13話 帰還と、謎の武器
扉を開けた瞬間、背後から轟音が響いた。
ゴゴゴゴ……!
振り返ると、ダンジョンの奥から崩壊が始まっている。
「まずい!」
俺は全速力で走り出す。
天井から石が降り注ぐ。
壁がひび割れ、床が陥没していく。
ゴーレムを倒したことで、ダンジョンを維持していた魔力が失われたのか。
「《物理補助》……足元の摩擦係数、最大化!」
地面に手を触れ、靴底のグリップ力を極限まで高める。
崩れる床を蹴り、跳躍する。
石段を駆け上がり、入口へと向かう。
背後では、通路が次々と崩れ落ちていく。
そして――。
俺は外の光の中に飛び出した。
ドォォン!
背後でダンジョンの入口が完全に崩壊し、土煙が舞い上がる。
「……ギリギリだったな」
俺は荒い息をつきながら、崩れた入口を見つめる。
もう二度と、あの中には入れないだろう。
「タクミ!」
森の中から、ガルドの声が聞こえた。
三人が駆けつけてくる。
「無事だったか! 転移に巻き込まれたから心配したぞ!」
ガルドが俺の肩を掴む。
「ああ、何とか」
「リックは?」
リーナが尋ねる。
「お前たちが連れて帰ったんじゃないのか?」
「ああ、村に戻した。父親と無事に再会できた」
ジンが安堵の表情で答える。
「よかった……」
俺も胸を撫で下ろす。
「それより、お前、ボスと戦ったのか?」
リーナが鋭い目で俺を見る。
「……ああ。ストーンゴーレムがいた」
「一人で倒したのか!?」
ガルドが驚愕する。
「何とかな」
俺は短く答える。
詳しい戦闘内容は話さない方がいい。
《物理補助》の詳細を明かすのは、まだ早い。
「信じられねぇ……ストーンゴーレムを単独で……」
ジンが呆然とする。
その時、リーナが俺の腰に差してある銃に気づいた。
「それは……何?」
「報酬だ。宝箱に入っていた」
俺は銃を抜き、見せる。
三人が興味深そうに覗き込む。
「これは……武器か?」
「見たことない形だな」
「魔法の杖……にしては短いし、剣でもない」
三人が首を傾げる。
やはり、この世界では銃は見慣れないものらしい。
「銃、というらしい」
「ジュウ?」
ガルドが不思議そうに繰り返す。
「どうやって使うんだ?」
「こうやって、引き金を引くと……まあ、実際に見せた方が早いか」
俺は近くの木の幹を狙い、引き金を引く。
パン!
乾いた音と共に、青白い光の弾丸が発射される。
弾丸は木の幹に命中し――。
ドン!
木の幹に小さな穴が開いた。
「なっ……!?」
「今の、魔法か!?」
「いや、魔法陣も詠唱もなかった……」
三人が驚愕する。
「すげぇな、これ! 遠距離攻撃ができるのか!」
ガルドが興奮気味に言う。
「ちょっと、貸してみて」
リーナが手を伸ばす。
俺は銃を渡す。
リーナは銃を構え、同じように引き金を引く。
カチッ。
だが――何も起こらない。
「……あれ?」
リーナが困惑する。
もう一度、引き金を引く。
カチッ、カチッ。
やはり、何も起こらない。
「壊れてるのか?」
ジンが尋ねる。
「いや、俺が使えば撃てる」
俺は銃を受け取り、再び引き金を引く。
パン!
弾丸が発射され、また木の幹に穴が開く。
「どういうことだ……?」
ガルドが不思議そうに首を傾げる。
「使用者を選ぶアーティファクトなのかもしれない」
リーナが冷静に分析する。
「アーティファクト……ってことは、相当な代物だな」
「ユニーク等級らしい」
俺が答えると、三人の表情が変わった。
「ユニーク!?」
「マジかよ……」
「それ、下手したら国宝級の価値があるわよ」
リーナが真剣な顔で言う。
「あまり人前で見せない方がいい。盗賊や悪徳商人に狙われる」
「分かった。気をつける」
俺は銃を腰に戻す。
四人で村への帰路につく。
道中、ガルドが話しかけてくる。
「なあ、タクミ。お前、魔法は使えるのか?」
「いや、使えない」
「じゃあ、あの地面を滑らせたり、石を投げたりするのは……?」
「……特殊なスキルだ。魔法とは違う」
俺は曖昧に答える。
「魔法じゃない力、か。珍しいな」
ジンが興味深そうに言う。
「この世界の魔法って、どんなものがあるんだ?」
俺が尋ねると、リーナが答える。
「基本は四つ。火、水、土、風」
「それだけ?」
「ええ。魔法使いは、この四つのうちどれか一つ、もしくは二つに適性を持つのが普通。私は火と風の適性があるわ」
「全部使える人はいないのか?」
「理論上は可能だけど……聞いたことないわね。せいぜい二つか三つが限界」
ガルドが補足する。
「俺は魔法使えないからな。剣一筋だ」
「俺も魔法は使えない。弓の技術だけで戦ってる」
ジンが言う。
「魔法が使えない人も多いのか?」
「ああ。魔法の才能がある人は、全体の三割くらいかな。残りは俺たちみたいに、武器や体術で戦う」
なるほど。
この世界では、魔法使いは少数派なのか。
「でも、お前のスキルは……どの属性にも当てはまらないな」
ガルドが首を傾げる。
「確かに。火でも水でも土でも風でもない。一体、何の力なんだ?」
リーナも不思議そうに俺を見る。
「さあな。俺にもよく分からない」
俺は正直に答える。
《物理補助》が何なのか、この世界でどう位置づけられるのか。
それは、俺自身もまだ理解できていない。
「まあ、珍しいスキルってのは確かだな。大事にしろよ」
ガルドが笑う。
村に到着すると、村人たちが俺たちを出迎えた。
「タクミさん! 無事だったのか!」
トムが駆け寄ってくる。
「ああ。リックは無事か?」
「ええ、おかげさまで。本当に、ありがとうございました」
トムが深々と頭を下げる。
村長も現れ、俺たちに礼を述べる。
「君たちのおかげで、リックは助かった。そして、ダンジョンも崩壊したと聞いた。これで村は安全になる」
「よかったです」
俺は短く答える。
その夜、村ではささやかな祝宴が開かれた。
俺はガルドたちと共に、焚き火の周りで食事をする。
「タクミ、やっぱり冒険者にならないか?」
ガルドが再び誘ってくる。
「お前の力、絶対に役立つ」
「……もう少し、考えさせてくれ」
俺はまだ答えを出せない。
この世界のこと、《物理補助》のこと、まだ分からないことが多すぎる。
「まあ、急がないさ。気が向いたら、いつでも来いよ」
ガルドが気さくに笑う。
星空の下、俺は静かに考え続けた。
四属性魔法。
火、水、土、風。
そして――それらとは異なる《物理補助》。
この力は、一体何なのか。
そして、俺はこの世界で何をすべきなのか。
答えは、まだ見えない。
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