激闘の昼
キ――ン、コ――ン、カ――ン、コ――ン…
4限目終了の鐘が鳴り、俺は一目散に教室を飛び出す。
進行方向の先では他クラスが机や椅子を使ってバリケードを形成していた。俺はそれを体当たりで破壊しながら廊下の突き当りまで突き進む。
ふと横を見ると、そこはたまたま窓が開いていたのでそこから飛び出し一気に1階へ降下する。
着地した次の瞬間、屈強な男子生徒に囲まれていた。柔道部、相撲部、空手部…ここまでするか、と言いたくなる面子だ。
いちいち相手にしていると先を越されてしまう!、そう判断した俺は購買の方を向いて肩と肘を突き出し、獄長ばりに猪突猛進する。
近くにいた力士たちが押し返そうと踏ん張り、柔道部と空手部もその後に続く。
「まるで逆大きな株ね」
「でもこのままじゃお兄ちゃん、デラプリ買えないよ!!」
「大丈夫だよマナミちゃん」
「え…?」
「マモル君は必ず買ってくる。だってマナミちゃんの頼みだもん」
「そうよねー。今の守は戦闘力100億位あるわよ」
「ぐっ…、ぐぐぐ…」
全員でかかって俺を押し返そうとするが、その甲斐もむなしく少しずつ押し戻される。
5・6歩進んだころ、一人がつまづき転倒する。後は将棋倒しの要領で一気に崩れていく。一応死人や重傷者になりそうなやつは救出する、といってもその集団からほっぽり出すだけだが。
一団を突破し、購買まであと少しのところまで来ると、物陰から一人の男が現れる。
その男は両手にボクシンググローブをはめ、軽快なフットワークをしながら体を温めていた。
「あれは…ボクシング部のエース、仙石!!」
「知ってるの?サキちゃん」
「当然よ。高校生ながらにしてフェザー級新人王に最も近いと言われる男…、それが彼よ」
俺もグローブを装着し、構える。向こうはヘッドギアとマウスピースもつけるよう提案してきたが拒否した。
両者の拳を軽く突き合せ、第1ラウンドが始まる。
仙石は小刻みに動き回り、俺に狙いを定めさせない。その一方でジャブを打ち、俺の出方を伺う。
俺はタイミングを計り、仙石のジャブに合わせて左ストレートを放つ。俺の左は狙い通りに仙石の顔から拳1個分ほどずれたところを突き刺す。
直後、仙石は動揺を隠しきれず俺と距離をとる。
「あれ?後ろに下がっちゃったよ?」
「ホントね、どうしたのかしら」
「リーチの差だよ」
「ビクッ!!――」
「なんだ、ケイとハギじゃない。脅かさないでちょうだい」
「いやーすまん、嬢ちゃんらも驚かせてすまなんだな」
「いえ、そんな…。それより、リーチの差ってどういうことですか?」
「見えなかったと思うけどさっきの一瞬、仙石の拳は守に届いてなかった。でも守の拳は仙石に届いてた」
「ふぇ~。でもなんでお兄ちゃんが勝ったの?」
「腕の長さと目測の誤りが原因やな」
「腕の長さは先天的なものだから置いておくとして、目測?」
「アイツは手ぇポッケに入れたりして腕を隠してたからな」
「手合せしてみると、思ってたより腕が長かったわけね」
俺は前進して開いた距離を詰める。仙石も俺の射程ギリギリまで前進し、少し侵入してちょっかいを出してきてはすぐに撤退する。
こちらが攻勢に出るとガードを固め、カウンターのチャンスを窺う。
この攻防が2~3分続く。通算で3分が経過してもだれも止めに入らないからそういう点ではこっちの方が有利そうだ。
殴り合いを続けていると、デラプリが誰かに買われていないかが気になりだした。一瞬視線を離し、購買の方を見る。
仙石はその隙を見逃さなかった。一気に詰め寄りボディに一発を捻じ込む!
「っぐぁ…」
なかなかいい一撃だったが、続行に支障はない。近づいてきた隙を逃すまいと反撃の左を放つ。
仙石はそれをガードする。俺は逃げられる前に右を放ち、防御姿勢を維持させる。
たったの2発を防いだだけだが、仙石は苦しそうな表情をする。俺の一発は強烈に『重い』のだ。
さらにもう1発左を打ち込むと、ガードは弾き飛ばされバンザイの状態になる。防御がお留守になった仙石の左胸に右の一撃を叩き込む!
