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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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16話 夢に映る記憶と、ギルドへの門

俺は、歩いていた。

いや、正確には――誰かが歩いているのを、見ている。

体は動かない。

声も出ない。

ただ、その誰かの視界を通して、世界を見ている。

目の前には――見たことのない街が広がっていた。

高い塔が立ち並び、空中には浮遊する建造物。

街路には、青白く光る魔法陣が敷き詰められている。

視界の持ち主が、街の中を歩く。

すれ違う人々は、見たこともない服装をしている。

金属と布を組み合わせた、機能的で洗練されたデザイン。

そして――その手には、様々な武器。

剣、杖、そして――銃。

俺が持っているものと似た、金属製の筒状の武器。


(何だ、これは……)


声にはならないが、俺は圧倒される。

この規模、この技術。

村とも、ルヴァルトの街とも、まるで次元が違う。

視界の持ち主の視線が、街の中央の巨大な塔を捉える。

塔の頂上には、巨大な水晶のような球体。

球体からは、無数の光の筋が放たれ、街全体を包み込んでいる。

視界が動く。

市場を通り過ぎる。

魔法で動く機械が商品を運んでいる。

工房の前を歩く。

職人が魔法陣を刻みながら武器を鍛えている。

学院のような建物の前を通る。

窓から見える教室では、子供たちが――何かを学んでいる。

黒板に書かれた文字が、一瞬見える。

運動方程式、エネルギー保存則。


(……まさか)


