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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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平和な村を管理する仕事をしていますが、どうやら外の人には理解されないようです

作者: だんご
掲載日:2026/03/27



 ここは、静かで穏やかな場所だ。


 朝になれば畑に陽が差し、子供たちの笑い声が風に乗って届く。大人たちは決まった時間に起き、決まった場所で働き、決まった時間に眠る。誰も争わない。誰も泣かない。誰もが満ち足りた顔をしている。


 私の仕事は、この日常を守ることだ。


-----


 毎朝、私は村を歩く。


 一軒ずつ、顔を見る。声をかける。顔色はどうか。眠れているか。食欲はあるか。小さな変化を見逃さないことが大切だ。咳をしている者がいれば、すぐに薬湯を届ける。顔が青い者がいれば、その日は休ませる。


 彼らは私を見ると、安心したように微笑む。


「おはようございます」


 私も微笑み返す。もっとも、この顔が彼らにどう見えているかは知らない。怖がられていないのだから、問題はないだろう。


-----


 今年は皆、よく育っている。


 春に生まれた子供たちも、もう自分の足でしっかり歩いている。肌の艶もいい。骨格もまっすぐだ。肉づきも申し分ない。年長の者たちも体調を崩すことなく、穏やかに日々を過ごしている。


 こういう年は、気分がいい。


-----


 食事は決まった時間に配る。


 朝は穀物と野菜の汁。昼は干した魚と芋。夜は煮込んだ豆と、季節の青菜。偏りが出ないように、すべて私が管理している。量も、組み合わせも、毎日少しずつ変えている。脂が多すぎてもいけない。痩せすぎてもいけない。何事も、偏らないのが肝心だ。


 ある女が言った。


「いつもありがとうございます。おかげで子供たちも元気で」


 私は頷いた。礼を言われるたびに思う。こういう素直さが、この村の良いところだ。


-----


 家族ごとに暮らしている。


 一つの家に、父と母と子供。それが基本の単位だ。安心できる環境が一番いい。孤立させると調子を崩すし、大きな集団にすると揉め事が起きる。このくらいがちょうどいい。


 組み合わせは私が決める。相性だけではない。体の大きさ、性質、丈夫さ。なるべく良い子が生まれるように。代を重ねるごとに、この村は少しずつ良くなっている。


-----


 子供たちには、簡単な読み書きを教えている。


 数の数え方。季節の名前。花の種類。それだけで十分だ。あまり多くのことを教えすぎないようにしている。外のことは、とくに。


 以前、文字を覚えるのが早い子がいた。何でも知りたがった。空の向こうには何があるのか。山の先には何があるのか。私たちは何者なのか。


 私はそっと話題を変えた。知る必要のないことは、知らないほうがいい。それは優しさだと、私は思っている。


-----


「外には出てはいけないよ」


 村人たちにはそう伝えてある。外は荒れている。獣がいる。病がある。ここにいれば安全だ。


 彼らはそれを信じている。疑う者はいない。生まれてからずっとここにいるのだから、比べるものがない。比べるものがなければ、疑いは生まれない。


 これが一番、穏やかな方法だ。


-----


 ただ、たまに例外はある。


 今年も一人、若い男が言い出した。


「山の向こうを見てみたい」


 周囲の者たちは困った顔をした。私も少し驚いた。珍しいことだが、ないわけではない。


-----


 その若者には、しばらく別の場所で休んでもらうことにした。


 静かな小屋。陽当たりがよく、風通しもいい。食事も変わらず届ける。


「少し疲れているだけだろう」


 私はそう言った。周囲もすぐに納得した。数日もすれば、大抵は落ち着く。落ち着かなかった場合は――予定を早めるだけだ。どちらにしても、大した違いはない。


-----


 皆が同じように暮らすこと。


 それがこの村の良さだ。同じ時間に起き、同じものを食べ、同じ景色を見て、同じように眠る。逸脱があれば、やんわりと戻す。叱るのではない。導くのだ。


 ある老人が言った。


「ここは本当にいい村ですね」


 私は黙って頷いた。長く生きすぎた者は硬くなる。だが、こういう穏やかな気性のものは最後まで世話のしがいがある。


-----


 秋が来ると、少し忙しくなる。


 やることが増える。帳面を広げ、一人ひとりの記録を見直す。体の大きさ。重さ。健康の状態。年齢。家族の構成。それらをすべて突き合わせて、今年の計画を立てる。


 毎年のことだ。慣れている。上の者たちへ届ける数も決まっている。


-----


 やがて、私は何人かに声をかける。


 体調の良い者から順に。


「少し話がある」


 彼らは不安そうな顔はしない。私が声をかけるのはいつものことだし、これまでだって何か悪いことが起きたことはないのだから。


「はい、なんでしょう」


 素直に応じる。いつも通りだ。


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 選ばれた者たちは、村の外へ連れていかれる。


「もっと広い場所があるんだ。そこで暮らしてもらう」


 私はそう説明する。彼らは少し緊張した様子だが、やがて表情を緩める。


 その中の一人の女が、出発の朝、私の前で深く頭を下げた。


「ここで暮らせて、幸せでした」


 目が少し赤かった。嬉しいのか、寂しいのか。たぶん、両方だろう。


 私は何も言わず、ただ頷いた。言葉を返す必要はない。明日にはもう、この声を思い出すこともないだろう。


-----


 残された者たちは、少しだけ静かになる。


 いつも一緒にいた誰かがいない。その隙間に、ほんの少しだけ寂しさが滲む。けれど、数日もすれば元に戻る。新しい日常が始まる。子供が生まれ、季節が変わり、畑に芽が出る。


「行った人たちも元気にしてるかな」


 誰かがそう言う。


「きっと元気だよ」


 別の誰かが答える。


 私はそれを遠くから聞いている。


 ここは、そういう仕組みだ。


-----


 夕暮れ。


 丘の上から村を見下ろす。炊事の煙がいくつも立ち上っている。子供の声。犬の声。誰かが歌っている。


 良い村だ、と思う。


 無理をさせない。余計なことを教えない。不安を与えない。穏やかに、満ち足りた気持ちで日々を過ごさせる。


 ――それが一番、味を落とさない。


 幸福に育ったものは、やわらかい。恐怖を知ったものは、臭みが出る。これは何百年もこの仕事を続けてきた私たちが辿りついた、ひとつの結論だ。


 私は帳面を閉じ、静かに丘を降りた。


 麓では、今夜の宴の支度が始まっている。


 上の者たちは、秋をいつも楽しみにしている。

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