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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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22話 オーガの咆哮と、夜の死闘

オーガの突進は、まるで岩の壁が迫ってくるような圧迫感があった。

地面を踏みしめる足音が、ドン、ドン、ドンと太鼓のように響く。


「散開!」


ガルドの声が、夜の森に響く。

俺たちは四方に散る。

オーガの巨腕が、俺がいた場所を薙ぎ払う。

ゴウッ!

風を切る音が、鼓膜を震わせる。

その一撃を受ければ、骨が砕けるどころでは済まないだろう。





森の奥、木々の影に隠れて――何かが、戦いを見つめていた。

三つの影。

人間よりも小さく、獣のように四足で地面に這いつくばっている。

鋭い爪、尖った耳、そして――赤く光る目。

彼らは息を潜め、じっと戦場を観察している。

オーガの咆哮も、人間たちの叫び声も、彼らの耳には届いている。

だが――動かない。

ただ、見ている。

その目は、獲物を狙う捕食者のそれではない。

情報を集める、偵察者の目だ。





「《フレアボルト》!」


リーナが即座に魔法を放つ。

炎の矢がオーガの胸部に命中する。

だが――オーガは怯まない。

炎で焼かれた皮膚が、見る見るうちに再生していく。

まるで、時間を巻き戻しているかのように。


「単発じゃ効かない……なら!《インフェルノ・ウェーブ》!」


リーナが両手を広げると、彼女の前に炎の壁が出現する。

そして――それが波のようにオーガに向かって押し寄せる。

ゴォォォ!

炎がオーガを包み込む。

オーガが苦しそうに吠える。

だが――数秒後、炎が消えると、焼けた皮膚がまた再生し始める。


「くっ……やっぱり再生が速い!」


リーナが舌打ちする。

ジンが弓を構え、矢を放つ。

矢はオーガの目を狙うが、オーガが腕で防ぐ。

矢が太い腕に刺さるが、それも数秒で押し出され、傷が塞がる。


「タクミ、足元を!」


ガルドが叫ぶ。

俺は銃を構え、オーガの足元の地面を狙う。

パン、パン!

二発の弾丸が着弾する。





影の一つが、微かに動いた。

銃声に反応したのか、耳をぴくりと動かす。


「……ギギ、あれか」


低く、しゃがれた声。

人間の言葉ではない。だが、意味は通じる。


「あの黒い筒……紋章にあった武器……」


別の影が、じっと銃を見つめる。


「間違いない。こいつがゴブリンキングを倒した奴だ」


三匹目が、小さく唸る。


「見ろ、地面を操っている。あれが《王》の報告にあった力か」

「ギギギ……面白い。面白いが――」


最初の影が、牙を剥く。

「報告が必要だ。《王》は、こいつの力を知りたがっている」

そして――仲間の一匹に、低い唸り声で何かを伝える。

他の二匹も、頷くように首を振る。

彼らは、何かを確認したようだった。





「《物理補助》……地面の摩擦係数、最小化」


オーガの足元が滑りやすくなる。

ズザッ!

オーガがバランスを崩す。

その隙に、ガルドが剣を振るう。

刃がオーガの脇腹に食い込む。

ズバッ!

血が噴き出す。

だが――その傷も、すぐに塞がり始める。


「深く斬ったはずなのに……!」


ガルドが歯噛みする。

オーガが態勢を立て直し、再び俺たちに向かってくる。

今度は、ジンを狙う。


「ジン、逃げろ!」


リーナが叫ぶ。

ジンが横に転がる。

オーガの拳が、ジンがいた場所の木を叩き折る。

バキィン!

太い幹が、まるで枯れ枝のように砕け散る。

破片が飛び散り、俺の頬を掠める。

鋭い痛み。

だが、今はそれどころではない。


「動きを止める!《ウィンド・バインド》!」


リーナが両手を広げる。

彼女の周囲で風が渦巻き始める。

そして――その風が、鞭のようにオーガの足に巻きつく。

オーガの動きが、一瞬止まる。


「今よ、ガルド!」

「おう!」


ガルドが再び斬りかかる。

だが、オーガは力ずくで風の束縛を引きちぎる。

ブチィッ!

風が散り、リーナがよろめく。


「力で引きちぎられた……!」


オーガがリーナに向かって突進する。


「《エアカッター》!」


リーナが腕を横に振る。

透明な風の刃が、空気を切り裂きながらオーガに向かって飛ぶ。

シュパァッ!

