23話 帰還と、ランクアップ
街の門が見えてくると、ガルドが言った。
「久しぶりの街だな。やっぱり、人の住む場所はいい」
確かに。
森の静寂と緊張から解放され、街の喧騒が懐かしく感じる。
門の衛兵が、俺たちを見て目を丸くする。
「おい、それは……オーガの首か!?」
衛兵が驚きの声を上げる。
「ああ。ランクアップ試験でな」
ガルドが誇らしげに答える。
衛兵がオーガの首をよく見て、さらに驚愕する。
「どうぞ、お通りください。お疲れ様でした」
衛兵が敬礼する。
俺たちは門をくぐり、街の中へと入る。
石畳の道。
行き交う人々。
商店の看板。
パン屋から漂う、焼きたてパンの香り。
全てが、生きている証だ。
森の中では、常に死と隣り合わせだった。
だが、ここは違う。
人々の笑い声、子供たちの遊ぶ声、商人の呼び込み。
生活がある。
「まっすぐギルドに行くぞ」
ガルドが先導する。
街の中心部へと向かう。
道行く人々が、俺たちを見て驚く。
特に、オーガの首を見て。
「あれ、オーガじゃないか!」
「すげぇ、倒したのか!」
「誰だ、あの冒険者たち?」
ささやき声が、周囲から聞こえてくる。
リーナが小さく溜息をつく。
「目立つわね……」
「仕方ないさ。オーガの首を担いでるんだから」
ジンが苦笑する。
やがて、冒険者ギルドの建物が見えてくる。
剣と盾のマークが掲げられた、三階建ての建物。
ガルドが扉を開ける。
ギルドの中は、いつも通り賑やかだった。
冒険者たちが酒を飲み、依頼書を眺め、談笑している。
だが――俺たちが入った瞬間。
静寂が広がった。
全員の視線が、俺たちに集まる。
そして――オーガの首に。
「……オーガだ」
「マジかよ、倒したのか」
「あれ、ガルドたちのパーティーだよな」
ざわめきが起こる。
ガルドは気にせず、カウンターへと向かう。
ミラが、俺たちを見て驚きの表情を浮かべる。
「お帰りなさい。無事だったのね」
そして、オーガの首を見る。
「これは……本物のオーガね」
ミラが確認する。
「ああ。ランクアップ試験、クリアだ」
ガルドがオーガの首をカウンターに置く。
ミラが首を詳細に調べる。
「間違いないわ。これは成体のオーガ……いえ、待って」
ミラが目を見開く。
「この大きさ、筋肉の発達具合……これはグレーターオーガよ! 普通のオーガより遥かに強い!」
ミラが驚愕の表情を浮かべる。
「グレーターオーガ?」
俺が尋ねる。
「ええ。魔物の中には、通常より強力な個体が稀に生まれることがある。グレーターオーガは、Bランクの冒険者でも苦戦するほど強い……」
ミラが俺たちを見る。
「よくぞ、無事に倒せましたね」
「運が良かっただけだ」
ガルドが謙遜する。
だが、ミラは首を振る。
「いえ、運だけでは倒せません。実力があったからこそです」
ミラが少し考え込む表情をする。
「少々お待ちください。これは……ギルドマスターに報告する必要があります」
ミラが奥の部屋へと消える。
数分後、ミラと一緒に――恰幅の良い老人が現れた。
白い髭、鋭い目、そして背中には大剣。
その存在感だけで、只者ではないことが分かる。
「わしがこのギルドのギルドマスター、グレンだ」
老人が俺たちを見る。
「グレーターオーガを倒したのは、お前たちか」
「はい」
ガルドが答える。
「ふむ……」
グレンがオーガの首を見る。
そして――俺を見る。
「お前が、タクミか」
「はい」
俺は答える。
「トドメを刺したのは、お前だとガルドから聞いた」
「……ええ」
グレンがじっと俺を見つめる。
その目は、値踏みするような鋭さだ。
「Fランクの新人が、グレーターオーガを倒す……普通なら信じられん話だ」
グレンが腕を組む。
「だが、わしはガルドを信用している。あいつが嘘をつくとは思えん」
グレンが頷く。
「タクミ、お前には――特例を認める」
「特例?」
俺が尋ねる。
「グレーターオーガの討伐は、通常Bランク相当の功績だ。そして、お前がトドメを刺したという証言もある」
グレンが書類を手に取る。
「本来なら、FランクからEランクへの昇格だが――この功績を考慮し、お前を――Cランクへ飛び級昇格させる」
「Cランク!?」
周囲の冒険者たちがざわめく。
「飛び級だと!?」
「FランクからCランクに!?」
「そんなこと、前例があるのか!?」
ミラが新しい登録証を渡してくれる。
金属製のカード。
そこには、新しい情報が刻まれている。
【名前:タクミ】
【ランク:C】
「Cランク……」
俺は登録証を見つめる。
FランクからCランクへ。
二段階の飛び級。
「ただし」
グレンが釘を刺す。
「飛び級は、それだけ期待されているということだ。期待を裏切るな」
「……はい」
俺は頷く。
「それと、報酬だ。金貨三枚と、グレーターオーガ討伐の報奨金として金貨五枚、合計金貨八枚を支給する」
ミラが金貨を渡してくれる。
金貨八枚。
かなりの額だ。
「ありがとうございます」
俺は金貨を受け取る。
「それと――」
ミラが少し声を潜める。
「タクミさん、ちょっと注意してください」
「注意?」
俺が尋ねる。
「グレーターオーガを倒し、しかも飛び級でCランクになったことで、あなたは一気に有名になります。色々な人が注目するでしょう」