視界の持ち主は、塔へと向かう。

入口を抜け、螺旋階段を上る。

一段、また一段。

息が上がっているのが分かる。

だが、止まらない。

頂上へ、頂上へ。

やがて、最上階の部屋に辿り着く。

扉を開ける。

そこには――一人の老人が立っていた。

白い髭、深い皺。

だが、その目は鋭く、知性に満ちている。

視界の持ち主――俺が見ている誰かは、老人に近づく。

老人は、何かを操作している。

巨大な魔法陣が床に描かれ、その中央には――。

キューブ。

俺がダンジョンで手に入れた、あの謎のキューブと同じ形状の物体。

ただし、こちらは遥かに大きく、そして強烈な光を放っている。

老人が手をかざすと、キューブから光の柱が天井を突き抜ける。


「これで……世界は救われる」


老人の声が聞こえる。

視界の持ち主は、何も言わない。

ただ、じっと老人を見つめている。

だが――その直後。

キューブが、激しく振動し始める。


「何……!?」


老人が驚愕する。

光の柱が暴走し、塔全体が揺れ始める。

視界の持ち主の体が、揺れに合わせて傾く。

壁に手をつき、バランスを取る。

その手が、視界の端に映る。

若い、男性の手。

街中で、警報のような音が鳴り響く。

窓の外では、人々が逃げ惑っている。

老人が、必死にキューブを制御しようとする。

だが――。

キューブが、砕ける。

無数の光の破片が、四方八方に飛び散る。

視界の持ち主が、腕で顔を覆う。

光が、全てを飲み込む。

塔が崩壊していく感覚。

落下する。

視界が真っ白になる。


その瞬間――。

別の映像が流れる。

今度は、暗闇の中。

視界の持ち主は、地面に倒れている。

体が、動かない。

痛みは、ない。

ただ、感覚がない。

そして――誰かが近づいてくる。

足音。

視界の持ち主の目の前に、誰かが膝をつく。

顔は見えない。

暗闇の中、シルエットだけが見える。

その手には――小さなキューブが握られている。


「……託す」


声が聞こえる。


「この力を……正しく使え」


キューブが、視界の持ち主の手に置かれる。

冷たい感触。

だが――温かみも、感じる。

視界が、ぼやけていく。

そして――。


「起きろ」


別の声。

今度は、現実の声。


「タクミ、起きろ!」


俺は、ガバッと目を覚ます。


「はぁ、はぁ……」


荒い息。

額には、汗がびっしりとかいている。


「悪い夢でも見たか?」


ガルドが、部屋の入口に立っている。


「……ああ、少し」


俺は曖昧に答える。

今の夢は、一体何だったのか。

誰かの視点を通して見た、見たこともない文明。

キューブの暴走。

そして、謎の人物からのメッセージ。


「この力を、正しく使え」


俺は、ポケットに手を入れる。

キューブが、そこにある。

だが――今は、何も光っていない。

普通の金属の塊のように、冷たく静かだ。


「朝飯の時間だぞ。急げ」


ガルドが部屋を出ていく。

俺は、ベッドから起き上がる。

ゼリーが、床でぷるぷると跳ねている。


「……おはよう、ゼリー」


俺は服を着替え、顔を洗う。

夢のことは、今は考えないようにしよう。

今日は、ギルドに登録する日だ。

一階の食堂に降りると、ガルドたちが朝食を取っていた。


「おはよう、タクミ」


ジンが笑顔で迎える。


「おはよう」


俺も席に着き、パンとスープをもらう。


「今日の予定だが」


ガルドが説明する。


「まず、ギルドに行ってタクミを登録させる。それから、武器屋で装備を見る。最後に、簡単な依頼を受けて金を稼ぐ」

「分かった」


俺は頷く。

朝食を終え、俺たちは宿を出る。

街は、朝から活気に満ちている。

商人が店を開き、人々が行き交う。


「ギルドはこっちだ」


リーナが先導する。

十分ほど歩くと、大きな建物が見えてきた。

三階建てで、入口には剣と盾のマークが掲げられている。


「ここが冒険者ギルドだ」


ガルドが扉を開ける。

中に入ると――広いホールになっていた。

カウンターがあり、受付嬢が数人いる。

壁には依頼書が貼られた掲示板。

テーブルと椅子が並び、冒険者らしき人々が酒を飲んだり、話し込んだりしている。


「賑やかだな」

「ああ。ここが冒険者の拠点さ」


ガルドがカウンターに向かう。

「おい、ミラ。こいつを登録してやってくれ」


カウンターにいた若い女性が、俺を見る。

茶色の髪を後ろで束ね、眼鏡をかけている。


「新人さん? 珍しいわね、ガルドが連れてくるなんて」

「こいつ、なかなかやるぞ。昨日、オークの群れを相手に戦ったんだ」

「オークの群れ? 本当に?」


ミラと呼ばれた受付嬢が驚く。


「冗談じゃないわよ、ガルド」

「本当だって。リーナとジンも見てる」


二人が頷く。

ミラが俺をじっと見つめる。


「……まあ、ガルドが嘘をつくとは思えないけど。それじゃあ、登録手続きを始めるわね」


ミラが紙とペンを取り出す。


「名前は?」

「タクミだ」

「年齢は?」

「……二十くらいだと思う」


記憶喪失という設定なので、曖昧に答える。


「職業は? 剣士? 魔法使い?」

「……特殊なスキル使い、とでも言っておいてくれ」

「スキル使い、ね」

ミラが紙に書き込む。

「それじゃあ、登録料として銀貨五枚いただくわ」


銀貨五枚。

俺はポケットを探る。

村での手伝いで少しだけ報酬をもらっていたが――。


「あ、足りない……」


俺が困っていると、ガルドが銀貨を出す。


「俺が出す。昨日、助けてもらったからな」

「……すまない」


俺は素直に礼を言う。

ミラが銀貨を受け取り、引き出しにしまう。


「はい、これがあなたの冒険者登録証よ」


ミラが金属製のカードを渡してくれる。

カードには、俺の名前とランクが刻まれている。

【名前:タクミ】

【ランク:F】


「これで、正式に冒険者ね。依頼を受ける時は、このカードを見せて」

「分かった。ありがとう」


俺はカードをポケットにしまう。


「よし、じゃあ次は装備を揃えよう」


ガルドが俺の肩を叩く。


「武器屋に行くぞ」


俺たちはギルドを出る。

ゼリーは、相変わらず俺の足元でぷるぷると跳ねている。

新しい生活が、本格的に始まる。


だが――俺の頭には、まだあの夢の光景が残っている。

誰かの視点を通して見た、あの圧倒的な文明。

キューブの暴走。

そして、「この力を正しく使え」というメッセージ。

一体、何を意味しているのか。

答えは、まだ見えない。

お読みいただきありがとうございます。

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