マナとデート(3)
「いやぁ、美味かった。たまにはパンを食べるのもいいな」
「マモル君に喜んでもらえてうれしいな」
「んで、次はどこに行くんだ?」
「一旦私の家に行こうと思うんだけどいいかな?」
「あぁ、いいぞ。ここから近いし」
俺の家からマナの家までは2~300m程度しか離れていない。5分もあれば互いの家に行くことができる距離だがこの17,8年間、前もって頼まない限りマナが俺を起こしてくれることも、俺がマナを起こすこともない。
ちなみにマナの父親は市議を務めていて市民からの信頼も厚い。マナはまさしく名家のお嬢様なのだ。ただ、マナ自身はお嬢様や特別扱いされるのをあまり好まないため、この事は俺とマナとの秘密である。
さらに次いで言うと、俺はマナの父親からの依頼を受けたことがある。内容は『とある議員のバックにいる暴力団の壊滅』、だったはず。あの依頼はいろいろと大変だったわけだが…
「それじゃマモル君、ちょっと待ってて」
っと、長々と独り言を言っているうちにマナの家に着いたようだ。マナは急ぎ足で家の中へと消えていった。
「守が一人になった…、少し休めそうね」
今回の目的はあくまで『守とマナの熱愛の現場を押さえること』であるため、片方だけではそういうのは期待できそうにない。そもそも二人で歩いてるところや、一緒に昼食をとったりボートに乗ってるシーンはしっかりカメラに収めてあるから、普通ならこれだけで十分だろう。普通なら。
しかし二人は幼馴染だ。『自分達にはよくあること』と言ってしまえばそれまでである。従ってもっと決定的な証拠が欲しい、例えばキスシーンとか。
(マナの家にお泊りして翌朝一緒に登校する場面を押さえるのも面白そうだけど、それはさすがにアタシの身が持ちそうにないわね…)
ヴーーーッ、ヴッヴーーーーーッ、ヴーーッ……
携帯が震える。手に取ってみると、沙希からの着信だった。
「何か面白いものでも見つけたの?」
「まぁ面白いと言えば面白いんですけど…」
「勿体つけてないで言いなさいよ」
「センパイの部屋で異常に黒いスーツを見つけたんですけど…」
「…異常に黒い?喪服なんじゃない?それ」
「師匠もそう思いますよね。でもそれだと腑に落ちないことがあるんです」
「腑に落ちないこと?」
「さっき聞いたら、マナミちゃんは喪服を持ってなくて、センパイだけが持ってるみたいなんです」
確かにそれはおかしい。守の家のことを考えると、マナミちゃんも喪服を持っているはず。そのことを公にしてないなら逆に守が喪服を持っている必要はない。なのに守だけが持っているということは……!
その時、あることを思いつく。もしかして、の域を出ない勝手な推測だがその時はそれが真実であるかのように思われた。
「…それについて深く詮索するのはやめておきなさい、沙希」
「え?どうしてですか?」
「黙って従いなさい。でないと…最悪、死ぬわよ?」
「…っ!わ、わかりました…」
これでいい。これ以上奥を知ると命の危機を感じかねないのだから…。
「それで、他にはないのかしら?」
「まだあります。パスワードが必要な扉がありまして…」
「パスが分からないわけね。思いつく限りは試したんでしょ?」
「はい、でも開かなくて…」
「ねぇ沙希」
「なんですか?」
「今日のマナミちゃんのぱんつは?」
「・・・・・・え?」
「だから、マナミちゃんのぱんつはどうかって聞いてるの」
「あ、はいはいはい…」
「キャッ!!ちょ、ちょっとサキちゃん!?」
携帯から聞こえるマナミちゃんの反応からして、沙希は直接確認したようだ。それからものすごく怒られるかと思えば、その場には女子しかいないからかすぐに通話に戻ってきた。
「青と白の縞々でした」
