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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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32話 狼煙と、街を守る者たち

魔狼の群れが、城壁に迫る。

その数――百匹以上。

月明かりの中、無数の赤い瞳が蠢いている。

まるで、闇そのものが生きているかのように。


「全員、配置につけ!」


城壁の上で、衛兵の隊長が叫ぶ。

弓を持った衛兵たちが、城壁に並ぶ。

だが、その手は震えている。

顔には、明らかな恐怖の色がある。


「落ち着け! 俺たちがいる!」


ガルドが、大声で叫ぶ。

その声が、衛兵たちを少し落ち着かせる。

俺たちは、城壁の上に立つ。

俺、ガルド、リーナ、ジン、そしてグレン。

五人が、横に並ぶ。


「作戦は?」


ジンが尋ねる。


「城壁を守る。それだけだ」


グレンが答える。


「魔狼は壁を登れない。だが、数が多い。長期戦になる」

「魔力の消耗に気をつけろ」


リーナが言う。


「一気に全部使うな。小出しにして、持久戦に持ち込む」

「了解」


俺は頷く。

そして――群れが、動いた。

最初の数十匹が、一斉に城壁に向かって突進してくる。

地面を蹴る音。

草を踏みしめる音。

それが重なり、まるで太鼓の連打のように響く。


「来るぞ!」


ガルドが叫ぶ。


「放て!」


衛兵隊長の号令。

矢の雨が、魔狼に降り注ぐ。

シュッ、シュッ、シュッ!

何匹かが倒れる。

だが、群れは止まらない。

城壁に到達し、爪を立てて登ろうとする。


「《フレアボルト》!」


リーナが魔法を放つ。

炎の矢が、魔狼の一匹に命中する。

魔狼が燃え上がり、悲鳴を上げる。


「《エアカッター》!」


次は風の刃。

空気を切り裂きながら、魔狼の群れに飛ぶ。

数匹が斬られ、倒れる。

ジンが、弓を引く。

矢が、魔狼の目を射抜く。

一撃必殺。

ガルドが、城壁を登ろうとする魔狼に剣を振り下ろす。

ズバッ!

魔狼が落下する。


「いいぞ、その調子だ!」


衛兵たちが、勇気を取り戻し始める。

矢を放つ手が、安定してくる。

だが――。


「第二波が来る!」


グレンが叫ぶ。

さらに多くの魔狼が、後方から迫ってくる。

その数、最初の倍以上。


「くっ……多すぎる」


リーナが呟く。

魔力の消耗が、早い。


「俺が前に出る」


グレンが城壁から飛び降りようとする。


「待て!」


俺がグレンを止める。


「一人で突っ込むな。城壁を守るのが優先だ」

「だが、このままでは――」

「任せろ」


俺は銃を構える。

そして――第二波の魔狼の足元を狙う。

パン、パン、パン!


「《物理補助》……地面の摩擦係数、最小化」


魔狼たちの足元が、一斉に滑り始める。

ズザザッ!

群れの勢いが、鈍る。


「今だ、集中砲火!」


衛兵隊長が叫ぶ。

矢の雨が、再び降り注ぐ。

転倒した魔狼たちが、次々と倒れていく。


「やった!」


衛兵の一人が叫ぶ。

だが――。


「油断するな、まだ来るぞ」


グレンが、遠くを見る。

その目が、細くなる。


「……あれは」


俺も、グレンの視線の先を見る。

群れの後方に――一匹だけ、異様に大きな魔狼がいた。

体長は、通常の魔狼の倍以上。

三メートルを超える巨体。

毛皮は、深い黒色。

目は、他の魔狼よりも鋭く、知性を感じさせる。


「群れのリーダーか……」


ガルドが呟く。


「アオォォォォン!」


その咆哮が、夜空に響き渡る。

すると――群れの動きが、変わった。

統率が取れ始める。

左右に分かれ、城壁を挟み撃ちにしようとする。


「戦術を使ってきた!」


リーナが驚く。


「リーダーの指示だ。あれを倒さなければ、群れは止まらない」


グレンが言う。


「なら――」


俺は、黒い魔狼を見据える。


「あれを狙う」


俺は城壁から飛び降りる。


「タクミ!」


リーナが叫ぶ。

だが、止まらない。

地面に着地し、転がって衝撃を吸収する。


「《動力保存》……」


俺はナイフを握る。

準備は、できている。

黒い魔狼が、俺に気づく。

その目が、俺を捉える。

まるで、獲物を見つけた捕食者のように。

魔狼が、ゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

他の魔狼たちが、道を開ける。

リーダーと、俺の一騎打ち。


「来い」


俺は、ナイフを構える。

黒い魔狼が、突進してくる。

その速さ――尋常ではない。

まるで、黒い稲妻のように。

俺は横に跳ぶ。

魔狼の爪が、俺の頬をかすめる。


「一回分」


俺は、衝撃をナイフに溜める。

魔狼が振り返り、牙を剥く。

次は、噛みつき。

俺は身を屈める。

牙が、俺の頭上を通過する。


「二回分」


再び、衝撃を溜める。

魔狼が、尻尾を振る。

太い尻尾が、鞭のように俺を打つ。


ドスッ!


「ぐっ……!」


吹き飛ばされる。

地面を転がる。


「三回分……四回分……」


立ち上がる。

口の中に、血の味がする。

魔狼が、再び迫る。

今度は、爪の連撃。

俺はナイフで受け止める。

ガキン、ガキン、ガキン!


