マナと買い物
―ショッピングモール内・衣服エリア―
流石に休日なだけあって人が多い。このエリアは年齢層に応じた店舗が固まって分布しているため、必然的にすれ違う人も同い年かその前後である。
そんなところで俺達が向かったのは、真正面のドでかい店の横にひっそりとある店。なんでもマナの知り合いの人が経営してるらしく、贔屓にしているそうだ。
「いらっしゃいませ~。…あら、今日はお連れさんが一緒ですね」
「あ、あはは…///」
「どうも。いつもこいつが世話になっているようで」
「いえいえ、いつもウチを贔屓にしてもらってありがとうございます。あら…」
「なんです?何かついてますか?」
店員が訝しそうな目で俺を見る。女子向けの服屋に男が入るってのはタブーなのか?
そんな疑問を覚えつつも俺達は店の奥へと入っていった。
「そういえば、マナミちゃんもよくここにきてるらしいね」
「……あぁ、そいうことか」
「?、どうしたの?」
「さっきの店員の見る目が厳しかった理由がわかった」
昨日の段階ではマナミに気をとられていてどこの店に行ったかなんて全く気にも留めなかったが、どうやら俺はこの店に昨日来ていたらしい。しかもマナミと一緒に。
それでたまたま昨日も今日もいたあの店員は、俺が女をとっかえひっかえして遊んでいる不埒者だと思ったわけだ。後でマナミは妹だってことを説明しておこう。
「じゃあ守君は外で待っててね」
ある程度欲しい服を選び、試着するべく試着室へとやってきた。もちろん俺は部屋の外だ。
暇潰しにあたりを見渡す。ここにきている子たちは総じてレベルが高く、それぞれこだわりを持っているようだった。
そんな中、一人の店員がこっちに向かって歩いて来るのが見えた。よく見れば俺を色情魔と思い込んでいる奴だ。
「昨日の今日とはいい身分ですね」
「昨日いたのは妹な。で、今日いるのが彼女」
「そうだったんですか!てっきり二股かけてるのかと…」
「普通はそう思うよな。昨日は下見がてらに来てたんだ」
「そうでしたか。それでは、ごゆっくり…」
空気を読んで店員は売り場へと戻っていた。
試着室の方に意識を戻すと、妙に静まり返っているのに気付いた。
「おーい、マナ?」
「ねぇ、マモル君…」
「ん?」
「さっきの言葉…本当?」
「さっきの言葉って言うと……!!」
俺は邪気を感じた。そっちの方を見ると風紀委員のユキがいた!俺は身を隠すため、試着室の中に身を隠した。
「もし、本当なんだったら………っ!!!!!」
着替え中で下着姿になっていたマナと目があう。ちなみに上下ともにピンクでマナミとは違った魅力があり、思わず見入ってしまった。
「マモル君のバカバカバカ――――!!!!」
凄まじい速さで拳が飛んでくる。この狭い空間では避けられるはずもなく、ボコボコに殴られる。
散々殴られた俺はボロ雑巾のように試着室の外に放り出され、地に寝そべる。
「何やってんのよ、黒武者守」
ふと声をかけられたので見上げると、日曜日だというのに学校の制服を着ている酔狂な奴が立っていた。
それなりに仰角があったのだが、何かの力が働いてるのかスカートの中は全く見えない。ちなみに学校内に置いてもこの見えない力は健在で、健全な男子生徒諸君が約二年半にわたって挑戦し続けているが未だに攻略の一報は聞こえてこない。
「何って…買い物だが」
「貴方はそんな顔で床に這いつくばって買い物をするの?」
「しないな。だがこの方がお前から逃げやすいかもしれんだろ?」
言うまでもないが、こうなったのは事故であってやましい目的は一切ない。
「逃げる必要なんてないわよ」
「は…?」
「マナミちゃんか誰かと一緒にいるんでしょ?」
「マナと一緒だな」
「あら、会長と一緒だったの。それなら尚更安心ね」
本当に俺を捕まえる気はないらしく、背を向けてその場を去ろうとしていた。
「あぁ、そうそう」
「なんだ?」
「覗きはれっきとした『犯罪』よ?」
「どっちのことだ?」
「さぁ?どっちでしょうね」
「何れも不可抗力だ、処罰の対象にはならんよ」
「そのようね、それじゃまた明日。遅刻せずに来なさいよ」
鉄壁の女が俺から遠ざかっていく。歩くのに際してスカートがひらめくのだが…やっぱり見えない。一部の男子たちの間では『中身』についての賭けが行われていて『白』、あるいは『黒』もしくは『ブルマ・スパッツ・短パンの部類』が人気らしい。