「っっ………!!」
一時的な呼吸困難になりその場に倒れ伏す。俺は頭を打たないよう補助してやった。
その後横を抜けて購買のおばちゃんに話しかける。
「おばちゃん、DXプリンちょうだい!」
「おやおや、10カウントはまだじゃないのかえ?」
「!、まさ、かっ……!!」
気付いた頃にはもう遅かった。仙石の拳が俺の左脾腹を打ち抜いていた。俺は膝を地につけてうずくまる。
立ち上がって反撃をしようとしたその時―――どこからともなくタオルが投げ込まれた。
「もうやめて!明人はもう限界よ!」
購買の中から女生徒が出てきて仙石の肩を担ぐ。
「だから私は反対したのよ!黒武者君に敵うはずがないって!!」
「う、うるせぇ…、あと少しだったのに邪魔しやがって……」
仙石は膝をがくがくさせながら、それでもなお試合を続けようとする。
「今のお前じゃ俺には絶対勝てんぞ」
「なにぃ…」
「背負ってるものが違いすぎるんだよ。お前、心のどこかで『黒武者守相手なら負けても仕方ない』とか『公式戦じゃないから無敗記録は傷つかない』とか思ってないか?」
「…!」
「そこが決定的な違いだ、お前も全日本チャンプとかになればわかるだろうよ」
「……完敗だ」
「明人!」
緊張の糸が切れ、脱力する仙石。彼女1人じゃ支えきれそうになかったので俺も加勢して支える。
「おばちゃん、ちょっとコイツを保健室に連れてくからその間に準備しといてくれや」
「はいよ」
綾「お疲れ様、今回はこれでお終いよ。次の更新もお楽しみに」
オニさん「そしておまけだ。今日こそ私の出番が…!」
作者「ありません」
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優希「自分が何したか、わかってるわね?」
守「『協定を破棄して購買に介入した』、ってことだろ?」
優希「そうよ。動機は何?」
守「マナミに頼まれた」
優希「まぁそうよね。それじゃあマナミちゃんのほうにも処分が必要ね」
守「マナミは協定の事も諍いがあった事も知らなかったんだ。アイツは悪くない」
優希「どこまでもあの子を庇うつもり?」
守「当然だ。それに事後すべてを話したらもう頼まないと反省していた」
優希「それが信用できると思う?」
守「思わないだろうな。じゃあそこで置物になってる生徒会長に聞いてみるか?」
優希「いいわ。で、どうなんですか会長?」
マナ「マモル君の言ったことは本当だよ。マナミちゃんはそう言ってた」
守「というわけだ」
優希「それじゃあマナミちゃんの事はあなたの監督責任ってことにしておくわ」
守「配慮感謝する」
優希「どうも。で、肝心の罰則なんだけど…」
守「あぁ、そうだったな。これでいいか?」ドサッ
優希「なによ、その包み」
守「俺の小指だ」(右手を見せる)
マナ「ッ!?」
優希「……あ、あなた……正気?」ガクガク
守「正気も正気、大真面目だよ」
優希「あなたおかしいわよ、異常よ!」
守「好きに言え。足りないなら今ここで切り落とすぞ」(鉈装備)
優希「……もういい、帰っていいわ」
守「それじゃお邪魔しました。マナ、帰るぞ」
マナ「う、うん…」
優希「今度いい精神科を紹介してあげるわ」
守「その必要はない、俺はいたって正常だからな」
ガラガラガラ
マナ「ね、ねぇマモル君…その右手……」
守「あぁコレか?よくできてるだろ」
マナ「え…?」
守「誰も指なんて切り落としちゃいないよ」シュルシュル
「ほれ、このとおり」(右手を見せる)
マナ「ホントだ…」
守「ちなみにさっきの包みの中は花林糖。今頃悔しがってるだろうな、アイツら」
マナ「…………」プルプルプル
守「…マナ?」
マナ「マモル君のバカ!なんで事前に言ってくれなかったの!?本気にしたじゃな い!!」
守「『敵を騙すにはまず味方から』って言うだろ?」
マナ「もぉ~、バカ!バカバカ!バカっ!!」