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ハズレスキル《物理補助》、気づけば世界最強でした  作者: 松竹 ウメ


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10話 石の迷宮と、孤独な転移

石段を降りると、そこは薄暗い石造りの通路だった。

松明の光が、湿った壁を照らす。

壁には複雑な魔法文字が刻まれ、かすかに青白く発光している。


「魔力が残ってる……古代遺跡にしては保存状態が良すぎる」


リーナが警戒しながら壁を観察する。


「つまり、危険ってことか?」

「ああ。罠や魔物が機能している可能性が高い」


俺たちは慎重に通路を進む。

ジンが床や壁を注意深く見ながら先導する。


「罠の痕跡はないが……油断はできないな」


十分ほど進んだところで、通路が二手に分かれた。


「どっちだ?」


ガルドが尋ねる。

リーナが床を見る。


「右だ。砂埃に小さな足跡がある」

「リックか……」


俺たちは右の通路を選ぶ。

さらに進むと、突然、ジンが手を上げて止まった。


「待て。何かいる」


通路の奥から、カサカサという音が聞こえる。

そして――現れたのは、巨大な蜘蛛だった。

体長は一メートル以上。八本の脚には鋭い棘が生えている。


「ケイブスパイダーだ!」


リーナが叫ぶ。

蜘蛛が糸を吐き出す。

ジンが横に跳んで避け、矢を放つ。

矢は蜘蛛の頭部に命中するが、硬い外殻に阻まれる。


「硬い! タクミ、例の技を!」


ガルドが前に出る。

俺は頷き、地面に手をつく。


「《物理補助》……床面の摩擦係数、低下」


蜘蛛の足元だけを滑りやすくする。

蜘蛛の脚が滑り、バランスを崩す。

まるでアイススケートリンクに放り出されたかのように、八本の脚が四方八方にずれていく。


「……なんか、ちょっと可哀想な絵面だな」


ジンが呟く。

その隙にガルドが腹部に剣を突き立てた。

蜘蛛が悲鳴を上げ、動かなくなる。


「よし、先を急ぐぞ」


通路をさらに進むと、今度は小さな部屋に出た。

部屋の中央には、不自然なほど綺麗に配置された宝箱がある。


「……怪しいな」


俺が呟く。


「宝箱だ! 開けてみようぜ!」


ガルドが興奮気味に近づこうとする。

リーナが腕を掴んで止める。


「バカ、罠に決まってるでしょ」

「で、でも、もしかしたら本物かもしれないだろ?」

「その『もしかしたら』で死んだ冒険者がどれだけいると思ってるの」


リーナが冷たく言い放つ。

俺は周囲を観察する。

床、壁、天井――全てに魔法陣の痕跡がある。


「これは……トラップ複合型だな。宝箱に触れた瞬間、部屋全体が何らかの魔法で満たされる」


俺が分析する。


「じゃあ、どうする? 無視するか?」

「いや、通り抜けないと先に進めない。宝箱を迂回するしかない」


俺たちは慎重に壁沿いを歩き、宝箱に触れないように部屋を横断した。

出口に辿り着いた瞬間――。

ガタガタガタ!

宝箱が勝手に開き、中から小さなスライムが飛び出してきた。


「うわっ!?」


ガルドが剣を構える。

だが、スライムは俺たちに向かってくることもなく、ぷるぷると震えながらその場に留まっている。


「……なんだこれ」


ジンが困惑する。


「擬態型の罠……だったのか? それとも、ただの見せかけ?」


リーナも首を傾げる。

俺は冷静にスライムを観察する。


「いや、これは『番人』だ。宝箱を守るために配置された魔物。ただ、数百年経って劣化したんだろう。もう戦う力はない」

「……なんか、切ないな」


ガルドがしみじみと呟く。

スライムは俺たちが去っても、ただぷるぷると震え続けていた。

さらに奥へ進むと、開けた空間に出た。

そこは――小さな広間になっていた。

そして、その隅で震えている小さな影。


「リック!」


ガルドが駆け寄る。

十歳ほどの少年が、怯えた顔でこちらを見ている。


「お、おじさん……?」

「大丈夫だ。お前の父さんが心配してる。すぐに帰るぞ」


ガルドが優しく声をかける。

リックが泣きながら頷く。


「ダンジョンって、宝物があるって聞いたから……探しに来たんだ。でも、怖くて……」

「バカ野郎。こんな危険な場所に子供が来るもんじゃない」


リーナが呆れたように言うが、その目は優しい。


「よかった……無事で」


俺も安堵の息をつく。


「さあ、早く戻ろう。ここは危険だ」


リーナが促す。

俺たちはリックを中心に、来た道を戻り始めた。

だが――。

広間の出口に差し掛かったとき、俺の足元が光った。


「!?」


床に描かれた魔法陣が発光する。


「タクミ、動くな!」


リーナが叫ぶ。

だが、遅かった。

光が俺の体を包み込み、視界が真っ白になる。

浮遊感。

内臓が浮き上がるような感覚。

そして――気づいたときには、俺は全く別の場所に立っていた。


「……転移、か」


周囲を見回す。

ここは、先ほどまでいた広間とは全く違う。

天井は高く、広大な空間。

中央には巨大な石像が立ち、壁には無数の魔法文字が刻まれている。

そして――石像の前に、何かが蠢いていた。


「……まずいな」


それは、巨大な石の魔像だった。

高さは三メートル以上。全身が岩で覆われ、目だけが赤く光っている。

ストーンゴーレム。

ダンジョンの番人として配置される、強力な魔物だ。

ゴーレムがゆっくりと俺の方を向く。


「一人で、あれと戦うのか……」


俺は深く息を吸い、ナイフを構える。

物理法則を武器にする俺にとって、最悪の相手だ。

だが――やるしかない。

「来い、石ころ」

俺は静かに、戦闘態勢に入った。

お読みいただきありがとうございます。

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