「お待たせ―」
さっきまでのことはきれいさっぱり水に流した様子で試着室からマナが出てくる。
「買うやつは決まったか?」
「うん。お会計行こ!」
最近の服屋では、試着してみて買わないと決めた服はそばのハンガーにかけておけば店員が勝手に元の場所に戻しておいてくれるらしい、便利になったものだ。
「合計で、8560円になります」
「はいはい…」
財布から紙幣を出そうとするマナの手を押さえ、代わりに俺が万札を出す。
「マモル君、そんなの悪いよ!」
「さっきの詫び代と見物料変わりだ、いいもの見れたしな」
「…エッチ」
「そうでなくても日頃世話になってるからな。こういう時でもないと恩返しできないだろ?」
「わ、私はマモル君がそばにいてくれるだけで、その………///」
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ!!」
「………?」
「そ、それじゃあ好意に甘えちゃおっかな~」
「ありがとうございましたー」
店を出て、次の場所に向かう。マナ個人の買い物は済んだらしいので、次は俺の個人的な買い物をしにスポーツ系の店にやってきた。
「いらっしゃいませー」
「何買うの?」
「ジャージにテーピング、それから清涼飲料水の素だな、粉末のやつ」
「まだジャージ買うの!?」
「外着用で着てたやつが一着穴が開いてダメになったからな」
「それって捨てちゃうの?」
「状態がひどいと捨てるけど…基本は部屋着になるな。で、使ってるうちに生地が薄くなってくるから、そうなってきたら冬の重ね着用に回すな」
「結構長く使うんだね…」
「まぁな。それでも年に1、2着は処分してるぞ」
「へぇ~。じゃあ、なんでスポドリの素を買うの?」
「あると何かと便利だからな。体育の後とか飲めたら嬉しいだろ?」
「そうだけど学校には自販機あるし、スポドリ売ってるよ?」
「だがそいつが売り切れてない保証はあるか?よしんば売っていたとしても十分に冷えているという保証はあるか?」
「そ、それは…」
「ないだろ?だったら手前で用意しよう、ってなわけだ。それにな…」
「それに?」
「体育祭の練習シーズンになったら割高で売れるからな」
「ユキちゃんに怒られないの?」
「俺の手作りだから手間賃を上乗せしてるって言ったら納得してた。ただそれでもまだ安くできるって指摘してきたけど」
アイツはああ見えて込み入ったとこには踏み込んでこないから、粉末から作っていることは知っていても、原価がいくらでどんな工程で作っているかは知らない。だから割高でも堂々と売ることができる。
「ユキちゃんが認めてるならいっか。でもほどほどにね」
「わかってるって。今年は律にも協力してもらって前年度以上の売り上げを目指すつもりだし」
「全然わかってないじゃない…」
「このくらいは大丈夫なんだって。それより、お前もコッチ側に回ってみるか?」
「えっ?」
「写真部と共同で宣伝のポスターみたいなのを作る予定なんだが…モデルにならないか?」
「モデル!?」
「あぁ、複数作る予定だからモデルもバリエーションがあった方がいいと思ってな」
「他には誰がいるの?」
「えーっと…1年の金谷瑞姫・同じく1年の小林美穂・それからマナミ・ケイ・遠野先生だな、今のところ」
「なにかコンセプトってあるの?」
「コンセプトって程でもないけど、金谷は『選手も愛用』感で、小林・マナミあたりは『運動後の癒し』って感じ、お前もやるならここになるから。で、ケイと先生は『さわやかさ』かな」
「ふ~ん、マモル君はしないの?」
「俺はしない。あんま写真好きじゃないし」
「どうしよっかなぁ…」
「俺的にはぜひとも出て欲しいところだが…」
「じゃあ出る!だってマモル君の頼みだもん」
「助かる。撮影の日は追って知らせるから」
話をしているうちに買い物は終了していて、気が付けばもう店の外に出ていた。もちろん会計は済ませている。
「俺も買いたいものは買ったし、後は…」
「お母さんのお使いだね」
――食料品エリア――
「で、何を買うんだ?」
「ちょっと待ってて、えっと…卵・牛乳・人参・玉ねぎ・ウィンナー・ベーコン・ピーマン、それからふりかけだって」
