物憑
前回は『物憑・露店』としていましたが執筆上の都合、っつーか思ったより長くなったので別々にすることにしました。
―――事務所―――
コンコンとドアをノックすると、ドアの向こうから「入りたまえ」と一声。
「失礼します」と言って中に入ると、おやっさんがコーヒーを淹れて待っていた。
「時間通りだな。」
「当日の昼に突然呼び出された割には頑張った方ですよ。って、時間指定なんてしてないでしょ」
「そうだったか?まぁそこに座れ」
俺は言われた通り座り、「渡したい物とは?」と尋ねた。
「これだ」と言っておやっさんが差し出したのは一振りの日本刀。外観はごくごく普通の日本刀で有名武将のものだと思った。
「骨董市か何かで手に入れた掘り出し物ですか?」
この質問におやっさんは答えず、「手にとってみればわかる」という。
その通りにしてみると、この刀がどういうものなのかが瞬く間にわかった。
「・・・・・物憑、ですか」
「そのとおりだ。どうだ、なかなかいいだろう?」
確かに刀としては間違いなく業物の類に入るだろう。だがこの刀から俺やおやっさんとは違う第三者の波長を感じた、しかも俺はこの波長に親近感のようなものを抱いた。
「しかしこんなものどっから手にいれたんですか」
「このあたりの警察署の署長が私の友人でな。処分に困っていたその刀を私が貰い受けた訳だ」
「処分に困っていた?」とさらに尋ねる。
「なんでも持ち主には不幸が訪れるらしい」
「いやいや、そんな危なっかしい物いりませんって」と刀を返そうとすると、「話は最後まで聞くものだ」となだめられた。
「その刀は数年前にあった殺人事件に使われた凶器なのだ。その事件もある兄妹が両親の虐待に耐えかねて両親を殺害した、というものだ。」
「つまりこいつは、妹思いの兄の魂が宿った剣ってわけですか。もう俺に両親はいませんけどね」
「そういうわけだ。そう考えるとなかなか君にお似合いではないか」
「確かにそうですね。じゃあこれはありがたく頂きますよ」
「それに君もこの前の一軒で一躍有名人だ。持っておいて損はないだろう」
ここで疑問が生じた。「コレを学校に持って行けと言うのか?」
そこでおやっさんに聞いてみると「もちろんだとも」と。 俺は沈黙した。
「そのまま持ち歩けばワッパをかけられることくらい私もわかっている。この後綾君のところへ行くといい、手配は済ませてある」
どうやらもって行かないという選択肢は用意されていないらしい。
帰り際に「ここにはないんですね」と軽く嫌味を言うと
「ここは私にとっては休憩室みたいなものでな。コーヒーに関するものと葉巻以外に大したものはないのだよ」と軽く処理されてしまった。
――――神社――――
社務所の前に立って「守です」と言うと奥から「上がってちょうだい」と返ってきた。
上がると部屋に通され、中央の机越しに対峙するようにして座る。
「話は聞いてるわ。これよ」と言って渡されたのは竹刀を入れる袋だった。
「え?あの・・・これですか?」
「そうよ。ちゃんと入るでしょ?」
試しに入れてみたが確かにすっぽりと収まった。鍔の部分が多少気になるがこの程度は許容範囲内だ。
「確かに入ったんですけど・・・俺、剣道部じゃないんで目立ちますよ?」
「道着を着て『マーーーン!』って言ってればバレないわ」
「そんなのいやですよ」と即効で断る。
「冗談よ。あなた結構学校で奇抜なことしてるらしいじゃない?だから最初は目を惹くかもしれないけど数日もすれば馴染むわ」
「よく知ってますね。まるで俺を監視してるみたいですね」
「監視なんてしてないわよ。それよりもちゃんと使いこなせるの?」
「大丈夫ですよ。だって僕の苗字は『黒武者』ですよ?」
「そうだったわね」
「へぇ、君があの『黒武者』の姓を継ぐものだったんだ」
突然の割り込みに俺は「誰だ!?」と声を荒げ、刀を抜く。
「敵じゃないわ。私の相棒みたいなものよ」
「そういうこと、よろしくね」
そういってぺこりと頭を下げる。
それに対して「こちらこそ」と言い深々と頭を下げる。
「そんなに畏まらなくていいわ。それに君とは身も心も共有した仲じゃないの」
身も心も共有…?まさか、コイツは・・・!
「もしかして、昨日俺に憑依した・・・」
「えぇ。なかなか良かったわよ、あなたの体」
「誤解を招くような言い回しはやめてくださいよ。でもそうすると、貴女はやっぱり霊的な・・・」
「そうねぇ。でも霊というよりかは、鬼に近いわね」
「あの、霊と鬼って何が違うんですか?」
「特に違いはないわ」
拍子抜けする答えにずっこける。
「でもある程度は実体があるから、見える人なら触れられるわよ。さわってみる?」
そう言われたので肩や腕の辺りに手をやる。確かにさわれるし、掴むこともできた。
「なんならこっちの方も試してみる?」
やたらと胸を強調するがマナミよりもちょっと大きいくらいなのでそんなに効果はない。そもそもマナミでない時点で俺には効果がないのだが。
「遠慮しときます。にしても話を聞く限り、誰にでも見えるってわけじゃなさそうですね」
「仮初にも私は鬼よ?普通の人には見えないわよ」
「それに彼女とは言葉を発さずに会話ができるのよ」と綾さんが付け足す。
(こんな風にね)
(なるほど、こうやってあの時も語りかけてきたわけか)
「ところで、いつも一緒にいる女の子なんだけど・・・」
「マナミのことか、義妹だよ。」
「あぁ、妹さんね。彼女から目を離さないほうがいいわ。本人も君も気付いていないみたいだけど、彼女にはなにかあるわよ」
「ご忠告どうも。ただ人の家の事にまで土足で上がりこむのはいただけないね。これまでもお前が見てて綾さんに流してたんだろ?」
「そのことについては謝るわ。もう綾に報告もしない。でも君の傍にいるのはやめない」
「どうして?」
「だって見てておもしろいもの。それに暇なときには話し相手になってあげるわ」
「…まぁいいか。どうせ俺以外には見えないだろうし」
「さっすが、話がわかるじゃない!」
そうこうした後、竹刀袋を肩にかけ神社を後にする。
―――道中―――
「っらぁ!」
通りがかった河原で学生が喧嘩をしている場面に出くわした。見たところ他所の学校同士だし、俺は関係ないから足早にその場を去ろうとした。
その時――一人の顔が目に入った。
(アイツは・・・・ターシャル!?)
俺は足を止め、他校同士ではあったが割り込もうと思った。しかしサキちゃんの言葉が脳をよぎる。
『変に喧嘩吹っかけたりしてウチの学校も襲撃されるなんてことのないようにしてちょうだい』
俺はチッと舌打をして、その場を後にした。
――ガスッ!
相手は受身も取れずに背中から倒れ、起き上がってこない。
「へっ、逃げ回ってた割にはざまぁねえな。次はどこだ?」
「場所的には南高が近いッス」
「南高は最後だ。あそこには守さん、ハギさん、ケイさんがいるからな。」
「了解ッス。だったら次は東高ッスね、ちょっと遠いッスけど」
読んでいただきありがとうございました。
三人のことを知る彼の正体やいかに!?
次回、『露店』に続きます。
実家に帰るのでしばらくは更新できません。