15話 街の治療と、明日への準備
草原を抜け、街道に出る。
ガルドを支えながら、俺たちは急いで街へと向かう。
「もう少しだ、ガルド。頑張れ」
ジンが声をかける。
ジン自身も腕から血を流しているが、ガルドの方が明らかに重傷だ。
「すまねぇ……足手まといに……」
ガルドが苦しそうに呟く。
「バカ言うな。お前がいなかったら、俺たちの方が死んでた」
リーナが冷静に言う。
やがて、街の城壁が見えてきた。
高さ十メートル以上の石壁。
門には衛兵が立っている。
「通行証は?」
「冒険者ギルドの登録証だ。緊急だ、すぐに通してくれ」
リーナがカードを見せる。
衛兵がガルドの傷を見て、表情を変える。
「分かった。治療院は中央広場の近くだ。急げ」
衛兵が門を開けてくれる。
俺たちは街の中に入る。
石畳の道、両脇に立ち並ぶ商店、行き交う人々。
だが、今はそれを見ている余裕はない。
「この先だ」
リーナが先導する。
数分後、大きな建物の前に到着した。
入口には、杖に蛇が巻きついたマークが掲げられている。
「ここが治療院だ」
リーナが扉を開ける。
中に入ると、清潔な白い部屋。
受付には、白衣を着た中年の女性がいる。
「重傷者です! すぐに治療を!」
リーナが叫ぶ。
受付の女性が立ち上がり、ガルドとジンの傷を見る。
「すぐに治療師を呼びます。こちらへ」
奥の部屋に案内される。
ベッドが並ぶ治療室。
ガルドとジンを、それぞれベッドに寝かせる。
数分後――白衣を着た若い男性が現れた。
「私が治療師のレオンです。傷を見せてください」
レオンと名乗った男性が、ガルドの肩の傷を確認する。
「……深い傷ですね。骨にも達しています」
レオンが手をかざす。
「《ヒール・ウォーター》」
掌から青白い光が放たれ、ガルドの傷を包み込む。
傷口が、ゆっくりと塞がっていく。
「これは……水魔法か?」
俺が尋ねる。
「ええ。水には『浄化』と『再生』の性質があります。治療魔法の基本です」
レオンが説明しながら、治療を続ける。
十分ほどで、ガルドの傷は完全に塞がった。
「……すげぇな」
ガルドが肩を動かす。
痛みはないらしい。
「ただし、失った血液までは戻せません。しばらくは安静にしてください」
レオンが注意を促す。
次に、ジンの腕も治療する。
こちらも十分ほどで、傷が塞がった。
「ありがとうございます」
ジンが頭を下げる。
「治療費は、後ほど受付でお願いします」
レオンが部屋を出ていく。
「助かった……」
リーナが安堵の表情を浮かべる。
「タクミのおかげだ。お前がいなかったら、俺たちは全滅してた」
ガルドが俺を見る。
「いや、俺もお前たちがいなければ生き残れなかった」
俺は正直に答える。
オークとの戦闘は、初めての本格的な集団戦だった。
銃の力を過信していたが、実際は数の暴力には敵わない。
「それにしても、治療魔法ってのは便利だな」
俺が呟く。
「ああ。だが、治療師は数が少ない。水魔法の適性がある者の中でも、さらに『治療』に特化した才能が必要らしい」
ガルドが説明する。
「だから、治療費も高い」
リーナが溜息をつく。
「今回の治療費、いくらになるかしら……」
その時――受付の女性が部屋に入ってきた。
「治療費のご請求です。お二人分で、金貨三枚になります」
「金貨三枚!?」
ガルドが驚く。
「重傷の治療ですから、この金額は妥当です」
受付の女性が淡々と答える。
「ぐっ……仕方ない」
ガルドがポーチから金貨を取り出す。
金貨三枚。
かなりの大金らしい。
「これで」
ガルドが金貨を渡す。
受付の女性が受け取り、領収書を渡す。
「ありがとうございました。お大事に」
受付の女性が部屋を出る。
「……痛い出費だな」
ガルドが頭を掻く。
「仕方ないわ。命には代えられない」
リーナが言う。
「それより、今日はもう遅い。宿を取ろう」
ジンが提案する。
外を見ると、すでに夕暮れだ。
「そうだな。タクミ、お前も一緒に泊まるか?」
「……頼む」
俺も頷く。
金はほとんどないが、今夜は宿が必要だ。
治療院を出て、俺たちは街を歩く。
ゼリーは、相変わらず俺の足元でぷるぷると跳ねている。
街の人々は、ゼリーを見て不思議そうな顔をするが、特に何も言わない。
「この街、スライムを連れて歩くのも珍しくないのか?」
俺が尋ねる。
「いや、珍しい。でも、冒険者が魔物を従えてることもあるからな。誰も気にしないんだろ」
ガルドが笑う。
やがて、『旅人の休息亭』という看板の宿に到着した。
中に入ると、カウンターに太った中年男性がいる。
「いらっしゃい。部屋は空いてるよ」
「二部屋、頼む」
ガルドが言う。
「一泊、銀貨二枚だ」
「分かった」
ガルドが銀貨を渡す。
「タクミの分も俺が出す。今回の戦闘、お前のおかげで助かったからな」
「……すまない」
俺は素直に礼を言う。
部屋に案内され、荷物を置く。
「じゃあ、飯でも食いに行こう」
ガルドが誘う。
宿の一階には、食堂がある。
そこで、簡単な食事を取る。
パン、スープ、焼いた肉。
シンプルだが、美味い。
「明日、ギルドに行こう」
ガルドが言う。
「タクミを正式に登録させる。それから、依頼を受けて金を稼がないとな」
治療費で金を使ってしまったから、すぐに稼ぐ必要があるらしい。
「分かった」
俺も頷く。
冒険者ギルド。
この世界での、新たな一歩。
「それと、タクミ。武器も買った方がいい」
ジンが言う。
「銃は強力だけど、近接戦闘には向かない。予備の武器が必要だ」
「そうだな……考えておく」
確かに、近接戦闘用の武器は必要だ。
ナイフだけでは心許ない。
「明日、武器屋にも寄ろう」
リーナが提案する。
食事を終え、部屋に戻る。
ベッドに横になり、今日一日を振り返る。
村を出て、オークと戦い、街に到着した。
銃の力も、少しずつ理解してきた。
だが――まだまだ、分からないことだらけだ。
この世界のこと。
《物理補助》のこと。
そして――俺が何をすべきか。
ゼリーが、ベッドの横でぷるぷると跳ねている。
「お前も疲れたか」
俺はゼリーを撫でる。
ひんやりとした感触。
ゼリーが嬉しそうに震える。
「明日から、また新しい日々が始まるな」
俺は静かに呟き、目を閉じる。
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