20話 十魔帝王の影と、変化の兆し
翌朝。
俺はガルドたちに呼ばれ、宿の一室に集まった。
ガルド、リーナ、ジン。
三人とも、昨夜より表情が硬い。
「タクミ、昨日の紋章のことだが……」
ガルドが口を開く。
「詳しく説明する。これは、お前が知っておくべきことだ」
俺は頷く。
「《十魔帝王》――この大陸には、魔物の生態系を支配する十体の強大な魔物が存在する」
リーナが説明を始める。
「それぞれが『帝王』の称号を持ち、無数の魔物を配下に従えている。人間の国すら滅ぼせるほどの力を持つ存在よ」
「十体……全員がそれほど強いのか?」
俺が尋ねる。
「ああ。それぞれが災厄そのものだ。過去には、十魔帝王の一柱が暴走して、一つの王国が滅んだこともある」
ジンが重い口調で言う。
「そして、お前が倒したゴブリンキングの体内にあった紋章……あれは、十魔帝王の一柱に従う証だ」
ガルドが続ける。
「つまり、あのゴブリンキングは、誰かの配下だった」
俺は昨夜の紋章を思い出す。
獣の頭蓋骨を模した、禍々しいデザイン。
「その紋章の主は――《蛮獣王ドゥームフォレス》」
リーナが名を告げる。
「森と獣を支配する十魔帝王の一柱。この地方の森林地帯を縄張りとしている」
「森を……支配している」
俺が呟く。
「ああ。この近くの森にも、ドゥームフォレスの配下がいる。今回のゴブリンキングもその一匹だ」
ガルドが言う。
「そして――配下を殺された十魔帝王は、復讐のためにさらに強力な配下を送り込むことがある」
ジンが警告する。
「つまり、俺は狙われる可能性がある?」
俺が確認する。
「可能性、じゃない。確実に狙われる」
リーナが断言する。
「ゴブリンキングは、ドゥームフォレスの配下の中でもそれなりに位の高い存在だった。それを殺したお前を、ドゥームフォレスは見逃さないでしょう」
「……厄介なことになったな」
俺は溜息をつく。
「だが、すぐに襲ってくるわけじゃない」
ガルドが補足する。
「十魔帝王は、基本的に自分の縄張りから出ない。配下を送り込むにしても、時間がかかる」
「どのくらい?」
「早くて数週間、遅ければ数ヶ月」
ジンが答える。
「その間に、お前は強くならなきゃいけない」
リーナが真剣な目で俺を見る。
「強く……」
俺は自分のステータスを思い出す。
レベル3。
まだまだ弱い。
「だが、悪い話ばかりじゃない」
ガルドが笑う。
「お前、ゴブリンキングを倒したことで、ギルドからランクアップ試験の話が来てる」
「ランクアップ試験?」
「ああ。FランクからEランクに上がるための試験だ」
ガルドが説明する。
「通常、Fランクの新人がゴブリンキングを倒すなんてあり得ない。だから、ギルドはお前の実力を認めた」
「試験の内容は?」
「詳しくはギルドで聞くが、通常は魔物討伐や護衛任務だ。それをクリアすれば、Eランクに昇格する」
ジンが補足する。
「Eランクになれば、受けられる依頼の幅が広がる。報酬も増える」
「それに、ランクが上がれば、お前の実力も認められる。強い冒険者と組む機会も増えるだろう」
リーナが言う。
「分かった。試験を受けよう」
俺は頷く。
強くなるための、第一歩。
その時――。
ぷるん、ぷるん。
俺の足元で、ゼリーが激しく跳ねている。
いつもより、動きが激しい。
「ゼリー? どうした?」
俺はゼリーに手を伸ばす。
ゼリーの体が――光っている。
青白い光が、ゼリーの体内から溢れ出している。
「なっ……!?」
ガルドたちも驚く。
ゼリーの体が、徐々に大きくなっていく。
元々は拳大だったのが、今では両手で抱えるサイズに。
そして――体の色が、青白から淡い緑色に変わっていく。
「これは……進化?」
リーナが呟く。
「スライムが進化するなんて、聞いたことないぞ」
ジンが驚く。
光が収まる。
ゼリーは、以前より一回り大きくなり、緑色になっていた。
ぷるん。
ゼリーが、以前と変わらず跳ねる。
「ゼリー……お前、何が起きたんだ?」
俺がゼリーを抱き上げる。
ゼリーは、嬉しそうにぷるぷると震える。
その時――俺の視界に、情報が浮かび上がる。
【名前:ゼリー】
【種族:スライム(変異種)】
【レベル:2】
【スキル:《体液操作》《魔力感知》】
「スキル……?」
ゼリーに、スキルが表示されている。
「《体液操作》と《魔力感知》……」
《体液操作》は、以前から使っていた能力だろう。
自分の体液で地面を滑らせる。
だが、《魔力感知》は?
「もしかして……」
俺は、ポケットから十魔帝王の紋章を取り出す。
ゼリーが、紋章に反応する。
ぷるぷると激しく震える。
「この紋章に……反応してるのか?」
リーナが興味深そうに見る。
「魔力感知のスキルが目覚めたのね。紋章に込められた魔力を感じ取ってる」
「つまり、ゼリーはこの紋章の魔力に反応して、進化した?」
「可能性はある。スライムは魔力に敏感な生物だから」
ガルドが言う。
「お前のスライム、ただのスライムじゃなかったみたいだな」
俺はゼリーを見つめる。
ダンジョンで出会った、劣化したスライム。
だが――もしかしたら、それは見かけだけで、本当は特別な存在だったのかもしれない。
「まあ、強くなるのはいいことだ」
ガルドが笑う。
「これからも、お前の力になってくれるだろう」
俺は頷く。
ゼリーを抱えたまま、立ち上がる。
「じゃあ、ギルドに行こう。ランクアップ試験の詳細を聞きに」
俺たちは宿を出て、ギルドへと向かう。
ゼリーは、俺の肩に乗って、ぷるぷると揺れている。
以前より重くなったが、それでも軽い。
ギルドに到着すると、ミラが俺たちを迎える。
「タクミさん、お待ちしてました」
ミラが笑顔で言う。
「ゴブリンキング討伐の功績により、ランクアップ試験の資格が与えられました」
「試験の内容は?」
「魔物討伐です。指定された魔物を、制限時間内に討伐してください」
ミラが依頼書を渡す。
【ランクアップ試験】
【対象魔物:オーガ】
【場所:北の森】
【制限時間:三日以内】
【報酬:ランクアップ、及び金貨三枚】
「オーガ……」
俺は依頼書を見る。
オーガは、オークより強力な魔物だ。
体長は三メートル以上、怪力と高い耐久力を持つ。
「一人で行くのか?」
「いえ、パーティーでの挑戦も可能です。ただし、タクミさんが主体となって戦うことが条件です」
ミラが説明する。
「つまり、俺がトドメを刺せばいいのか」
「その通りです」
俺はガルドたちを見る。
「手伝ってくれるか?」
「もちろんだ」
ガルドが笑う。
「お前一人じゃ、心配だからな」
リーナとジンも頷く。
「じゃあ、試験を受ける」
俺はミラに答える。
「承知しました。健闘を祈ります」
ミラが試験を受理する。
俺たちはギルドを出る。
「北の森か……準備が必要だな」
ガルドが言う。
「武器屋で補給して、明日出発しよう」
俺は頷く。
オーガ討伐。
ランクアップへの第一歩。
そして――ドゥームフォレスの影が、少しずつ迫ってくる。
俺は、強くならなければならない。
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