風の刃がオーガの腕を切り裂く。

血が飛び散る。

だが――またすぐに傷が塞がり始める。


「このままじゃ、削り切れない……」


俺は考える。

再生能力。

どんなに傷をつけても、すぐに治ってしまう。

ならば――再生が追いつかないほどのダメージを与えるか、再生できない致命傷を与えるしかない。


「ガルド、もう一度足元を滑らせる。その隙に、首を狙ってくれ!」


俺が叫ぶ。


「首か……分かった!」


ガルドが頷く。

俺は再び銃を構える。

オーガが俺に向かって突進してくる。

その巨体が迫る。

月明かりに照らされた、その顔。

灰色の肌、鋭い牙、血走った目。

まるで、悪夢から抜け出してきたような姿だ。


俺は冷静に、オーガの足元を狙う。

パン、パン、パン!

三発の弾丸を、オーガの進路に撃ち込む。


「《物理補助》……地面の摩擦係数、最小化。そして――反発係数、増加」





「ギギッ! 見ろ、また使った!」


影の一つが、興奮したように身を乗り出す。


「複数の力を同時に……普通の人間にはできない芸当だ」

「《王》が興味を持つわけだ。この力……危険だが、価値がある」


最も大きな影が、じっと俺を見つめる。


「一匹、戻って報告しろ。こいつの力、戦い方、全てを《王》に伝えるんだ」

「了解した」


一匹が、音もなく森の奥へと消えていく。


「俺たちは最後まで見届ける。こいつがオーガをどう倒すか……それも重要な情報だ」


残りの二匹は、引き続き戦いを見守る。




二つの効果を重ねる。

頭に、鋭い痛みが走る。

だが――効果は発動した。

オーガの足が滑り、そして地面が跳ね返す。

オーガの巨体が、前のめりに倒れる。


「リーナ、動きを止めて!」

「分かった!」


リーナが大きく息を吸い込む。

そして――両手を突き出す。


「《ゲイルプレッシャー》!」


圧縮された空気の塊が、オーガの背中に叩きつけられる。

ドンッ!

オーガの体が地面に押し付けられる。


「まだ足りない……《ヒートレイ》!」


リーナが指先を向ける。

そこから、細く鋭い熱線が放たれる。

ジジジジジ……!

熱線がオーガの背中を焼く。

オーガが再び悲鳴を上げる。


「今だ、ガルド!」

「任せろ!」


ガルドが全速力で駆け出す。

剣を両手で握りしめ、オーガの首を狙う。

そして――。

ズバァッ!

剣が、オーガの首筋に深々と食い込む。

血が噴き出し、月明かりの中で黒く光る。

オーガが悲鳴を上げる。

その声は、森全体に木霊する。

だが――まだ倒れない。

首筋の傷が、ゆっくりと塞がり始める。


「まだ再生するのか!」


ガルドが驚愕する。


「だったら――」


俺はナイフを抜き、オーガに向かって走る。

オーガがガルドを振り払おうと腕を振るう。

ガルドが剣で受け止めるが、その衝撃で吹き飛ばされる。


「ガルド!」


リーナが叫ぶ。

だが俺は止まらない。

ナイフを握りしめ、集中する。

頭の中で、三つの効果をイメージする。

これまでで最も複雑な重ね掛けだ。


「《物理補助》……ナイフの刃先、振動数増加。刃の摩擦、増加。そして――ナイフの硬度、さらに上昇」


ビリビリと、ナイフが高周波で震える。

同時に、摩擦熱で刃が赤く光り始める。

そして、ミスリル製のナイフが、さらに硬質化する。

頭が割れるような痛み。

視界が一瞬、歪む。

MPが、恐ろしい速度で減っていく。


「ぐっ……!」


だが――今は止まれない。


ビリビリと、ナイフが震える。

高周波の振動が、オーガの首筋を削り取る。

ギリギリギリ……!

肉が削れる音。

骨が削れる音。

そして――。

ズバッ!

ナイフが、オーガの首の骨を断ち切る。

オーガの動きが止まる。

巨体が、ゆっくりと倒れる。

ドサァッ!

