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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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25話 謎の騎士と、初の敗北

グレンが去った後、俺たちは街への帰路についた。

森を抜け、平原に出る。

太陽が西に傾き始めている。


「それにしても……魔狼達がグレンの使い魔だったとはな」


ガルドが呟く。


「俺も初耳だ。ギルドマスターが使い魔を操るなんて」


ジンも驚きを隠せない様子だ。


「でも、おかしくない?」


リーナが口を開く。


「グレンがわざわざ試練を用意するなんて。しかも、あんなに真剣な目で……」


確かに。

グレンの目には、何か切実なものがあった。

単なる試練以上の、何か。


「まあ、考えても分からん。街に戻ったら、グレンに直接聞こう」


ガルドが肩をすくめる。

俺たちは平原を歩き続ける。


だが――。


「……待て」


ジンが突然立ち止まる。


「どうした?」

「前方、何かいる」


ジンが弓を構える。

俺も銃を抜き、前方を見る。

平原の先――そこに、一つの影が立っている。

人間、だろうか。

いや――人間より大きい。

そして、全身を銀色の鎧で覆っている。


「……何者だ?」


ガルドが剣を抜く。

影が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

その足取りは、まるで散歩でもしているかのように余裕がある。

距離が縮まる。

そして――その姿が、はっきりと見えた。

身長は二メートル以上。

全身を覆う、銀色の重厚な鎧。

兜は顔全体を覆い、目の部分だけが赤く光っている。

背中には大剣。

腰には短剣。

そして――胸部の鎧には、何か紋章のようなものが刻まれている。

だが、遠くてよく見えない。


「おい、そこの奴!」


ガルドが叫ぶ。


「何者だ! 何の用だ!」


騎士は答えない。

ただ、無言で歩み続ける。

そして――距離が五十メートルほどになった時。

騎士が、背中の大剣を抜いた。

ギィン……。

金属が擦れる音が、平原に響く。


「敵か!」


ガルドが構える。

騎士が、突如加速する。

その速度――尋常ではない。

まるで、風のように。


「速い!」


リーナが魔法を放つ。


「《フレアボルト》!」


炎の矢が騎士に向かって飛ぶ。

だが――騎士は剣で炎を切り裂く。

ズバッ!

炎が散り、騎士の勢いは止まらない。


「くそっ!」


ガルドが前に出る。

騎士の大剣が、ガルドの剣と激突する。

ガキィィン!

火花が散る。

だが――ガルドが押される。


「ぐっ……!」


ガルドが後退する。

その力――オーガ以上だ。


「《エアカッター》!」


リーナが風の刃を放つ。

騎士が横に跳ぶ。

風の刃が地面を切り裂く。

ジンが矢を放つ。

騎士が剣で弾く。

カン、カン、カン!

矢が次々と弾かれる。


「何なんだ、こいつ……!」


ジンが歯噛みする。

俺は銃を構え、騎士の足元を狙う。

パン、パン!


「《物理補助》……地面の摩擦係数、最小化」


騎士の足元が滑りやすくなる。

だが――騎士は、まるで気にしていないかのように、滑る地面の上を走る。

バランスを崩すこともない。


「嘘だろ……」


俺が呟く。

騎士が、俺に向かってくる。

その速度、さらに増す。

俺は横に飛ぶ。

騎士の大剣が、俺がいた場所の地面を叩き割る。

ドガァン!

地面が陥没する。

その一撃――直撃したら、間違いなく死ぬ。


「タクミ!」


リーナが叫ぶ。

騎士が、再び剣を振るう。

俺はナイフで受け止める。


「《物理補助》……ナイフの硬度、最大化」


ガキィン!

ナイフが、騎士の大剣を受け止める。

だが――衝撃が、俺の腕を痺れさせる。


「ぐっ……!」


騎士が、もう一度剣を振るう。

俺は地面に転がって回避する。

大剣が、空を切る。


「《ゲイルプレッシャー》!」


リーナが圧縮空気を放つ。

騎士の体が、わずかに押される。

その隙に、俺は距離を取る。


「こいつ……強すぎる」


ガルドが、荒い息をつく。


「今まで戦った中で、一番強いぞ」


ジンも同意する。

騎士が、再び構える。

今度は――俺たち四人を、同時に相手にする気だ。


「全員で行くぞ!」


ガルドが叫ぶ。

俺たちは、一斉に騎士に向かって攻撃を仕掛ける。

ガルドが剣を振るい、ジンが矢を放ち、リーナが魔法を放つ。

そして、俺は銃で援護する。


だが――。

騎士は、全ての攻撃を捌く。

剣で弾き、体を捻って避け、時には鎧で受け止める。

そして――反撃。

騎士の大剣が、ガルドの剣を弾き飛ばす。


「くっ!」


ガルドが武器を失う。

次に、騎士がジンに向かう。

ジンが慌てて後退するが――。

騎士の拳が、ジンの腹部に叩き込まれる。

ドスッ!


