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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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7話 日常の観察と、迫る牙

 村での三日目。

 朝から俺は、村人たちの手伝いをしていた。

 今日の仕事は薪割りだ。


「タクミ、その斧じゃ重いだろう。もっと小さいのを使えよ」


 村人の一人、トムが心配そうに声をかけてくる。

 確かに、俺が持たされた斧は大振りで重い。普通の体力では扱いづらいだろう。

 だが――。


「いや、これで大丈夫だ」


 俺は斧を振りかぶる。


「《物理補助》……回転軸の慣性モーメント、最適化。打撃点の運動エネルギー、集中」


 斧そのものを軽くするのではない。

 振り下ろす際の回転運動を効率化し、刃先に運動エネルギーを集中させる。

 ガンッ!

 一撃で、太い丸太が真っ二つに割れた。


「おお!? すげえな、タクミ! 記憶喪失でも体は覚えてるってやつか?」


 トムが感心したように笑う。

 俺は曖昧に笑って誤魔化した。

 薪割りを終えた後は、井戸水を汲む作業だ。

 村の井戸は深く、重い桶を引き上げるのは重労働だ。

 だが、ここでも《物理補助》が活きる。


「《物理補助》……滑車の摩擦抵抗、最小化。ロープの張力分散、均等化」


 井戸の滑車機構に微細な補正をかける。

 摩擦を減らし、力の伝達効率を上げることで、少ない力で桶を引き上げられる。

 スルスルと、まるで桶が浮いているかのように軽々と水が汲み上がる。


「タクミ、お前、本当に記憶喪失か? やけに仕事が手慣れてるぞ」


 別の村人が不思議そうに首を傾げる。


「体が勝手に動くんだ。不思議なもんだな」


 またしても誤魔化す。

 だが、俺は内心で確信を深めていた。

 《物理補助》は、日常生活のあらゆる場面で応用できる。

 そして、この世界の人々は――魔法に頼りすぎて、物理的な効率化を軽視している。

 昼食後、俺は村長の家に呼ばれた。


「タクミ、よく働いてくれている。村人たちの評判も良い」


 村長が穏やかに微笑む。


「それで、一つ頼みがあるのだが……今夜、見張りを手伝ってくれないか?」

「見張り?」

「ああ。最近、夜になると魔物が村の近くをうろついているらしい。ガルドたちも警戒しているが、人手が足りなくてな」


 村長の表情が曇る。


「昨日も、東の柵の近くで足跡が見つかった。それも、かなり大きなやつだ」

「……分かった。手伝う」


 俺は短く答えた。

 魔物との遭遇は避けたいが、村に世話になっている以上、断る理由もない。

 それに――この世界の「魔物」を直接観察できる機会でもある。

 夜。

 俺は東の柵の近くに立ち、松明を手に周囲を警戒していた。

 一緒に見張りをしているのは、冒険者のジンだ。


「タクミ、お前、戦ったことはあるか?」

 ジンが静かに尋ねる。

「……まともにはない」

「そうか。もし魔物が来たら、無理はするな。俺が矢で牽制する。お前は村に知らせてくれればいい」


 ジンは冷静で、無駄な動きがない。弓使いとして相当な腕前なのだろう。

 しばらく沈黙が続いた後――。


「……来るぞ」


 ジンが弓を構える。

 森の奥から、何かが近づいてくる気配がする。

 枝を踏む音。低い唸り声。

 そして――月明かりの下に、その姿が現れた。


「……狼、か?」


 いや、違う。

 体長は二メートルを超え、牙は刃物のように鋭い。目は赤く光り、明らかに普通の動物ではない。


「ダイアウルフだ……クソッ、なんでこんな奴が村の近くに!」


 ジンが素早く矢を放つ。

 矢はダイアウルフの肩に命中するが、浅い。

 ダイアウルフは怯まず、俺たちに向かって跳躍した。


「タクミ、逃げろ!」


 ジンが叫ぶ。

 だが、俺は動かなかった。

 逃げれば、村が危険に晒される。

 そして――俺には、試してみたいことがある。


「《物理補助》……地面の摩擦係数、局所的に低下」


 ダイアウルフが着地する地点の土を、一瞬だけ「滑りやすく」する。

 ズルッ!

 ダイアウルフが着地に失敗し、バランスを崩す。

 その隙に、ジンが追撃の矢を放つ。

 今度は目に命中し、ダイアウルフが悲鳴を上げる。

 だが――まだ倒れない。


「もう一匹来るぞ!」


 ジンの声に振り向くと、森からもう一匹のダイアウルフが飛び出してきた。


「……まずいな」


 俺は松明を地面に突き立て、腰のナイフを抜く。

 戦闘経験はほとんどない。だが、《物理補助》がある。

 この世界の物理法則を、俺は少しずつ理解し始めている。


「ジン、俺が引きつける。お前は確実に仕留めてくれ」

「バカ言うな! お前じゃ無理だ!」

「いや――やれる」


 俺は深く息を吸い、二匹目のダイアウルフに向かって走り出した。

 村の柵の向こうから、ガルドとリーナが駆けつけてくる気配がする。

 だが、それまで持ちこたえなければならない。

 俺の初めての、本格的な戦闘が――今、始まる。

お読みいただきありがとうございます。

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