早弁と条約破棄
――1限終了後――
「……腹減った」
大急ぎで家を飛び出したからもちろんなにも食っていない。だから授業中も頭がうまく回らない。
「そうだ、局室に隠し食料があったはず…」
「あれへんで」
「なにぃ!?」
「土日で俺達が全部食っちまった」
ハギとケイの2人があっけらかんとして言う。
「今度補充しておくから堪忍な」
「チッ…、じゃあ早弁しかないか」
カバンの中から弁当箱を取り出し、包みをほどき、一足早く食す。
「休み時間内に食べ終わるの?」
2限目が始まるまであと5分を切っっていた。それに気付いた俺は食べるペースを上げる。
「んぐっ…んん…」
予想はしていたが喉に詰まった。
「ほらぁ、言ったそばから…。はいお茶」
マナから渡されたお茶を一気に飲み干しすべてを流し込む。おかげで大分楽になった。
そして再び弁当のおかずをかきこむ。その傍らではハギとケイが彼らなりの激励の言葉を飛ばしてくれていた。
食べ始めてからおよそ5分、残り時間を1分と17秒残して食べ終わった。
「ふぅー、食った食った」
「そんな早食いしちゃって…ハイ、これ」
そういってマナが渡してくれたのは胃薬、正確には消化薬だ。正直ありがたい。
「お前…なんでこんなもの持ってるんだ?」
「こんなこともあろうかと!って思ってね」
それは普通技術者が言う台詞であって良妻の言う台詞じゃないんだが…、この際ケチは付けないでおこう。
「それより、早弁しちゃってよかったの?」
「他に食うものがなかったんだ、仕方ない」
「そうじゃなくて…。お昼にお弁当食べてなかったらマナミちゃん不思議がると思うよ?」
「あぁ…そうだな」
携帯を取り出しマナミにその旨を伝えるメールを送信する。授業中にもかかわらずすぐ返事が返ってきて、
『じゃあ今日のお昼はどうするの?』
『たぶん購買で何か買う』
『じゃあデラプリ買ってきて!』
『了解』
トントン拍子でメールの送受信が行われ、授業が終わると俺は携帯を閉じ、大きく息をつく。
「なぁマナ」
「なぁに?」
「デラプリってなんだ?」
「そうか…。何か忘れてたと思ったら今日はデラプリの日だったんだ」
マナではなく最近出番のなかった陸が反応を示す。かわいそうなので陸に聞いてみることにした。
「それで、その『デラプリ』ってのはなんだ?」
「あぁ、それは――
「それはDXプリンのことよ。名前の通り巨大なプリンで略してデラプリと呼ばれているわ」
折角の出番も律が奪って行ってしまった。なんとも哀れなやつだ。合掌。
「毎月第4月曜日にだけ購買のメニューに登場して、それを食べることのできた人たちは幸運な来月を過ごすことができるそうよ」
後半は尾鰭の付きまくったうわさ話だろうが、激レアアイテムということならマナミ達が欲しがるのも理解できる。
「それじゃ、マナミのリクエストなわけだし、頂戴すっかな」
その言葉を口にした瞬間、クラス全員の動きが止まる。狙っていた者たちの視線を一身に集める。
「アタシはやめといたほうがいいと思うけど」
「そうだよマモル君、あの約束を忘れたの!?」
「………マナミのためだ、仕方ない」
「マモル君!!」
マナ達に加えてクラスメイトのほぼ全員が俺の決断に反対する。しかし俺の決意は揺るがない。
「マナミの為なら俺は鬼にでも悪魔にでもなる。文句があるなら力ずくで止めてみろ」
俺の意志の硬さに一同が黙り込む。止められ得るのはハギとケイだけだが勿論二人は動かない。
「とはいえ、今回だけにするつもりだ。また大事になるのは避けたいからな」
椅子から降りて跪き、皆に対して頭を下げる。
「この俺の我儘、見逃してはもらえまいか?」
言い終えると俺は完全に静止し皆の反応を待つ。はじめはざわついていたがそれも次第に収束していき…
「お前のシスコンっぷりは昨日今日に始まったことじゃないしな」
「今回だけだよ、次やったらユキちゃんに報告するからね」
「お前にゃ負けたよ」
等々、なんだかんだで承諾は得られたらしい。俺は面を上げ皆に今一度感謝の言葉を述べる。
「ただし、全員に通知させてもらうわよ」
「わかってる」
この手の限定品を得るために金で助っ人を雇う生徒もいる。あえて勝ち目の薄い勝負に金をつぎ込むこともあるまい、という彼女なりの優しさなのである。
ただし、事情を知ってる人たちからの非難の嵐も巻き起こしてしまうわけだが…。
ケイ「一読ご苦労さん、っと。んーじゃ次はおまけだから、そっちもヨロ~」
マナミ「ゴールデンウィークだね、お兄ちゃん!」
守「そうだな。でもどこにも行かないぞ」
マナミ「えっ!?」ガーン
守「受験生にはGWなんて関係ないからな」
マナ「そうだよマナミちゃん。私達3年生は3日4日が補修で、土日に模試がある の」
マナミ「大変なんだね…、お兄ちゃん達」
守「そうでもないぞ。補修は午前中の4限しかないから昼には帰ってこれるし」
マナミ「そうなの?それじゃあお昼作って待ってるね!」
守「悪いな。お詫びに夏休みには好きなとこに連れてってやるから」
マナミ「やったぁ!約束だよ?」
守「もちろんだ。学校もオープンキャンパス行くっていえば公欠になるし」
マナ「いいのかなー、先生にバラしちゃおっかなー?」
守「お前も来ていいけどそう上手く休めるか?」
マナ「結構難しいかな…」
守「それじゃあ学校が休みのお盆前後に行くとするか。それならサボる必要もない し、2人ともそれでいいか?」
マナ「うん!」
マナミ「マナミはお兄ちゃんと行けるならいつでもいいよ!」
律「で、本当に行くの?」
守「夏場まで作者が覚えてればな」