地面が揺れる。

木々が揺れる。

そして――静寂が戻る。





「……見たか」


残された二匹の影が、じっと死体を見つめる。


「ああ。オーガを、四人で倒した。しかも、あの人間が主導している」

「地面を操り、刃を震わせる……あれが《物理補助》という力か」


大きな影が、低く唸る。


「《王》は正しかった。この人間は――危険だ」

「どうする? ここで殺すか?」

「バカを言うな。俺たちだけでは無理だ。それに、《王》の命令は『観察』だ」


影が立ち上がる。


「戻るぞ。報告は既に届いているはずだ。次に来るのは……」


影が、牙を剥いて笑う。

残りの二匹も、音もなく森の奥へと消えていった。

彼らが見たもの。

人間たちが使う、様々な魔法。

そして、その中の一人が使う、見慣れない力。

オーガを倒した、その実力。

情報は、主の元へと届けられるだろう。

そして――。

木の枝に、一枚の黒い羽根が残されていた。

風に揺れるその羽根は、やがて闇に溶けるように消えていった。





「……終わった、のか」


ジンが呟く。

俺は荒い息をつきながら、オーガの死体を見つめる。

首筋からは、もう血が流れていない。

再生も、止まっている。


「ああ……倒した」


ガルドが立ち上がり、俺の肩を叩く。


「よくやった、タクミ」


リーナも駆け寄ってくる。


「無事? 怪我は?」

「少し擦り傷があるくらいだ」


俺は頬を拭う。

血が、手に付く。


「回復薬を使おう」


リーナが回復薬を取り出す。

俺は首を振る。


「いや、この程度なら大丈夫だ。回復薬は、もっと重傷の時のために取っておく」

「……そう。でも、無理しないでね」


リーナが心配そうに俺を見る。

ガルドがオーガの死体に近づく。


「この首を持ち帰れば、試験はクリアだ」

「そうだな」


俺たちはオーガの首を切り離す。

巨大で重い。

ガルドとジンが協力して、布に包む。


「これで、タクミはEランクだな」


ジンが笑う。


「まだギルドの審査が残ってるだろ」

「形式的なもんさ。オーガを倒した時点で、お前の実力は証明されてる」


ガルドが言う。

俺は空を見上げる。

月が、雲の間から顔を覗かせている。

夜の森は、相変わらず静かだ。

だが――先ほどまでの、あの不気味な静寂ではない。

オーガを倒したことで、森が少し安心したかのような、穏やかな静けさだ。


「今夜は、もう休もう」


ガルドが提案する。


「オーガを倒した後だ。他の魔物も近寄ってこないだろう」


俺たちは再び、野営地に戻る。

今度は、焚き火を焚く。

炎が、闇を照らす。

温かい光が、疲れた体を癒してくれる。


「タクミ、今日の戦い方、良かったぞ」


ガルドが言う。


「《物理補助》の重ね掛け、あれがなければオーガは倒せなかった」

「でも、まだ負担が大きい」


俺は正直に答える。


「頭痛がひどいし、MPの消費も激しい」

「それでも、使えるってことが重要だ」


リーナが言う。


「私も、今日は色々な魔法を使った。火と風を組み合わせれば、もっと強力な攻撃ができるかもしれない」

「組み合わせ?」


俺が尋ねる。


「ええ。例えば、炎を風で加速させれば、威力が上がる。まだ試したことはないけど」


リーナが考え込む。


「それ、面白そうだな」


ガルドが言う。


「普通の魔法使いは、複数の魔法を同時に発動できない。お前のスキルは、本当に特殊よ」


リーナが俺を見る。


「特殊……か」


俺は自分の手を見る。

この手で、物理法則を曲げる。

この世界では、異端の力。

だが――この力があるから、俺は生き延びている。


「明日、街に戻ったら、ギルドに報告だ」

ガルドが言う。


「そして、お前は正式にEランクになる」

「ああ」


俺は頷く。

Eランク。

まだまだ、弱い。

だが――一歩ずつ、強くなっている。

そう信じたい。

焚き火が、パチパチと音を立てる。

炎が揺れるたびに、影が踊る。

俺は寝袋に入り、目を閉じる。

今日の戦いを、思い返す。

オーガの巨体。

その圧倒的な力。

リーナの多彩な魔法。

そして――それを倒した、俺たちの連携。

まだまだ、学ぶことは多い。

だが――少しずつ、この世界に慣れてきている。

そう思いながら、俺は眠りに落ちた。


翌朝。

太陽が木々の間から差し込み、俺たちを起こす。

鳥のさえずりが、森に響く。

昨夜の戦いが嘘のような、穏やかな朝だ。


「さあ、帰るぞ」


ガルドが荷物をまとめる。

俺たちは野営地を片付け、街への帰路につく。

オーガの首を担ぎ、森を出る。

平原に出ると、太陽が眩しい。

空は青く、風が心地よい。


「無事に帰れそうだな」


ジンが笑う。


「ああ」


俺も笑う。

そして――俺たちは、街へと歩き始めた。

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