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第2階 廃棄物処理場

「お客様、お遊戯中の台を叩くのはご遠慮ください。」

「うるせーな!遠隔してるてめーらが悪いんだろうが!!」

 これが一昨日の出来事。結局あの店は出禁になった。

 クソが。


 ピンポーン


 布団で寝てると、チャイムが鳴った。

「相良さーん、いるんでしょ?わかってるんですよ。」

 金融の奴らだ。

 こいつらもクソ。たかが20万ぽっちで目くじら立ててさ。

「相良さーん、優しく呼んでるうちに出てくる方がいいですよ。お互いのために。」

「は?」

 違う、金融の奴らがこんな脅し文句使うわけない。

 誰だ?どこの会社の奴らだ?

「うちからお金借りて、踏み倒しって訳にはいかないですよー?ねえ。お母さま、まだあのアパートで独り暮らししてらっしゃるんでしょ?腰、お大事にって伝えといてくださいよ。」

 ヒュッ、と喉が鳴った。実家のことまで調べられている。

 ドアを強くたたく音。ついで、金属音。

 なんだこれ?郵便受けに手がツッコまれてるのが見えた。

「ねえ、相良さん、隣の部屋の人にも聞こえてますよ?恥ずかしいですよねぇ…あ、今物音しましたね。いるんですねー?」

 あ、ヤバい。こいつらはヤバい。

 そうだった。借りたんだった。

 いわゆる、闇金。

 でも、あの日は絶対に勝てるつもりだったんだ。

 それをあの店が遠隔しやがったから。クソっ。

 とにかく、こんなところで俺は死にたくない。逃げなきゃ。

 タバコ臭い部屋からベランダに出て、下を見る。二階。ギリ行けるか?

 サンダルを足につっかけて、手すりを掴む。

 大きく一度深呼吸をしてから、手すりを飛び越えた。

 両足で着地する。

 頭のてっぺんまで、電流が走るような感覚がして、小さくうめき声が漏れた。

 とにかく、どっかに逃げねえと。

 アイツらにつかまるのは、マジでヤバい。センパイもあいつらから金借りた後いなくなったんだった。

「ちっ、あの店、あいつらが遠隔してなけりゃ借金全部チャラだったんだ。クソっクソっ!」

 どこかに走る。

 どこでもいい。あいつらから逃げられるなら、どこでもいい。

 そうだ、実家。あそこに行こう。あそこにいけばお袋もいるし、親父の遺産だってまだ残ってるはずだ。

 そもそも俺がこんなになっちまったのだってあいつらのせいなんだ。俺の両親がもっと金持ちだったら、こんな思いしなくてすんでるのに。

 だから金返すのだって、あいつらに責任の一端くらいある。

 それで、借金もチャラにして、それで、それで…

 10分くらい走った。

 途中でゲロ吐きそうだったけど、なんとかこらえて、走った。

 たばこ屋を曲がると、古びたマンションが見えてくる。あそこの五階だ。

 廊下の人を押しのけ、エレベーターに乗る。いつ見てもぼろっちいエレベーターだ。

 汗を脱ぐって、5階を押す。

「はぁ、はぁ、くそっ!」

 怒りに任せて壁を叩く。

「なんで俺だけがこんな目にあわなきゃいけねぇんだ!」

 エレベーターが動き出すのを感じる。

 1……2……

 表示をイライラしながら見る。遅い。いつもより遅く感じる。

 3…0…49…

 変なノイズが走った後、おかしな数字が見えた。

「は?」

 故障?こんな時に?

 12…70…108…

 クソっ、クソクソクソ!

 ちゃんと整備しとけよ、クソが!!

 俺の人生いつもこうだ。いつも誰かが俺の邪魔をする。

 ガクン、と大きな衝撃が体に伝わったその時、


 ポーン


「あ?」

 到着を知らせるチャイム。なんだよ、動いてんのかよ。ビビらせやがって。

 ドアが開いた瞬間、あまりの悪臭に思わず顔をそむける。焦げたゴムみたいな匂いが充満していた。

「なんだよこれっ!」

 ドアから顔をのぞかせ、驚愕する。

 薄暗い空間には、視界を埋め尽くすほど巨大なプレス機があった。黒煙を吹き出しながら、轟音を立ててゆっくりと上下している。

「チッ、どこだよここ…」

 鼻を抑えながら外に出る。

 足元にはゴミが一面に広がっていた。

「相良様。ここは、ⅰ階です。」

 振り返ると、ガキが二人とババアが乗ってる。

「なんだてめぇ!どこでもいいからよ、さっさと5階に連れてけ!」

 ガキに近付こうとしたその時、


 ブ――――ッ!!


