探索(3)
――再び守の部屋――
「さて、部屋の捜索を再開するわよ!」
「もうこの部屋は探しつくしたし、新しく行けるところはないはずだよ?」
「ところがどっこい、まだあるのよね~♪」
サキは意気揚々とパスワードロックのかかった扉の方へ向かう。
『パスワード ヲ ニュウリョク シテ クダサイ』
この無機的な対応も何度目だろうか、そろそろいい加減飽きてきた。
「パスワードはシ、マ、シ、マ、…っと」
「さ、サキちゃん…そんなんで開くわけ…」
『セイカイ ドウゾ オハイリクダサイ』
「嘘ぉ!?」
ドアのロックが外れたことに二人は喜んでいたが、マナミだけは小刻みに震えていた。
ちょうどその時、マナミの携帯に守からの着信があった。
(あちゃー。先輩、タイミング悪すぎ)
「…もしもし」
「お、マナミか?今日の晩メシなんだが……」
「お兄ちゃんの馬鹿っ!!!!!!」
「うおっ!?」
突然大きな声がしたものだから、反射的に携帯を耳から遠ざける。
「そんなことより、今日の夜…」
「知らない!!!!!!」
ツー…ツー…ツー…
要件も言い終わらないうちに一方的に切られてしまった。俺はマナミが怒っていた理由を携帯の画面を見ながらしばらく考えた。でもわからなかった。
「マモル君の携帯ってテレビ電話の機能付いてるの?」
「え?」
「だってさっき携帯から離れてマナミちゃんと通話してたじゃない」
「あれはマナミが大声を出すから距離をとっただけ」
「もちろん知ってるよ、ちょっと冗談言っただけ。マナミちゃんの声は私も聞こえたからね」
「そうだったか。すまんな、折角のデートなのにこっちの事情が邪魔しちまって」
「ううん、気にしてないよ。それよりどうするの?マナミちゃんに電話しても取り合ってくれないみたいだけど…」
「メールで送信して、読んでもらうのを期待するしかないな」
慣れた手つきでメールを作成し、送信する。あとは天に祈るだけだ。
「見て、階段よ!」
扉の向こうには下の階に続くと思われる階段があった。そして三人は迷うことなく階段を下りていく…。
降りる道中、マナミの携帯はメールの受信を知らせていたが、持ち主は携帯を守の部屋においてきたために気付かなかった。
「…また扉だね」
「次は何があるのかな?」
「さっきよりもすごい特ダネがあるはずよ!」
三人は期待に胸を膨らませ、扉を開ける。その先には・・・
「・・・何コレ?」
「なんていうか…トレーニング室?」
扉の向こうはスポーツジム顔負けにトレーニング設備の整った部屋。そしてもちろんそのすべてに隅々まで整備が行き渡っていた。
「センパイって脳筋だったっけ?」
「脳筋より、脳妹じゃない?」
「そうよねー。でもこれならあのハイスッペックも頷けるわね」
三人とも適当にマシンを使ってみるがピクリともしない。私が見たところ、ほとんどのマシンの負荷は最大になっていた。
「ハァ…ハァ…。滅茶苦茶しんどいわね、コレ…」
「そうだね…。ちょっと…休憩しない…?」
「さ、さんせー…」
―――3分後―――
「それにしても、なぜセンパイはこんなとこにトレ室を作ったのかしら」
「秘密にしたかったんだと思うよ。お兄ちゃん、自分が練習してるところとか見られるの嫌いだから」
「そうなの?フツー練習してるとこ見たら評価上がりそうだけど」
「センパイはかなりの結果主義者らしいわ。師匠の話では『結果が出せたなら過程は正当化される』って言ったことがあるそうよ」
「ほぇ~」
「あと、『一人で努力をするにしても、人に見られた時点でやましさがまとわりつく』とも言ったらしいわ」
「なんか話だけ聞いてると先輩ってものすごく曲がった人って感じだね」
「でもマナミちゃんに関してはまっすぐ一直線。なんか矛盾してるわね」
「いいんじゃない?先輩らしくて」
「マナミもそう思う。お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ」
「なんかアタシだけが悪者って感じね…。まぁいいわ、とりあえずセンパイの意思を尊重してこの部屋は見なかったことにしましょ。いいわね?」
「もちろん」
「は~い」
「今度こそ、完全に詰んだわね」
「これからどうする?」
「今日はもういいんじゃない?結構発見もあったし」
「それもそうね」
「ところでさっきからずっとマナミちゃんの携帯が光ってるんだけど…」
「え?あ、ホントだ」
携帯を見るとメールが1件来ていた。差出人は守で、電話を切られた後すぐに送ってきたらしい。
「何だったの?」
「お兄ちゃんからメール。今日の晩御飯はマナ先輩ん家に呼ばれたから準備しなくていいって」
「マナミちゃんもいくの?」
「うん。買い物とかが終わったら迎えに来るって」
「センパイも両手に華とはよくやるわね」
「鈍感なのかな?」
「たぶんそうだね。お兄ちゃん服とかにも全然興味ないし」
「色恋沙汰には無関心、ってわけね…」
「それでどうする?これから」
「解散しましょうか。アタシも師匠に呼ばれてるし」
「そうなの?じゃあしょうがないね」
「ウチは適当にぶらぶらしてよっかなー」
「補導されない程度にしときなさいよ、理沙」
「わかってるって。今度使ったら親呼ぶってお巡りに言われたし」
「リサリサ、離れ離れになっちゃうなんて嫌だよ?」
「いや、別に逮捕されるわけじゃないんだからそんなに心配しないでも…」
「え?そうなの…?」
「そうよ、マナミちゃん。『逮捕で』会えなくなることはないわ、犯罪でも起こさない限り」
「り、律っちゃん…」
「アンタは一言多いのよ、律」
「あら、全員事情は知ってるんだからいいじゃない。別にセンパイが盗聴してるわけでもないし」
「そうだけど…」
「とにかく、アタシ達は帰るわ。じゃあね、マナミちゃん」
「うん!バイバ~イ」
作者「今回の更新分は以上となります。お読みいただきありがとうございました」
オニさん「『盗聴してるわけでもない』、ねぇ…。彼女達が実態を知ったらどう思うかしら?」
守「考えるだけ無駄ですよ、バレやしませんから」
オニさん「あら、自信があるのね」
守「俺が仕掛けてる盗聴器も、オニさん自身も見つかりっこないですからね」
オニさん「果たしてそうかしら?」
守「何ですかその言葉、マナミにもオニさんの姿が見えているとでも?」
オニさん「見えてはいないでしょうけど、気配は感じていたみたいよ」
守「マナミには霊感もあったのか…」
オニさん「そうだといいわね、でも私が見えるとしたらかなりの強さよ。日常生活に支障を来してもおかしくはないわ」
守「だとすると…、霊感以外に見える方法があるんですか?」
オニさん「えぇ。人を殺める、またはそれに準ずる経験のある人には見えるらしいわ」
守「そんな馬鹿な…じゃあマナミは人殺しだっているんですか!!」
オニさん「それはないでしょうね、はっきりと見えてないみたいだし」
守「そ、そうか…」
オニさん「安心なさい。何もないのに見える人も極稀にいるから」
守「それを聞いて安心しました…。でもなんでそういう人にはオニさんの姿が?」
オニさん「さぁ?私が生前人斬だったからじゃない?」