ミラが真剣な表情で言う。
「色々な人?」
「良い意味でも、悪い意味でも、です」
ミラが周囲を見回す。
確かに、ギルドの冒険者たちが、俺をちらちらと見ている。
その目には、称賛、羨望、そして――嫉妬。
様々な感情が混ざっている。
「強い冒険者は、それだけで注目される。そして、注目されるということは――危険も増えるということです」
ミラが警告する。
「分かりました。気をつけます」
俺は頷く。
「それじゃあ、報告は以上です。お疲れ様でした」
ミラが笑顔で送り出してくれる。
グレンも頷く。
「精進しろ、タクミ。お前の力、期待しているぞ」
俺たちはカウンターを離れる。
ギルドを出ると、ガルドが俺の肩を叩く。
「やったな、タクミ。いきなりCランクだ」
「ああ……でも、実感が湧かない」
俺は正直に答える。
「まあ、そうだろうな。だが、これからはCランクの
依頼も受けられる。報酬も上がるぞ」
ジンが笑う。
「それに、俺たちと同じランクになった。これで、正式にパーティーを組めるな」
リーナが微笑む。
「……そうだな」
俺も笑う。
Cランク。
まだまだ、上には上がいる。
だが――一歩ずつ、確実に強くなっている。
「さあ、宿に戻ろう。今日はゆっくり休もう」
ガルドが言う。
俺たちは宿へと向かう。
『旅人の休息亭』。
いつもの宿だ。
部屋に荷物を置き、一階の食堂で食事を取る。
温かいスープ、焼きたてのパン、柔らかい肉。
森での乾パンとは比べ物にならない。
「やっぱり、街の飯は最高だな」
ガルドが満足そうに言う。
「ああ」
俺も同意する。
リーナが、ふと口を開く。
「タクミ、これからどうするの?」
「どうする?」
俺が尋ねる。
「私たちと一緒に、依頼を受け続けるのか。それとも、一人で行動するのか」
リーナが真剣な目で俺を見る。
俺は考える。
ガルドたちと一緒に行動すれば、安全だ。
彼らは信頼できる仲間だ。
だが――俺には、やるべきことがある。
《物理補助》の力を、もっと理解しなければならない。
この世界の秘密を、解き明かさなければならない。
そして――十魔帝王の脅威。
いずれ、俺は狙われる。
「もう少し、一緒に行動させてくれ」
俺は答える。
「まだまだ、この世界のことを知らない。お前たちから学びたい」
「そうか」
リーナが微笑む。
「なら、歓迎するわ」
ガルドも笑う。
「よし、じゃあこれからもよろしく頼むぜ、タクミ」
ジンも頷く。
「一緒に頑張ろう」
俺も笑う。
仲間がいる。
それは、この世界で生きていく上で、何よりも大切なことだ。
食事を終え、俺は部屋に戻る。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
ゼリーが、俺の隣でぷるぷると跳ねている。
「今日も、お疲れ様、ゼリー」
俺はゼリーを撫でる。
冷たく、柔らかい感触。
ゼリーが嬉しそうに震える。
俺は、ステータス画面を開く。
「ステータス表示」
視界に、半透明のパネルが現れる。
【名前:タクミ】
【レベル:4】
【職業:なし】
【HP:190/190】
【MP:160/160】
【ステータス】
筋力:18 (+4)
体力:17 (+3)
敏捷:19 (+3)
知力:22 (+2)
魔力:12 (+2)
【スキル】
《物理補助》
∙接触した物質の物理特性を微調整する
∙重ね掛け可能(負担大、最大3重まで確認)
【称号】
・ダンジョン単独制覇者(全ステータス+2)
・ゴブリンキング討伐者(筋力+1、体力+1)
・グレーターオーガ討伐者(筋力+1、敏捷+1)
【装備】
・物理干渉拳銃(ユニーク)
・ミスリル製ナイフ
・革鎧
・衝撃吸収ベルト《ショック・アブソーバー》(アンコモン)
【所持アイテム】
・魔力増幅球(レア)
・謎のキューブ(等級不明)
・十魔帝王の紋章(?)
レベルが4に上がっている。
グレーターオーガを倒したことで、経験値を得たらしい。
ステータスも、全体的に向上している。
そして、新しい称号――《グレーターオーガ討伐者》。
「少しずつ、強くなってる……」
俺は呟く。
だが、まだまだ足りない。
十魔帝王。
その配下すら、強大だった。
ゴブリンキング、そしてグレーターオーガ。
もし、十魔帝王本人と戦うことになったら――。
想像するだけで、背筋が凍る。
「もっと、強くならなければ」
俺は拳を握りしめる。
《物理補助》の力。
まだまだ、使いこなせていない。
三重掛けができるようになったが、負担が大きすぎる。
もっと効率的に、もっと強力に。
そして――。
俺は、ポケットから謎のキューブを取り出す。
夢で見た、古代文明。
あのキューブと同じ形。
これは、一体何なのか。
「いつか、分かる日が来るのだろうか……」
俺はキューブを見つめる。
だが、今日は何も起こらない。
キューブは、静かに俺の手の中で冷たい光を放っている。
俺はキューブをポケットに戻し、目を閉じる。
今日も、長い一日だった。
だが――明日もまた、新しい一日が始まる。
そう思いながら、俺は眠りに落ちた。
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