1話 ハズレスキルと神の誤算
死んだ。
……らしい。
痛みがない。恐怖もない。ただ、理解だけがあった。
視界が白い。どこまでも均一な白。床も、天井も、距離感すら曖昧だった。
「…………」
声を出そうとして、違和感に気づく。喉の感覚がない。なのに、声は出た。
「……ここ、どこだよ」
「目覚めましたか」
背後から声。振り返る。そこにいたのは――神だった。としか形容できない存在だった。性別のない顔。年齢のない瞳。作り物のように整った存在。だが、何より異質だったのは、感情が一切読み取れないことだった。
「あなたの死亡を確認しました」
あまりにも事務的な声。謝罪も、哀悼もない。
「……は?」
「処理上の問題により、あなたは本来の寿命を満たさず死亡しました」
処理。問題。まるでシステムエラーの説明だ。
「補填としてスキルを付与します」
空間に光が走る。目の前に文字が浮かぶ。
《付与スキル》
《物理補助》
「………………」
「………………」
「……は?」
思考が止まる。数秒。
「いや待て待て待て待て。今の流れでそれ?」
「問題はありません」
神は即答した。一切の間もなく。
「最低評価スキルですが」
「最低って言ったよな今」
「評価基準は絶対です」
淡々。無機質。揺らぎゼロ。
「引き直しはできません」
「いやいやいやいやいや。ちょっと待て。おかしくない?」
「仕様です」
即終了。……おかしい。絶対におかしい。
「なんで俺だけハズレ確定なんだよ」
神は初めて、わずかに首を傾げた。
「ハズレ?」
その瞬間。初めて違和感が走る。
「《物理補助》は、補助系最下層スキルですが?」
「いや最下層ならハズレだろ」
「理解できません」
神の瞳に、ほんの僅かなノイズが走った。
「……あなたは、なぜそう判断したのですか?」
空間の白が揺れる。世界のどこかで、何かが噛み合っていない気がした。
「なぜって……補助系最下層ってことは、効果が微々たるものだってことだろ? 攻撃力1.1倍とか、移動速度が数パーセント上がるとか。そんなの、他のチートスキルに比べたらゴミ同然じゃないか」
俺の言葉に、神は無機質な声で補足した。
「《物理補助》の基本性能は、接触している対象の物理現象に対して、極めて限定的な補正を加えるものです。数値的な影響力は、他のスキルと比較して最低ランクに設定されています」
「ほら見ろ、やっぱりハズレじゃないか」
「しかし、このスキルには『制限』がありません」
「制限?」
「干渉対象の『種類』に対する制限です。多くのスキルは『魔力』や『生命力』といった特定のエネルギーを介しますが、《物理補助》は物理現象そのものに直接干渉します。接触しているという条件さえ満たせば、微細ながらも『直接』介入できるのです」
俺の脳内に、前世で学んだ物理学の知識が駆け巡る。
微細な介入? 数値的な影響力が低い?
だが、もしそれが、物理法則の根幹に触れるものだとしたら……。
「……わかった。文句はない。そのスキルでいい」
「承諾を確認。これより転送を開始します。あなたの行動が世界にどのような影響を与えるか、観測させていただきます」
視界の白が、爆発的な光に変わる。
唐突な睡魔に襲われ、膝から崩ら落ちた。
「何だ。……こ…」
「言い忘れていましたが、今………」
意識が遠のく中、神の口角は上がっていた。
次に目覚める場所で、俺はこの「ハズレスキル」を使って、神の想定すら超えてやる。
世界法則を、ぶち壊してやる。
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