 ブザーが鳴る。

「なんだこれ!」

 制服を着たガキの胸倉を掴む。

「重量オーバーです、相良様。手荷物をお捨てになってからご乗車ください。」

「なにいってんだ、てめぇ。」

 サンダルをエレベーターから投げ捨てる。

「ほらよ。これで満足か?」

 ブザーは止まらない。

「クソっ、なんなんだよ、この音!頭おかしくなりそうだ!」

「物理的なものじゃねえよ、オッサン。」

「あ?」

 もう一人のガキに声をかけられる。

「これに乗って向こうに戻りたきゃ、何か捨ててからだ。」

「お前、誰に向かって口きいてんだぁ?」

 制服のガキを放って、こいつの方に向き直る。

「いいから降りろよ。うるさくて仕方ない。」

「てめぇ!」

 胸倉を掴んで引き寄せる

「離してくれ。」

 手首を掴んでくるが、ガキの非力な力じゃ…ガキの…

「チッ」

 胸糞悪いが、ひとまずエレベーターから降りて、ゴミ山の前に歩いていく。

 なんだよ、捨てろ捨てろって。荷物なんて一つもねぇって…

 冷静になって初めて気が付いた。

 このゴミ、いつのもんだ?

 紙くずや、布切れの合間に明らかにおかしいものがいくつかある。

 クレジットカードに…これは、スマホ?でも、こっちには草履に…キセル。

 教科書でしか見たこともないような軍帽もある。

「なんなんだ…ここ…あ?これ…」

 腕時計だった。しかも、俺でもわかる、高級ブランドの物。売れば、ウン百万はくだらないだろう。

「はっ、ははっ!そうか!借金を捨てちまえってことか!他には?もっと!お宝!!」


「カイ、時間の無駄だ。出してくれ。」

 湊がカイに話しかける。

「湊様、よろしいのですか。」

「ああ。お前もわかるだろ。あいつはもう人じゃねえよ。」

 視線の先では、相良がゴミの山に手を突っ込み、金品を懐に入れている。

「あれは…荷物そのものだ。あんなの、住人と掃除屋にくれてやればいい。」

 湊は老婆に視線を落とす。

「トメさん、閉めてくれ。」


 こんだけあれば十分だ。借金をみんな帰して、やり直せる。

 俺の失敗を、全部リセットできる!


 ビ――――――ッ!

 ビ――――――ッ!

 ビ――――――ッ!

 ビ――――――ッ!


 突然、アラームが鳴りだす。

 と同時に、視界が赤い光で一杯になる。

「なんだ、これっ!!」

 なんかヤバい。早くエレベーターに戻らないと。

「っ!?熱っ!」

 急にポケットに突っ込んだ時計が溶けた鉄のような熱を帯びる。

 慌てて捨てようとするが、謎の黒い粘液が絡みついて捨てられない。

 そして気が付く。いやに静かだ。おかしい。さっきまでプレス機の音がうるさいくらい鳴っていたはずなのに。

 振り向くと、さっきまで稼働していたはずのプレス機が、天井を突き破らんばかりにせり上がっている。

 その奥の暗闇から、ギチ、ギチ、と硬いものを嚙み砕くような音が漏れだした。

「あ…あぁ…」

 現れたのは、蜘蛛だった。鉄製の、巨大な蜘蛛。口がある場所には、うなりを上げる回転刃がついているのが見えた。

 その八つの目が、無機質な光が俺を真っ直ぐに見つめている。

「ひ…た、たすけっ!」

 エレベーターに向かって駆け出す。

「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 制服のガキの声が聞こえる。

「待て!待ってくれ!助けてくれ!!」


 相良が必死に伸ばした指先は、エレベーターの扉に届くことはなかった。

 扉が完全に閉じる直前、相良の絶叫をかき消すように肉と骨を砕く音が響いた。

「今頃、相良様は掃除屋のお世話になっていらっしゃるでしょうね。」

 動き出したエレベーターの中でカイが冷たい声を発する。

 鉄製の蜘蛛が去った後、そこには不思議と傷一つない相良が横たわっていた。

 少しすると何処からともなく、灰色の作業服を着た掃除屋たちが現れる。その手には、鉈と銀のバケツが握られていた。

 彼等は、鉈で相良を細かく切っていく。なぜか血は出ていない。

 そして、細かくなったそれをバケツに入れる。

 最後の一片をバケツに放ると、掃除屋たちは床に消えていった。

「住人は中身しか食べない…だから、物理的な死体は専門の回収屋がいるんだったか。死体なんて、何に使うんだか。」

 湊が手帳を見ながらつぶやく。

「あれらは、当ビルのエネルギーに変換されます。」

 カイは無機質な声のまま微笑む。

「貴重な、資源ですから。」

「はぁ…次の階に行ってくれ。」

 エレベーターは再び、重苦しい振動とともに動き出す。

 向かっているのが上なのか、下なのか、誰も知らない。

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