「なるほど…。じゃあ『シマシマ』って入力してみなさい」
「あのパスワードのとこですか?」
「そうよ。もしそれでもだめだったら諦めなさい」
「わ、わかりました」
「あぁそれと…」
「なんですか?」
「守の部屋に般若面がないか調べてみてちょうだい」
「わかりました、探してみます」
「頼んだわよ」
「さてさて、当の守はどうしてるかし、ら……」
守の方に目をやると、もうそこには誰もいなかった。沙希との通話に熱が入りすぎて二人が出かけるのを見逃してしまったようだ。
「まだそう遠くには行ってないはず!逃がさないわよ!!」
そう自分を鼓舞し、アタシはマナの家を後にした。
その頃、マナの家では――――
「あれ?マモル君あがってたの?」
「私があげたのよ。外に待たせてたんじゃかわいそうでしょ?」
「そういうこと。それで次の行き先は?」
「次は学校だよ」
「せっかくの休日なのに学校?」
「うん…、ちょっと用事があるんだ」
「なら仕方ないな。…ところで俺も買い物に行きたいんだが、学校行った後で行っていいか?」
「もちろん!でも珍しいね、マモル君が買い物に行くなんて」
「買いたいものがあってな。マナミに頼んだら渋い顔されたから自分で買いに行くことにしたんだ」
「あらあら、お買い物に行くの?」
「そうだよ」
「じゃあついでに夕飯の材料を買ってきてくれない?」
「ちょっと、お母さん!」
「いつ頃帰れるかわからないですけど構いませんか?」
「構わないわ。じゃあこれ、買ってくるもののリストね」
「マモル君!?」
「わかりました。では買って帰ります」
「助かるわ。じゃあお礼に今晩はご馳走させてちょうだい」
「ありがとうございます。マナミに連絡しとかないと…」
「マナミ?」
「マモル君の妹だよ」
「あらあら、それじゃあ妹さんも一緒にどうぞ」
「いいんですか?」
「もちろんよ。ちょうど主人も今日は帰らないし」
「本当にありがとうございます。このお返しは何らかの形で必ずしますので…」
「いいのよお礼なんて、それよりも真奈と仲良くしてやってちょうだい」
「了解です。…それじゃ、行ってきます」
マナの家を出たのはいいものの、さっきの会話で完全に置いてけぼりにされたマナは大層ご立腹でそっぽを向いたままだった。
「さっきはほったらかして悪かった。だからそう怒るなって」
「ふーんだ」
「それに考えてみろよ、上手く事を運べば俺はお前んちにお泊りすることになるんだぜ?」
「マモル君が…私の家に…お泊り……///」
マナの顔がみるみるうちに赤くなる。考えていることの内容はだいたい察しがつく。
「だから結果オーライだろ、な?」
「そ、そう、だね…///」
真っ赤になったマナをおちょくりながら、学校に向けて歩みを進めていった…。
マナ「お疲れ様でした、今回の更新分は以上です。次回更新をお待ちください。」
マナミ「お~~に~~い~~ちゃ~~ん!!!!!」
守「どうしたんだ?そんな怖い顔して」
マナミ「なんであんなパスワードかけたの!?恥ずかしいじゃない!!!」
守「すまんすまん。…でもアレなら第三者に予測されにくいだろ?」
マナミ「そうかもしれないけどぉ…」
マナ「それって固定なの?」
守「いや、毎日変わってるな。今は…『シロ』じゃないかな」
マナミ「!?!?」
マナ「もしかして、マナミちゃん…」
マナミ「うん…。当たってる」
マナ「マモル君…」
マナミ「お兄ちゃん…」
守「お、おい…お前ら?」
マナ&マナミ「ヘンタイ!!」
ガスッ――ドグワァァァァン(榴弾が炸裂する感じ)
守「ぐべっ!!」
マナミ&マナ「お兄ちゃん(マモル君)だからそれだけで済んだんだよ!他の人だったら確殺だよ!?」
守「ハハ…。そりゃどうも」