「がはっ……!」


ジンが倒れる。


「ジン!」


リーナが叫ぶ。

騎士が、リーナに向かう。

リーナが魔法を放とうとするが――。

騎士の方が速い。

大剣の腹で、リーナを薙ぎ払う。

ドガッ!

リーナが吹き飛び、地面に転がる。


「リーナ!」


俺が叫ぶ。

残ったのは、俺だけ。

騎士が、ゆっくりと俺に向かってくる。

その歩みは、まるで勝利を確信しているかのように。


「くそっ……」


俺は銃を構える。

だが――弾丸は効かない。

ナイフも、相手の鎧を貫けない。

《物理補助》も、この騎士には通用しない。


「どうする……」


俺の頭が、高速で回転する。

何か、方法があるはずだ。

この騎士を倒す、何かが――。


その時。

騎士が、大剣を振り上げる。

最後の一撃を、放とうとしている。

俺は――。


「《物理補助》――」


最後の賭けに出る。


「地面の摩擦係数、最小化。反発係数、増加。そして――騎士の鎧の表面、摩擦係数、最小化」


三重掛け。

頭が割れるような痛み。

視界が歪む。

だが――効果は発動した。

騎士の足が滑り、バランスを崩す。

そして、鎧の表面が滑りやすくなり、騎士が自分の体を支えられなくなる。


「今だ!」


俺はナイフを投げる。


「《物理補助》……ナイフの速度、増加」


ナイフが、音速に近い速度で騎士に向かって飛ぶ。

騎士の兜を狙う。

だが――。

騎士が、バランスを崩しながらも、剣でナイフを弾く。

カン!

