」


「高校に、ってことですか?」


「そそ。で、校内放送で呼び出されて取りに行ったんだよ。『妹様がお待ちです』ってアナウンスされて」


「ちょっとお兄ちゃん!その話はしちゃダメって言ったのに!!」


照れ隠し半分、怒り半分という感じで俺の脇腹をどつく。


「う゛っ!」


さっき仙石にやられたところに追い打ちの一撃が加えられる!しかも完全に油断してたから当社比5割増しだった。


「い、今のはマジでヤバい…」


「仙石でさえ敵わなかった守を一撃で……、学内最強はマナミちゃんかも知れないわね」








おやっさん「ご苦労だったな、今日はここまでだ。次回まで待機していてくれ」

















おやっさん「ん?まだ何かあったか?」


守「おまけのほうに繋いでないからですよ」


おやっさん「あぁ、そうだった。この頃物忘れがひどくてな」


守「まだそんな歳じゃないでしょうに、しっかり頼みますよ」






おやっさん「この後は余談だ。力を抜いて気楽に読んでくれ」








律「聞いた?仙石がまた勝ったらしいわよ」


守「へぇ。新人王は固そうだな」


律「その時記者に『逆立ちしても勝てそうにない人に出会って目が覚めた』って言ったらしいんだけど…この勝てそうにない人って、アンタじゃない?」


守「まさか。俺以外に強い奴なんか他にもゴロゴロいるだろ」


律「そうかしら?」


守「そうだ。あの時の仙石だったらハギとケイも勝てたと思うぞ」


律「それは二人を過大評価してるの?それとも仙石を過小評価してるの?」


守「さてね。目が覚めたって言ってるんだし、今なら二人に並ぶくらいになってるんじゃないか?」


律「それはそれは。今年の体育祭の楽しみが1つ増えたわ」


守「それでも俺の3連覇は揺るがないがな」


律「はいはい。ま、せいぜい足元に気をつけなさいね」


守「待った」


律「何よ」


守「あの時一緒にいた女子、知らないか?」


律「あぁ、恵ちゃんね。高坂恵、仙石の彼女よ」


守「ま、そんなとこか」


律「横取りでもする気?」


守「NTRは流行らねぇよ。それに両手に花から三つ巴にしてどうするってんだ」



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