12話 報酬と、開かれし視界
階段を上り終えると、そこは小さな石の部屋だった。
部屋の中央には、古びた宝箱が一つ。
壁には出口らしき扉がある。
「……これは」
俺は警戒しながら宝箱に近づく。
さっきの部屋の宝箱は罠だった。
これも同じ可能性がある。
宝箱の周囲を観察する。
魔法陣の痕跡はない。床も壁も、特に異常は見当たらない。
「鍵穴があるな」
宝箱には錠前がついている。
開けるには鍵が必要らしい。
その時――。
ぷるん。
俺の背後で、何かが跳ねる音がした。
振り返ると――そこには、あの劣化したスライムがいた。
「……お前、ついてきたのか?」
スライムはぷるぷると震えながら、俺の方へゆっくりと近づいてくる。
敵意はなさそうだ。
というより、そもそも戦う力がなさそうだが。
スライムは宝箱の前まで来ると、その体の一部を伸ばした。
ぷるん、ぷるん。
まるで「これを開けろ」と言っているかのように。
「お前が……鍵なのか?」
俺はスライムを観察する。
スライムの体内に、小さな金属片が埋め込まれているのが見える。
「なるほど。お前は宝箱の『鍵』を守る番人だったのか」
スライムがぷるんと跳ねる。
肯定の意思表示らしい。
「じゃあ、開けてくれるのか?」
スライムは宝箱の鍵穴に体を押し当てる。
体内の金属片が鍵穴に収まり――。
カチャン。
錠前が外れた。
「……ありがとう」
俺は慎重に宝箱を開ける。
中には――二つの物が入っていた。
一つは、見たことのない形状の武器。
全長三十センチほどの、金属製の筒状の物体。
グリップ部分には複雑な魔法文字が刻まれ、銃身には青白く光る魔法陣が走っている。
引き金、弾倉らしき部分――これは、銃だ。
「銃……この世界に、こんなものがあるのか?」
俺は銃を手に取る。
ずっしりとした重みがあるが、グリップは驚くほど手に馴染む。
まるで俺の手に合わせて作られたかのような感覚。
そして、もう一つ――。
小さな立方体のキューブ。
一辺が五センチほどの金属製の箱で、表面には幾何学模様が刻まれている。
「これは……何だ?」
キューブを手に取ると、ほのかに温かい。
魔力を感じる。
だが、用途が分からない。
その時――。
銃のグリップに刻まれた魔法文字が、ほのかに光った。
そして、俺の視界に――文字が浮かび上がる。
【アーティファクト検出】
【名称:物理干渉拳銃】
【等級:ユニーク】
【効果:使用者の魔力を物理干渉弾に変換して発射。弾丸は実体を持たず無限に生成可能。着弾点を起点として使用者の《物理補助》スキルを発動・増幅できる。射程・持続時間・出力が大幅に向上する】
「……何だ、これは」
俺は目を疑う。
視界に、まるでゲームの画面のように情報が表示されている。
そして――。
【等級について】
この世界のアーティファクトは、以下の等級に分類される。
【コモン】:一般的な品質。通常の武器防具。
【アンコモン】:やや優れた品質。魔力が込められた装備品。
【レア】:希少な品質。特殊な効果を持つ。
【エピック】:伝説級の品質。強力な魔法効果を持つ。
【ユニーク】:唯一無二の品質。世界に一つしか存在しない特別な効果を持つ。
【レジェンド】:神話級の品質。神々の時代に作られた至宝。
【ディヴァイン】:神代級の品質。神そのものが創造した究極の宝物。世界に数個しか存在しない。
「ユニーク……」
つまり、この銃は――世界に一つしかない。
そして、俺の《物理補助》と完全に相性が良い。
いや、この銃は《物理補助》のために作られたと言ってもいい。
「着弾点を起点に、物理補助を発動できる……」
つまり、遠距離から弾丸を撃ち込めば、接触しなくても効果範囲を広げられる。
これがあれば――さっきのゴーレム戦は、もっと楽に戦えたはずだ。
「それで、このキューブは……」
キューブにも目を向ける。
すると――。
【名称:不明】
【等級:???】
【効果:解析不能。魔力反応あり。用途不明】
「……分からないのか」
謎のままだ。
だが、何か重要なアイテムである可能性は高い。
俺はキューブをポケットに仕舞い、銃を腰のベルトに差す。
「よし、これで――」
その時。
突然、視界が歪んだ。
「!?」
俺の視界全体が、急に変わる。
まるで、画面が切り替わったように――。
そして、俺の前に――巨大な半透明のパネルが現れた。
【ステータス画面】
そして――頭の中に、あの神に似た声が響く。
『ステータスを表示します』
冷静で、機械的な声。
だが、確かにあの神の声に似ている。
俺の目の前には――。
【名前:タクミ】
【レベル:1】
【職業:なし】
【HP:110/110】
【MP:80/80】
【スキル:《物理補助》】
【ステータス】
筋力:12
体力:11
敏捷:14
知力:18
魔力:8
【称号:ダンジョン単独制覇者】
【取得条件:単独でダンジョンボスを撃破】
【効果:全ステータス+2】
「……これは」
俺は呆然とする。
まるで――ゲームのような画面。
ステータス、レベル、称号、HP、MP。
「この世界は……そういう仕組みだったのか」
神は言っていた。
「別に、レベルが上がるとか、ステータスが可視化されるとか、そういう分かりやすいシステムはない」
だが――今、目の前には確かにステータスがある。
「嘘だったのか? それとも……」
俺は考える。
もしかしたら、このシステムは――最初から全員に与えられているものではない。
特定の条件を満たした者だけが、使えるようになる。
そして、俺は――ダンジョンのボスを単独で倒したことで、その条件を満たした。
「つまり……」
俺は静かに呟く。
「これから、本当の『転生』が始まるのか」
視界のステータス画面は、まだ消えない。
俺は銃を握りしめ、出口の扉を見つめる。
ガルドたち、リック、村人たち。
みんな無事だろうか。
そして――この先、俺はどう生きていくのか。
《物理補助》、ユニーク武器、そしてステータスシステム。
全てが揃い始めている。
「行くか」
俺は扉に手をかけ、押し開く。
まばゆい光が差し込む。
外の世界が、俺を待っている。
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