ナイフが弾かれ、地面に落ちる。


「嘘だろ……」


俺が呆然とする。

バランスを崩しながらも、攻撃を防ぐ。

この騎士――本当に、化け物だ。

騎士が、体勢を立て直す。

そして――再び、俺に向かってくる。

俺はもう、MPがほとんど残っていない。

頭痛で、まともに立っていられない。


「……終わりか」


俺が諦めかけた時。


「《クリムゾン・バースト》!」


リーナの声が響く。

広範囲に炎が爆発する。

騎士が炎に包まれる。


「タクミ、逃げて!」


リーナが叫ぶ。

俺は、ふらつきながらも立ち上がり、リーナの元へと走る。

ガルドとジンも、何とか立ち上がっている。


「逃げるぞ!」


ガルドが叫ぶ。

俺たちは、全速力で走る。

炎の中から、騎士の影が見える。

だが――騎士は、追ってこない。

ただ、じっと俺たちを見ている。

まるで――。


「もういい」


と言わんばかりに。


-----


俺たちは、何とか街に辿り着いた。


全員、傷だらけだ。

ガルドの腕は折れている。

ジンは肋骨を何本か折っている。

リーナは、魔力を使い果たして倒れそうだ。

俺も、頭痛と疲労で意識が朦朧としている。


「治療院……に……」


ガルドが呟く。


俺たちは、フラフラと治療院へと向かう。

受付の女性が、俺たちを見て驚く。


「何があったんですか!?」

「敵に……襲われた……」


ガルドが答える。


「すぐに治療します!」


女性が、奥の部屋へと俺たちを案内する。

治療が始まる。

水魔法で、傷が癒されていく。

だが――心の傷は、癒えない。

あの騎士。

圧倒的な強さ。

俺たちは、完敗だった。

治療が終わり、俺たちは宿に戻る。

部屋で、俺たちは無言で座っている。


「……あれは、何だったんだ」


ガルドが、重い口調で言う。


「分からない……」


俺も首を振る。


「でも、一つだけ確かなことがある」


リーナが言う。


「あの騎士――ただの魔物じゃない。人間だ。それも、相当な実力者」

「ああ……」


ジンが頷く。


「それに、あの紋章……」


俺が思い出す。

騎士の胸部の鎧に刻まれていた、紋章。

遠くてよく見えなかったが、何か重要なものだった気がする。


「明日、ギルドで調べよう」


ガルドが提案する。


「ああ」


俺たちは頷く。

その夜、俺は眠れなかった。

あの騎士の姿が、脳裏に焼きついている。

圧倒的な力。

俺の《物理補助》すら、通用しなかった。


「もっと、強くならなければ……」


俺は、拳を握りしめる。

このままでは、いつか――本当に、死ぬ。

そう思いながら、俺はようやく眠りに落ちた。


◆◆◆


翌朝。

俺たちは、ギルドへと向かった。

体の傷は癒えたが、心の傷はまだ残っている。

ギルドに入ると、ミラが笑顔で迎えてくれる。


「おはようございます。今日は――」


ミラが、俺たちの表情を見て、言葉を止める。


「……どうかしましたか?」

「ミラ、聞きたいことがある」


ガルドが真剣な表情で言う。


「昨日、平原で銀の鎧を着た騎士に襲われた」


「え……?」


ミラが驚く。


「その騎士の胸部に、紋章があった。よく見えなかったが……何か、見覚えがある気がする」


俺が説明する。

ミラが、少し考え込む。


「銀の鎧に、紋章……」


ミラが、何かを思い出したような表情をする。


「もしかして……でも、そんなはずは……」

「何か知ってるのか?」


ガルドが尋ねる。


「……少し、待ってください」


ミラが、奥の部屋へと消える。

数分後、ミラが古い書物を持って戻ってくる。


「これを見てください」


ミラが、書物を開く。

そこには――様々な紋章が描かれている。


「これは、この地方の古い家系や組織の紋章が記録されたものです」


ミラが説明する。


「もし、その騎士が何か組織に属しているなら、ここに載っているかもしれません」


俺たちは、書物を見る。

様々な紋章が並んでいる。

そして――。


「これだ」


俺が、一つの紋章を指差す。

それは――狼の頭部を模した紋章。


牙を剥き、吠えているような、禍々しいデザイン。


「これは……」


ミラが、息を呑む。


「《蛮獣王ドゥームフォレス》の配下の証です」

「何だと!?」


ガルドが驚く。


「でも、これは古い紋章です。三十年以上前に、ある人物がこの紋章を持っていたという記録があります」


ミラが説明する。


「ある人物?」

「ええ。当時、この街で最強と呼ばれた冒険者です。Sランクの実力者でした」


ミラが、書物の別のページを開く。

そこには――一枚の古い絵が描かれている。

銀の鎧を着た、騎士の絵。


「この人物は、《白狼の騎士》と呼ばれていました。だが、ある日突然姿を消したと言われています」


ミラが言う。


「そして、その後――この紋章を持つ者は、現れていません」

「つまり……昨日の騎士は、その《白狼の騎士》の関係者か?」


リーナが尋ねる。


「可能性はあります。でも……」


ミラが言葉を濁す。


「でも、何だ?」

「この《白狼の騎士》――実は、三十年前に死んだと言われているんです」


ミラが、重い口調で言う。


「だから、もし昨日の騎士がその本人だとしたら……」

「ありえない、ということか」


ジンが呟く。

俺たちは、顔を見合わせる。

謎が、さらに深まった。

あの騎士は、一体何者なのか。

そして――なぜ、俺たちを襲ったのか。


「とりあえず、情報をありがとう、ミラ」


ガルドが礼を言う。


「いえ……でも、気をつけてください」


ミラが心配そうに言う。


「もし、あの騎士が本当に《蛮獣王ドゥームフォレス》の配下なら……」


ミラが言葉を切る。


「あなたたちは、狙われています」


その言葉が、重く俺たちの心に響く。

俺たちは、ギルドを出る。


「……どうする?」


ガルドが尋ねる。


「逃げるか? それとも、戦うか?」


俺は、少し考える。

だが――答えは、すぐに出た。


「戦う」


俺は答える。


「逃げても、意味がない。あの騎士は、俺たちを追ってくる」

「そうだな……」


ガルドが頷く。


「なら、準備をしよう」


リーナが言う。


「次に会った時、負けないように」


俺たちは、決意を新たにする。

あの騎士――《白狼の騎士》。

次に会った時は、必ず勝つ。

そう誓いながら、俺たちは街を歩き始めた。


◆◆◆


その夜。

平原の中で――銀の鎧を着た騎士が、一人立っていた。

月明かりが、鎧を照らす。

騎士は、兜を外す。

その下には――白髪の、老人の顔があった。


「……すまない」


独り、小さく呟く。


「だが、これも必要なことだった」


その手には、戦いの中で外れた手袋の切れ端が握られている。

その切れ端には、小さな刻印が刻まれている。

狼の牙を模した、刻印。


「お前の力を、知る必要があった。そして――」


老人が、遠くの森を見つめる。


「お前が、本当に奴と戦えるだけの力を持っているのか…」


三日月が映るその目には、複雑な感情が宿っている。


「次は……本気で来る」


老人が呟く。


「覚悟しろ。次の戦いは――お前にとって、最大の試練となる」


そう言い残し、闇の中へと消えていった。

手袋の切れ端だけが、地面に落ちている。

月明かりに照らされた、その刻印が――。

静かに、夜の闇に溶けていった。

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