「五回分……六回分……七回分……」


腕が痺れる。

だが、止まらない。

溜め続ける。


「八回分……九回分……十回分……」


魔狼が、大きく口を開ける。

炎を吐く準備だ。


「まずい!」


俺は地面を蹴る。


「《物理補助》……地面の反発係数、増加」


地面が跳ね返し、俺の体が浮く。

魔狼の炎が、俺がいた場所を焼く。

ゴォォォ!

熱風が、俺の背中を焦がす。

空中で、俺は体勢を立て直す。

そして――魔狼の背中に降り立つ。


「十一回分……十二回分……」


魔狼が、激しく身を揺する。

俺は、魔狼の毛皮に爪を立てて踏ん張る。


「十三回分……十四回分……十五回分……」


もう十分だ。

俺は、ナイフを魔狼の首筋に当てる。


「《物理補助》――」


三つの効果を、同時に発動させる。


「振動数増加、硬度上昇。そして――《動力保存》、全解放ッ!」


ナイフが、白熱する。

十五回分の運動エネルギーが、一点に収束する。

ギリギリギリギリ――!

ナイフが、魔狼の首筋に食い込む。

深く。

深く。

そして――。

ズブッ!

魔狼の動きが、止まる。

巨体が、ゆっくりと倒れる。

ドサァッ!

地面が揺れる。


「……やった」


俺は、荒い息をつく。

リーダーが倒れたのを見て、他の魔狼たちが動揺する。

統率が失われ、群れが散り始める。


「追撃だ!」


衛兵隊長が叫ぶ。

矢の雨が、逃げる魔狼たちに降り注ぐ。

ガルドとジンが、城壁から飛び降りて追撃する。

リーナが、魔法で逃げ道を塞ぐ。

数分後――。

魔狼の群れは、完全に撤退した。

草原に残されたのは、無数の魔狼の死体だけ。

静寂が、戻ってくる。


「……勝った、のか?」


衛兵の一人が、呆然と呟く。


「ああ」


グレンが頷く。


「勝った」


歓声が上がる。

衛兵たちが、互いに抱き合う。

涙を流す者もいる。


「よくやった、みんな」


ガルドが、衛兵たちの肩を叩く。

俺は、黒い魔狼の死体を見つめる。

その体は、まだ温かい。


「……ドゥームフォレスの配下」


グレンが、隣に立つ。


「ああ。奴の命令で、ここに来た」

「俺の裏切りが、完全にバレたな」

「そうだな」


グレンが、遠くの森を見る。


「次は、もっと強い奴が来る」

「どれくらいで?」

「分からない。だが――」


グレンが俺を見る。


「準備期間は、もうない」

「……そうか」


俺は頷く。

二週間の猶予は、消えた。

もう、待てない。


「明後日、出発する」


グレンが言う。


「準備はできているか?」

「……できている」


俺は答える。

嘘だ。

まだ、完璧ではない。

だが――やるしかない。


「なら、決まりだ」


グレンが踵を返す。


「休め。明後日までに、体を整えろ」

「ああ」


俺も、城壁へと戻る。

リーナが、俺を心配そうに見ている。


「大丈夫?」

「ああ、問題ない」


俺は笑う。

だが、その笑顔は――どこか、硬かった。



◆◆◆



翌日。

街は、復旧作業に追われていた。

城壁の修理。

負傷者の治療。

死者の弔い。

幸い、死者は少なかった。

衛兵の数人が重傷を負っただけで、民間人の犠牲はゼロ。


「よく守れたな」


ガルドが、城壁を見上げながら言う。


「ああ」


俺も頷く。

だが、心は晴れない。

これは、序章に過ぎない。

本当の戦いは、これからだ。



◆◆◆



出発前夜。

俺は一人、部屋で荷物をまとめていた。

銃、ナイフ、回復薬、水筒、乾パン。

必要最低限のものだけ。

ゼリーが、俺の肩に乗る。


「ゼリー、お前も来るか」


ゼリーが、ぷるぷると震える。

当然、という意思表示だ。


「……ありがとう」


俺は、ゼリーを撫でる。

その時、扉がノックされる。


「入ってくれ」


扉が開き、ガルド、リーナ、ジンが入ってくる。

三人とも、既に装備を整えている。


「準備はいいか?」


ガルドが尋ねる。


「ああ」

「じゃあ、最後に一つだけ」


ガルドが、四つのグラスを取り出す。

リーナが、水を注ぐ。


「乾杯しようぜ」


ガルドがグラスを持ち上げる。


「何に?」


ジンが尋ねる。


「俺たちの、無事を」


ガルドが笑う。


「明日から、命がけの戦いだ。だから今夜は、生きてることを祝おう」

「……らしくないな」


ジンが苦笑する。


「だろ? 俺も驚いてる」


四人のグラスが、カチンと鳴る。

水を飲む。

冷たく、清らかな味がする。


「さあ、寝ろ」


ガルドが言う。


「明日は、早い」

「ああ」


三人が部屋を出る。

俺は、ベッドに横になる。

明日――ドゥームフォレスの森へ。

そして、あの魔王と対峙する。

勝てるか。

分からない。

だが――。


「やるしかない」


俺は目を閉じる。

眠りに落ちる。

最後の、平和な夜。

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