「よし、さっさと買い物済ませてさっさと帰るか」
「そうだね。マナミちゃんを待たせるのも悪いし」
威勢のいいことは言ったものの、実際こういう買い物はマナミが全てやってしまうため右も左もわからない。
俺はマナの傍を離れず付添い、各売り場を回っていった。
╲1口いかがですかー?甘くておいしいですよー/
どうやら試食をしているらしい。近くに行ってみると新品種のリンゴの試食をしてるのがわかった。
「へぇー、そんなものの試食もやってるのか」
「折角だし、一つもらってみる?」
╲そこの新婚さん、おひとつどうですか?/
「新婚さん!?私たちのこと?」
╲もちろんそうに決まってるじゃない!/
「おばちゃん、俺らまだ結婚してないよ」
╲そうなの?でもそんな細かいことはいいのよ!!それよりリンゴどう?/
ちらっとマナの方を見たが、夫婦と勘違いされたのがうれしかったのか真っ赤になって固まっていた。
「参ったよ、リンゴ一個ちょうだい」
╲一個でいいのかい?/
「2人で仲良く食べるからな」
╲アラッ!あなたやるわねぇ~/
「まぁね。じゃあこの辺で」
早く移動しないとずっと話を続けられてしまうのでさっさと退散する。その頃にはマナもようやく正気を取り戻していた。
「結局リンゴ買っちゃったね」
「これは俺の金で買った分だ、別に差支えないだろ」
さっそくリンゴにかじりつく。実は蜜が詰まっていて甘く、それでいてしっかりとした歯ごたえがあった。
「うまいな、これ」
「そう?」
「食べてみるか?」
マナは荷物で両手がふさがっているので顔の前にリンゴを持っていく。差し出したはじめは躊躇っていたが、少しすると覚悟を決めた様子でかじりついた。
「お前リンゴ嫌いだったか?えらい葛藤があったみたいだが」
「ううん、むしろ好きな方。でも…」
「まさかお前、間接キスになるとか考えてたんじゃないか?」
「……………(コクコク)////」
黙ってうつむき、首を縦に振って肯定する。今日1日だけで1週間分くらい顔を紅くしてるが血管がはち切れたりしないのだろうか?
「ガキかお前は、俺はそんなの全然気にしてないぞ」
「……どうして?」
「マナミと一緒に暮らして長いからな、いちいち気にしてたら埒が明かないんだよ」
最初の頃は俺もマナミも同じ食器やコップを使うことに抵抗があったが、半年もすると全く気にしなくなり、今では普通に回し飲みもすれば片方の食べかけをつまみ食いしたりもする。
マナとの付き合いも長いからそういうことは気にしないと思っていたが…。
♪♪♪~~~~♪~♪~♪~♪~……
俺の携帯が少なくとも今風ではない音楽を奏で、振動する。この着信音はおやっさんからだ、待たすまいとすぐ電話に出る。
「もしもし、守です」
「おぉ、繋がったか。飛び入りですまないが…今夜、頼まれてくれないか?」
「今夜ですか?出来れば他をあたってほしいんですが…」
「皆にも断られてしまってな…」
「……わかりました。その代わり割増ですよ?」
「もちろんだとも」
この組織は基本的には皆対等なのだが、こういう時だけ年功序列が発動する。こうなってしまってはこっちは断れないので、向こうも『報酬の割増』という形で追加手当が出る。
「…すまん」
「えっ?」
「バイトが入った。今夜はお前んちに泊まれそうにない」
「アレ本気で言ってたの!?」
「勿論」
「てっきりその場で言った冗談だと思ってた…」
「それじゃ、俺はいったん家に帰ってマナミ連れてまた来るから」
「うん!また後でね!」
マナの家の前で俺達は一旦別々になり、それぞれの目的を果たしに散って行った。
マナ「お疲れ様でした。次回更新をお待ちください」
作者「えー、今回はですね…大事なお知らせがあります」
マナミ「打ち切りになっちゃったの?」
作者「違います、またちょっとネット環境のない実家に帰るだけです」
マナ「先々月も休んだのにまた休むの?」
作者「そういわれると非常にツラいんですけど…その通りです」
遼「俺の出番はいつなんだ?」
星野「そうよ!私なんてまだココにしか出てきてないわよ!!」
作者「あー…、申し訳ない。遼はボチボチ出番があるはずなんで」
星野「私は?」
作者「お前は基本2章以降だから当面は名前だけかな」
星野「orz」